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水沢江利の怪事件簿  作者: 袖利
中学校二年生編
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File11 学校の七不思議♯3

「ここが音楽室」

 許可証を首から下げ、あたしとタオは3階の音楽室に案内された。五線譜が予め印字されている黒板、黒板の前の大きなグランドピアノに机と椅子。どこにでもある普通の音楽室だった。一際目を引きつけるのは、教室の隅っこに追いやられた白い布が覆いかぶさった何か。

「個人情報でもあるし、過呼吸になった女子生徒をAとしよう」

 最もらしいことを言って、ユウキは探偵ごっこをしたいだけだ。

「Aはいつも通り放課後音楽室で部活をしていた。どうやら吹奏楽部はコンクールも近いらしく、その日は机を後ろに引っ込めて音楽室で合同練習をしていた。Aの過呼吸は演奏が始まってすぐのことだった。ちなみにAは喘息もアレルギーもない」

「その後に、次の日に部員にも波及していったのね」

「そうだ。パートごとに分かれている間にな。町田のクラスで練習してたのが1人ぶっ倒れたんだっけ」

「低音パートがうちの教室を使っていて、休憩の時に。確か前日倒れたAの話をしている最中だった」

「問題のベートーヴェンは?」

「これだよ」

 そう言って雨は、白い布を取り外した。そこには教科書に載っている肖像画と寸分も違わないベートーヴェンだった。

「犯人のお出ましか!」

 タオはワクワクを隠さずに声を弾ませる。

「このベートーヴェンの目が動いたとか」

「その話でずっと持ち切りだったんだよね。この肖像画は本当だったら黒板の上に飾ってあったんだよ。大騒ぎになってからは隠されちゃったけど」

 雨が指さした黒板の上には、一箇所だけ周りよりも白いところがあった。それも丁度額縁と同じくらいの大きさだ。

「ベートーヴェンの目が動いた時はどんな反応だったの?」

「花園さん……、Aさんが騒いだのは突然だった。篠笛のテストを受けてる時だったね。先生はふざけてるんだと思って怒っていたけれど、あの顔は嘘ついているようにも見えなかったなぁ」

「雨の他人の評価は信用ならないんだけど」

 人当たりが良過ぎて、多くの人間は善人だと思ってる節がある。敵味方関わらず。

「あいつはクラスでも大人しいやつだった」

 町田がぶっきらぼうに話す。

「他に見た人はいないの?黒板のあたりならもう1人くらいは目撃者がいてもいいと思うけど」

 雨は首を振る。

「それがなんでかAさん以外誰も見ていないんだよね」

「どう考えても動いたりしないわよね」

 目を突っつこうとしたが、透明なアクリル板に阻止された。少し傾けたりしても、当たり前のことだが目が動く人形のようにはならなかった。

 五人はしばらくベートーヴェンを見つめていた。それも穴が空くほど。

「さっきより大きくなっていないか?!」

「なってないわよ。目洗ってきたら?」

 というあたしも一点を見過ぎて、目がしょぼしょぼしてきた。

「もう得られるものはなさそうね。次の現場に案内して」

「鏡だな。こっちだ」

 次の現場は同じく3階の手洗い場だった。蛇口が4つあって、鏡も蛇口の前に4枚貼られていた。

「この鏡に閉じ込められたの?」

「本当はここじゃないんだけど、取り敢えずサンプルとして。全学年に証言があって、閉じ込められたのは全学年にいる」

「閉じ込められたって言っても、これじゃあね」

 行儀悪くも鏡をペタペタ触ってみたが、空洞があるわけでもなく、手が貫通したりもしない。

「閉じ込められたのはいつの話だ?」

 タオから距離を取ったユウキの代わりに町田が答える。

「朝練、昼休み、放課後、時間帯はランダムだ」

「ベートーヴェン事件があって虚偽の証言をする人が出て来ただけなんじゃないの?」

「じゃないから言ってんだろ。少しは考えろチビ」

 町田の胸倉を掴みかけてタオと雨に静止される。

「昼休みの時だ。委員会の仕事があると言って、友達が多目的室に言った。10分ぐらいで戻ると言っていたが、さっぱり戻ってこない。

 気になった俺は、多目的室に行ったが、既に解散した後で、誰もいなかった。他のクラスの委員に聞いて回ったが、自分達より早く教室に戻ったと言う。胸騒ぎがして、校舎を歩き回ったが、友達はどこにもいなかった。

 一旦諦めて2階の教室に戻ろうとした時、教室の前の手洗い場からガラスが割れる音がして、振り返ったら顔面蒼白の一時行方不明になっていた友達が割れた鏡の上に立っていた」

 町田は淡々と語る。その様子からは少なくとも心霊番組に投稿して一儲けしてやろうという魂胆は伺えなかった。

「鏡の中からこちらに戻ってくる時に、ガラスが割れるのだな」

「そうみたいなの。そのせいで鏡があちこち割れちゃって鏡がないところもあるんだ。今のところ無事なのはここだけ」

「共通点とかってあるのかしら。ベートーヴェン事件は、全員吹奏楽部だったでしょう。部活中だったり、委員会中の生徒とか」

「それが、友達と手洗い場で遊んでいたら、忽然と1人が消えたとかっていう証言もあるんだよね」

「複数でいたのに、1人だけ消えちゃったの?消えた時の様子は?」

「皆覚えてなくて。消える前まで、何をしていたのかすっかり忘れちゃってるんだって。覚えているのは、突然友達が消えちゃったことだけ」

「アニメで似たようなストーリーがあったような気もしなくなけど。一応、全部の鏡を見てみましょう」

 あたし達は1階から3階までの鏡を隅々まで調べた。が、やはりと言うべきか、なんの進展も無かった。

「一切手がかりが見つからないんだけど」

「2つの事件は繋がってるのか、はたまた別なのかすら分からないな」

 再び3階に戻り、まだ1枚も割れていない手洗い場の鏡を観察する。

「この並び順だと、都市伝説に言わせればあたしの寿命が短くなるのね」

 今は右からタオ、あたし、雨の順で立っている。鏡の真ん中に立ったものは寿命が縮まる。学校の図書館で見た七不思議だ。この他にも6個くらいあってどれもツッコミどころ満載だが、小中学生にはそのくらいがちょうどいい。

「複数人でいても、1人でいても何らかの条件が揃うと鏡の中に攫われる……」

 声に出して考えてみてもさっぱり分からない。

「考えても仕方ない。次に行くとしよう」

「あー、えーとそれがその」

 ユウキが突然よそよそしくなった。そんなユウキに構わず、町田は手洗い場の後ろの教室、1年3組の教室へ入っていった。

「ここだ」

 町田はスタスタと歩きベランダに出た。

「ここから俺の妹が飛び降りた」

 あっさりとした口調で言われて面食らう。ユウキが事件に一番近いと言っていた意味がようやく分かった。

「言っておくが、自分から飛び降りたとは微塵も思っていない。家族仲は比較的良好、受験の悩みもなく、成績不振が続いていたわけでもない。虐められていたわけでもないようだし、誰かと付き合っていたこともないので人間関係の悩みがあったわけでもない。

 ただ突然、取り憑かれたようにこのベランダから直立不動で転落した。妹に直接聞けば何か分かると思ったんだが、いまだ目を覚まさない」

 町田が言い終えると、その場がしーんと静まり返った。どう反応したら良いのか、各々が考えているのだろう。

「妹さんの部活は?」

 無音に耐えかねて、あたしが口を開く。

「テニス部。Aの妹と仲がいいことくらいしか、吹奏楽部とは接点がない」

 ここに来て、重傷者を出してしまうとは。この事件、ただ事ではないと今更ながらに気がついた。きっとタオも、雨も同じだろう。

「時間の無駄だったな。こいつらが来たところでなんの解決にもならない」

 不快そうに言って、町田は教室を出てどこかに行ってしまった。

「おい、待てよ!悪いな、ちょっと傷心中でさ」

「ちょっとどころではないと思うけどね。ユウキ、なんであたしを呼びつけたの?」

「エリにしか解決できないと思ったから。いや、今はエリ達なのか。無茶を言ってるのは分かってる。

 だけど、なんで町田妹は飛び降りなくちゃいけなかったのか、吹奏楽部はコンクールをめちゃくちゃにされたのか、納得出来る理由が欲しいんだ。言ってくれれば協力する。

 だから頼む、怪奇探偵江利!この難事件を、解決してくれ!!」

「勝手に怪奇探偵にすんな!」

 ユウキの真剣な顔は初めて見た。いや、クレーンゲームでラストチャンスのあの時以来か。仕方ない。ここは一肌脱ぐかな。

「いいわ……」

「「勿論引き受けるぞ(ます)!!」」

 せめてあたしにキメさせてくれよ。

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