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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File11 学校の七不思議♯6

めちゃくちゃ夏休み過ぎて秋休みに突入していました!ごめんなさい!大変遅くなりましたが、また更新再開します!

 土御門先生の車で病院に向かい、通された病室には、翔瑠君のご両親と小さい弟君、そして目を覚まさないお兄さんがいた。

「翔瑠……」

 振り返ったご両親は疲れきった顔をしている。

「なんで……」

 翔瑠君はふらふらとベッドに眠るお兄さんに歩み寄る。

「おにーちゃん!あのね、おにーちゃんおきないの。もうがっこにいかなきゃいけないのに」

「元気……」

 状況を理解できない弟君の声が病室で無邪気に響き渡る。

「屋上から飛び降りたと。幸い、植木がクッションになって、そこまで外傷は酷くないそうなんだが……」

 翔瑠君のお父さんが努めて冷静に話しているのが伝わってくる。

「嘘よ、この子が飛び降りなんて……」

 お母さんは取り乱し遂に顔を覆ってわっと泣き始める。

「兄ちゃんがそんなことするわけ……。昨日、最後、会ったときだって……、そんな、違う!違う!俺じゃない!」

「翔瑠、落ち着きなさい」

「違う!違うんだ!こんな事望んでっ」

 今にも泣き出してしまいそうな翔瑠君の口に人差し指を添えると、グッと黙り込んだ。

「ここにいる人は、少なくとも翔瑠君が悪いなんて思ってないよ」

 誰かが悪意を持ってこんなことをしたのなら、あたしがすることは一つ。

「隼世さんを酷い目に遭わせた犯人を、必ずや私が突き止め、それ相応の罰を下します」


 颯爽と病室を出たあたしは、トランシーバーのスイッチを入れる。心の奥底からふつふつと怒りが湧いてくる。

「ねぇ、研究室は何か掴んでんじゃないの?」

『なんだよ。久しぶりに起動したかと思えば』

 応答したのはすけさんだった。

「質問に答えて。研究室は今回の件、調べてないの?」

『あんまり感情的になるな』

「もういい。研究室が動かないならあたし1人でも行く」

『早まるなって』

 すけさんはまだ話の途中のようであったが、トランシーバーのスイッチを切った。最初から疑ってかかるべきだった。怪我人が出ている時点でもっと慎重になるべきだった。あたしの失態だ。こうなれば、現場を片っ端から調べるしかない。足早に病院から出ると病院のロータリーにテレビのロケバスのような車が1台止まっていた。その横を通りがかった時、突然ドアがバーンと開け放たれた。

「お嬢さん、そんな急いで何処へ行く?」

 一瞬誘拐犯かとドキッとするセリフを吐いたのはタオだった。

「抜け駆けはダメだよ」

 ひょこっと雨も後ろから顔を出す。

「まだ終わってねぇのに電源切るとか失礼なやつだな。早く乗れ。仕事だ」

 運転席側の窓が開いてすけさんが呆れたように言う。


 ロケバスの中は狭い会議室のようになっており、長方形のテーブルが置かれていた。その真ん中に小さなキューブが置かれ、頭上に大洗市の地図が映し出している。

 今回の同行者である謎のゴーグルで目を覆う謎の研究員、通称Eは特になんの反応もなく、数箇所を指差すと丸印が現れた。実体がないはずなのにまるでタッチパネルのようだ。

 まさかの近未来SFのような展開に、非常事態だと言うのに驚きで開いた口が塞がらない。

「こ、これはどういう原理なんでしょうか」

 神社畑の雨は驚きを通り越して怯えている。

「最新鋭の技術を搭載したモニターです」

 そりゃ最新鋭だろうよ。Eはそれ以上このモニターについて説明するつもりがないようで淡々と続けた。

「被害は大洗市の小中高の学校の敷地内になります」

「他の学校でも救急車沙汰になったの?」

「はい、それも一斉に。特に被害が顕著だったのは大洗中から半径5キロ圏内にある東中学校と大洗高校です」

「逆に大洗中はなんともなかったんだよね」

「一斉攻撃を仕掛けられたわけ。集団での行動かしら?」

「そこでその辺詳しそうな方を呼びました」

 Eが机の下に視線を向けるとひょこっとそれは顔を表した。

「イタチじゃん」

「お久しぶりです!江利様!!桃原さん!!」

「彼が噂のコーディネーターですね!初めまして、私雨宮時雨っていいます」

「雨宮さんのお噂はかねがね!龍神様と龍之介様はお元気ですか?」

 龍之介とはあの凛(トカゲ)のおっかないじいちゃんの名前だ。まさか知り合いだったとは。

「はい!お二方とも息災であらせられます」

「京都のお話を聞いてまたまた新作を製作中なんです。今度は巫女服をテーマにしておりまして……」

「続けていただいても良いでしょうか?」

「あわわ!すみませんEye(あい)さん。久しくお会いしていなかったものですからつい」

「鼬さんは今回の件にある妖怪が関わっているのではないかと疑っているのです」

 イタチは少し顔を曇らせた。

「私としては、信じたくないのですが、雲外さん一族が関わっているのではないかと」

「雲外さん?誰それ?」

「鏡の妖怪一族です。鏡に取り付いて、彼らは鏡の中を自由に行き来できるんです。今回被害が広範囲に及んだのもその能力を駆使したからではないかと思いまして」

 誰かと思えば雲外鏡のことか。日本古来に伝わる付喪神の一種で鏡に宿ることくらいしか知らない。

「雲外鏡って何か悪さするっけ?あんた達鎌鼬と違ってそんな伝説ないと思うけど」

「私だってあのときは若殿の瘴気に当てられただけなんです!雲外さんは皆さん温厚で、私が一人で上京した際も大いに助けていただきました。そんな彼らが……」

「別人なんじゃないの?」

「私もそう思いたいですよ。ですが、この事件から推察するに雲外さん達が最有力の容疑者なんです。まず大洗市の学生さん達を巻き込んだ異変。これは雲外さんの能力である鏡と鏡を渡り歩けば造作もないことのはずです。そして、鏡に閉じ込められたという証言、言わずもがな雲外さんが人間にいたずらする時の手口に似ています」

「だが鏡だけで飛び降りはできないだろう」

 イタチの言いたいことが分かってきた気がする。

「あんたと翔瑠君のときみたいにっていいたいのね。つまり誰か雲外鏡に悪影響を与えていると」

「はい。鏡に閉じ込めるのだって鏡に悪さをした人を懲らしめるためなのです」

 高校生は知らないが中学生は鏡に悪さはすると思う。前に大喧嘩して粉々にしていた奴もいた。

「それに桃原さんが仰った通り、雲外さんは幻覚を見せたり精神を操ったりするような術は扱えません。誰かが雲外さんを利用して被害を拡大したとしか」

「直接確かめるしか方法はありませんね」

「居場所の検討はついてるの?」

 道路を走っていた車が止まった。

「検討も何も犯人達は現場から一歩も歩いてないのです」

 Eはそう言って、車の扉を開けた。そこは1週間前に来た大洗中の校門前だった。

「犯人はこの学校の鏡の中に住み着いています」

「鏡の中ってどうやって入るんですか?入口は妖術師であっても一握りしか操れませんよ」

 雨曰く、本来であれば現世と幽世の入口は離れたところにあるらしいが、鏡は特殊で2つの世界の入口が重なっているらしい。だけど普通に入っても人間は現世しか行き来できないから、ちゃんと難解な手順を踏まないと鏡を壊すだけになるという。

「流石れっきとした神の遣いだ。タオ、これ持ってろ」

 運転席から降りてきたすけさんがタオに紫色の鏡を渡す。

「なんで私にこれを渡すんだ!20歳までに忘れられなかったらどうしてくれるんだ!」

「今は色んな生き方があるんだからいいじゃねぇか。俺だって今の今までずっと覚えてたぜ」

「もうお嫁に行けない……」

 すけさん(彼女いない歴8年24歳独身)の言葉がとどめを刺したらしく、タオはしくしくと泣き始め、雨が慰める。この程度の都市伝説を信じるなんて先が思いやられる。だいたいこれが本当だったら日本はとっくに少子化超えて消滅している。

「こんな鏡でなにか出来るの?」

「だから持ってきたんだろうが。技術は極秘だが、雲外鏡のようなことを多少はできる。鏡と共鳴して幽世側の入口をこじ開けたりな。使い方は簡単。合わせ鏡をすればいいだけだ。ただし、耐久はそんなにないからせいぜい3回が限界だろうな。世界でたった1つしかないんだから、落として壊すなよ」

「鏡の中に入って犯人がコーディネーターの言った通り、雲外鏡であった場合、攻撃するとを跳ね返してくる危険があります。なるべく戦闘を避け、この白い布を被せてください。各神社の御加護が付いています」

「跳ね返してくるなら割れるまで攻撃するだけよ。落とし前はきっちりつけてもらわないと」

 するとすけさんからデコピンを喰らわされた。結構痛い。

「なにすんのよ!」

「感情的になるな。つけ込まれる」

「ここは慎重に行くべきだ!」

「3人で力を合わせて解決しましょう!」

「私もいますからね」

「……うん」

 心強いが、困ったことに怒りというのはなかなかに厄介な代物である。

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