File11 学校の七不思議♯5
「だからぁ、マジで見たんだって!人体模型が全力疾走しているところを!」
翌日、胃がムカムカするのを耐えながらも登校すると、菅原が結束と荒崎に絡んでいた。
「そうは言われてもねェ」
荒崎は優等生スマイルを浮かべているが、明らかに面倒くさそうな態度である。するとあたしの事を見つけ、しめたぞという顔をした。
「おはよう、部長いい朝だね」
朝一お前と目が合った瞬間から、あたしは最悪な朝だよ。
「菅原君が部長にお話があるみたいなんだ」
「なによ。今朝のあたしは昨日のジャンボパフェで既にHPがマイナスなんだけど」
「あのずっと水沢さんがうるさかったでっかいパフェ?!食べちゃったの?!」
結束の声が胃に響く。
「そんなことはどうでもいいんだよ!人体模型だよ、人体模型!動いたんだって!」
「そりゃ人体模型だって動きたくなるときくらいあるでしょう。態々騒ぐことじゃないわ」
「お前信じてないな!目撃者もいるんだぞ!」
「あのね、菅原や。オオカミ少年の羊が、なんで一匹も残らなかったか知ってる?」
「なんでって、狼が全部食ったからだろ?」
「0点」
この回答には、流石の結束も苦笑いを浮かべている。正負の数だのリトマス紙だのの前に道徳をやるべきだと常々思う限りだ。
ベストタイミングで朝の朝礼が始まるチャイムが鳴り、菅原はボヤきながらも自分のクラスに戻って行った。菅原は大洗中の話をどこかで聞いたのだろうか。
「今朝の菅原はなんだったんだ?」
放課後、文芸部室で各々の活動を行っていると、荒崎が思い出したように言った。
「トラブルメーカーの菅原さんがまた何かしたんですか?」
一ノ瀬君が興味深そうに聞き返す。
「人体模型が動いたとかって」
「それはまた、奇妙な話ですね。そういえば水沢さんも、昨日怪奇現象を解決しに行くとおっしゃっていましたが」
「ただの都市伝説巡りで終わったわ。でも人体模型の話は一切出てこなかったわよ」
「菅原さんのいつもの都市伝説ですかね」
「あいつはやり過ぎなんだよ」
文芸部員達は菅原の話を全く信じていないようであった。まぁ新入部員を度々幽霊ネタで脅かしているようだし、しばらくオオカミ少年気分を味わうべきだ。だが、菅原に意外な味方がいた。
「菅原君の話ではないんだけれどさ、僕も見ちゃったんだよね、幽霊」
荒崎がピタッと固まる。
「いや!そんな確かってわけじゃないんだけど、僕今日日直だったから、理科室の鍵を開けているときに……」
なんだか寒気がしてきた。なんで結束までこんなこと言い始めたんだ。
「理科室の鍵を開けているときにどうしたんだよ」
「髪の長い……、銀色の……、髪、長い……、」
「結束?」
それまで普通に話していた結束の目つきが変わった。虚ろで焦点が定まっていない。
「我々は、必ず……、……報いを、髪が、銀色の……」
慌てて駆け寄った荒崎を突き飛ばし、結束は突然窓を開け、サッシに飛び乗る。そのまま直立不動で……
「ちょちょちょ!あんた何やってんのよ!」
近くにいたあたしが間一髪のところで押さえつける。が、それでも結束は飛び降りようとする。
「結束さん!」
一歩遅れて一ノ瀬君と御書が結束の制服を掴んだ。
「凪!どうしたんだよ!!」
呆けていた荒崎が来たことで、なんとか四人がかりで結束を引き上げることが出来た。
「僕は、見たんだ……、人体……、髪……」
それでも結束は虚ろな目でぼそぼそ唱えており、再び窓に近づこうとする。
「このままではまた同じことが起きる。縛り付けておくべき」
御書が喋った!なんて感動している場合ではなく、荒崎が取り押さえている間、あたしと一ノ瀬君で縛れるものを探す。
「こ、これで一旦は大丈夫かしら?ちょっと可哀想だけど」
新聞の縛り紐とガムテープでぐるぐる巻きにされて椅子に拘束された結束は、それでもなお何やらブツブツ言っている。
「凪はどうしちまったんだ」
『待て!早まるな!』
廊下から突然叫び声が聞こえた。
『突然どうしたんだよ!』
あたしは部室から恐る恐る廊下に出る。そして目に飛び込んできたのは、先ほどの結束のように階段から飛び降りようとしている生徒とそれを止める生徒の姿だった。
「少し不味いことになりましたね」
外を眺めていた一ノ瀬君がボソリと呟いた。再び部室に戻って、一ノ瀬君と同じ方角を見ると教室の窓のあちこちから今にも飛び降りようとしている生徒が何人もいる。
「なに、これ……」
「少なくとも集団ヒステリーではない。明確な悪意が介在している」
あたしの隣にいつの間にか来ていた御書が淡々と告げる。
「明確な悪意って?なんであんたには分かるの?」
御書を問い正そうとしたとき、
「鬼塚君!鬼塚君はいますか!」
土御門先生が叫びながら校庭に飛び出してきた。翔瑠君を見つけて、肩に手を掛けながら諭すように話しかける。その瞬間、周囲の騒音は遠くに消え、土御門先生の声だけがはっきりと聞こえた。
「落ち着いて聞いてください。親御さんからつい先程連絡があって、……お兄さんが学校の屋上から飛び降りたそうです」
反射的にあたしは走り出していた。
「気をつけて」




