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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File11 学校の七不思議♯4

「安請け合いして良かったのかしら?こんなに事件は起きてるのに手がかりのひとつもないなんて」

 事件と言うべきかどうかも怪しいが、ここは事件ということにしておく。

「だからと言って放っておくわけにもいかないだろう」

「まぁそうなんだろうけどさ」

「すぐ解決するものじゃないよ。私もこれからは注意して見ておくようにする。」

「私はすけさんに報告しておく」

 2人のおかげであたしの仕事はなくなった。

「よろしく。期末の時期に大変ね」

「嫌なこと思い出させないで!」

「そうだ!二人ともこの後予定はあるか?今から寿司屋に行くんだが」

「タオちゃんの家の事だから、全部時価なんだろうねぇ」

 回るヤツだが、桃原家のイメージのためにも黙っておく。それでも300円超のイクラとかパフェとか食べ放題なんだろうな。

「でも残念。私これから委員会があるんだ。また行こうねぇ」

「折角だけど、あたしも今日家事当番なの」

「そうか。残念。また行こう!」

 タオと雨に別れを告げて、あたしは家に向かって歩き出した。


 今晩は何にしようかと悩んでいると、翔瑠君の後ろ姿が見えた。

「おーい!かけ……」

 声をかけようとしたら、思い詰めた表情をして、こちらに気がつくことなくカフェに入ってしまった。

 しかも名物の超ジャンボパフェがあるところではないか。食べきっても残しても11,000円の支払いで、食べきったらビッククリームソーダが無料で付いてくる。あたし達の小遣いでは到底頼めないので、食品サンプルを眺めるに留まっている。

 そんなところに一人で?いや、真面目な翔瑠君のことだから、学校帰り中学生だけの寄り道禁止の校則を守っているはずなので、待ち合わせをしているのだろう。まさかその誰かと抜けがけをしようとしているのではないか。それはちょっとズルくない?

 制服のままだし、後日面倒なことになりそうではあるが、由々しき事態だ。そんなこと言ってる場合では無い。あたしは翔瑠君に続いて店に入り、気が付かれないようにそっと翔瑠君の後ろの席に座った。店員さんに後から親が来ますと適当に言ったら、メニューを持ってきてくれた。

「用ってなんだよ。」

「よ、用なんか無くてもいいだろ。家族なんだし」

 男の人の声が聞こえる。どことなく翔瑠君に似ているような。どうやら見知らぬ女と浮気ではなかったようだ。だが、ジャンボパフェ独り占めの疑惑はまだ残っている。

「ほら、今日は兄ちゃんの奢りだ」

「じゃあこれ」

 お兄ちゃん?!お兄ちゃんだと?!お兄ちゃんってあの?!あたしが驚いている間も二人は会話を続ける。

「何をしたって俺は家に帰らないから」

「母さんも父さんも、心配してたぞ」

「見え見えの嘘つくなよ。あの人達は俺のことなんかどうでもいい。お前だってそうだろ。面倒なことになる前に来ただけで」

「翔瑠、違うんだ。2人とも本当にお前が心配で。あのときだって、変な集団に翔瑠が連れて行かれたと……」

 盗み聞きしていることに今更罪悪感が湧いてきた。翔瑠君の家庭事情は前から聞いてはいたけれど、実際目の当たりにすると甘く考えていたことを痛感する。

「俺は!お前みたいに期待されたことなんてなかった!」

 翔瑠君は突然声を荒らげた。店員さんもお客さんも一斉にそっちを向く。

「どんなに頑張ったって一度も褒めてくれなかった!元気みたいに、あんな優しくされたことなんか、一度も!!」

 お兄さんは慌てふためき、翔瑠君を宥める。

「ご、ごめん。兄ちゃんが悪かった」

「帰る」

「待ってくれ、まだ話が」

「あの、お客様……」

 店員さんが困り顔で料理を持ってきた。あたしも立ち上がってこの場を収めようとしたが、目に飛び込んできたのは夢にまで見たジャンボパフェ。これでもかと積み上げられたバニラとイチゴのアイスに、ホイップクリームが致死レベルまでに添えられている。

「独りでジャンボパフェは狡くない?」

『翔瑠君、大丈夫?』

 しまった。心の声と建前が逆になってしまった。

「誰?」

 店員さんもお兄さんも怪訝な顔だ。そりゃそうだ。後ろの席から女子が突然頼んだメニューに難癖を付ければこうなる。恥ずかしくなって翔瑠君のほうを見ると、声を殺して爆笑している。ここは帰ろう。出口に足を向けようとすると、翔瑠君が口を開いた。

「大きな声を出してすみません。約束していたんです」

 店員さんは困惑しながらも、ジャンボパフェを机に置いてそそくさと行ってしまった。あたしは促されるまま奥の席に押し込められ、翔瑠君が隣に座った。

「抜け駆けしないか付けてたの?」

「たまたま!偶然見かけたの!本当だよ?」

「これいいよ、俺甘いのあんま食べないし」

「えっ」

「ほんと?ほんとに?ほんとのほんとにいいの?!」

「いいって」

 夢が目の前にある。あたしはホイップをすくって口の中に入れる。甘みが口の中に広がって、これはもう戻れない。

「えーとこの子は?友達?」

「クラスメイト」

 お兄さんの声にパフェにがっついていたあたしは正気を取り戻す。

「ご、ごめんなさい!翔瑠君と同じクラスの水沢江利です」

「翔瑠の兄の隼世(はやせ)です。いつも弟がお世話になっています」

「いえ、こちらこそ。すみません、お邪魔しちゃって。これ食べたら帰ります」

 あたしはピタリと手を止めた。食べたとして、払えるのか?手持ちは今1000円だ。色々な考えがよぎる。御手洗に行くふりをして逃げるか、電話をするふりして逃げるか。これでは駄目だ。翔瑠君からの信頼も失墜しかねない。それか一生皿洗いをここでするか。

「今日はコレの奢りだから、気にしなくていいよ」

「そういうわけにはいかないって!」

「なんでも奢るって言ったよなお前」

「あ、え、あぁ」

 お兄さんに対して、翔瑠君が『コレ』とか『お前』呼びで見たこともないくらい冷たいのが気になるが、かけるべき言葉が浮かんでこず、パフェと共に飲み込むしか無かった。

「本当に一人で食べきっちゃったんだけど……。賞品のクリームソーダもそこそこ大きかったよなぁ?!この子何者?」

 あれからあたしはスイッチが入ってしまい、気がつけば目の前には空のグラスが2個置かれていた。

「美味しかった?」

「美味しかった!!」

「じゃあ帰ろうか」

 翔瑠君に手を握られ、引っ張られるまま席を立つ。と、お兄さんが呼び止める。

「ま、待って!翔瑠!ちゃんとみんなで話しを……」

「必要ない。俺の居場所はあの家じゃなかった。それだけ」

「翔瑠君、いいのそれで?あたしには、お兄さんがその場凌ぎで呼び出したようには見えないのだけれど。話を聞くだけでも……」

「江利には関係ないよ」

 握っている手に力を込められる。

「それにもう終わったんだ。帰ろう」

 お兄さんにお礼も言えずに、あたしは翔瑠君に引っ張られながら店を後にした。


「用事は終わったの?肖像画の目玉が動いたって」

「うーん、なーんの進展もなかったよ」

「そうか。ま、そのうちなんとかなるでしょ」

「そうだといいんだけど」

「だけどまさか一口もくれないとは思わなかったなぁ」

「ごめん!スイッチ入っちゃって」

「ふふっ、気にしないで。甘いのそんなに食べないし。てか夕飯食べられる?」

「き、今日はいいかな。夕飯はちゃんと作るから、だからお願い!ミケに取り繕ってくれない?お菓子ばっか食べて夕飯残すとすっごい怒ってくるの」

「しょうがないなぁ。宿題も文句言わないでやるならいいよ」

「えっ」

「じゃあ交渉決裂だ」

「んもぅ、わかったよ〜!!」

 帰り道、翔瑠君は何事も無かったかのように振る舞う。あたしもそんな翔瑠君にわざわざ家族の話を掘り返すことも出来なかった。


 ーあたしと翔瑠君は、この時のことを後悔することになる。

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