表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
861/1149

第851話・【後半三人称視点】MASK

「犯行時は別人に顔を変えていると思われます」

 魔溜石研究部だった千葉君たちに、香取先生や犬上を襲った真犯人のことを語る美咲。


「さらにさかのぼって行くと……」と、俺も言い継いだ。

王寺(おうじ)という中央本部兵の顔をした真犯人が熊野のオッサンを殺し、それより前、その王寺を襲ったのは朝倉という女性の顔をした真犯人で、その朝倉さんもそれより前に銀色の髪の男に襲われている。きれいに繋がっているわけですよ


 熊野のオッサンを殺した奴は魔獣人だと思ったが、いくら魔獣人にも顔を変える能力は備わっていないだろうから、相手は人間であれ魔獣人であれ、持っている『エイト剣』で魔法を使った。この説にはあと、その手の魔法が存在するか、ということだけ」


「あるじゃろう。福山が使った『ADONIS(アドニース)』と言う魔法も、人の顔を変える。それでワシはちょっとだけ顔が整ったんじゃ」と、鳩ケ谷(はとがや)

「ちょっとどころか、顔の全パーツ総とっかえみたいになっていただろ……。元がそんなんだから」と俺がツッコむと、鳩ケ谷は「じゃかしい!」と目を三角にする。


「確かに……『ADONIS』がありましたね。でも、見た人が見紛(みまが)うほど他人の顔そっくりに変わっているんですよね? そんな魔法はあったかな~……」と、千葉君はまたうなる。

 

 そこで調子づいたのは雛季(ひなき)だ。

「ほら! やっぱり雛季が言ったように、魔法じゃなくてお面を被っていたんだよ~!」

 そう、美咲の話を聞いてから、雛季は犯人が『人そっくりのお面を作って被っている説』を主張していて、俺や鹿角に一笑に付されていたのだった。

 

 しかし千葉君にも「そんな精巧なお面を幾つも作っていると考えるよりかは、特殊魔法を使っている可能性の方が高いですね」と言われ、雛季は「ブ~」と不貞腐(ふてくさ)れた(しかしミュウが残したアップルパイをもらってすぐに笑顔に戻る)。


「何をとんちんかんなことを言っているのよ、千葉君」と、レモネードを飲み終えた清瀬さんが唐突に言った。

「はい?」


「それでも魔溜石研究部の一員かね? 今(ちまた)に出回っている幾つかの魔法の書には載っていなくても、古い文献にその手の魔法があると書かれていたよ? 特殊魔法・『MASK(マスク)』っていう」

「おお! あるのね?」と、鹿角や美咲の顔が(ほころ)ぶ。


「それって、M、A、S、K……の魔溜石が揃っておればええのか? ワシ、あと『K』の石でできる?」

 よからぬことを考えている顔……つまり品のない笑顔を浮かべている鳩ケ谷を、俺は細めた目で見る。

「……お前、他人の顔で何する気だ? 口に出すのもためらわれるようなことをしているお前しか想像できないんだが」

「そ、それしか想像できないお前も同類じゃろ」と、鳩ケ谷は言い返してくる。


「何を考えているのか知らないけど、特殊魔法なら発動は難しいよ?」と美咲が呆れたように言い、吉田さんも続いた。

「ええ。私も『MASK』のことは読んだことがありますけど、発動はかなり大変だと思いますよ。4種の魔溜石だけで、しかも簡単にマスターできるのであれば、みんな身につけているはずですし魔法術書にも載っているはずですから」


「魔法術書に載っていれば、千葉君も悩まずに答えられた」と清瀬さんが嫌味をこぼし、千葉君は肩を落とす。


「古い文献にしか載っていないということは、みんなマスターする前に諦めてしまって、『MASK』自体が忘れ去られていってしまった……それだけマスターは難しいということ。特殊魔法に分類されているものは、いくら頑張っても発動してくれないことも多いですし」と吉田さんが続け、鳩ケ谷もうなだれた。


「まぁ、とにかく、あるにはあるということがわかったな。真犯人もその文献を目にしたか、あるいは自分の剣を鍛えているうちに運よく発動したのかはわからないけど、その『MASK』というやつをマスターした。そして『他人の顔』で犯行を繰り返している」

 

 俺がそう言うと、「でも美咲さん」と二宮は俺を通り越して美咲に語り掛ける。

「そんなにコロコロ顔を変える相手を捜すのは難しそうですね?」

「そうだね。銀色の髪の男というのも誰か別の人の顔だろうから、本人の顔がわからない。熊野さんの件で魔獣人ということも考えられるから、そもそも私たちと生活パターンが同じかもわからないし……」


「ただ、『エイト(きゅう)』は破壊しているという不可解な点も残っているけど、奪った『エイト剣』や魔溜石はどこかで売っているのだろうな。密売人を張っていれば接触できるかも?」

 そう言ったのは俺だが、二宮はやはり美咲の方を見て問いかける。

「でも、魔獣人ならお金を稼ぐ必要もない気がするんですけど?」


「魔獣人には、人間に成りすまして『ゴブレット』内で生活している頭のいい奴がいるんだよ。そのため、お金を稼ぐ必要があるのかもしれない。まぁ、盗みや強盗で稼ぐこともできるだろうが、衛兵や中央本部兵の目もあるから何度もできないだろう。密売で稼ぐ方がリスクは少ない」

 美咲ではなく俺がそう答えると、二宮は片方の頬をふくらませながらも黙った。


「とにかく、それは香取先生や王寺って人に伝えて、捜査してもらえばいい。真犯人が捕まるか(たお)されるかすれば、香取先生の疑いも晴れるでしょう」

 鹿角(かづの)が言い、美咲たちも同調した。


 


 先日聞いておいた香取先生の自宅へレインボーバードのスカイを送り、俺たちの推測はすぐに先生に伝わった。


『ビッグドーナツ』に帰ってきたスカイには先生からの返答の手紙も付いていて、感謝の言葉や『牙』に報告して中央本部とも連携を取って犯人を捜す(むね)が書かれていた。

 

 また、街で会った中央本部兵に連絡を取ってもらって、王寺にも報告した(中央本部兵に頼みごとをするのは相変わらず大変だった)。

 王寺も、あとは中央本部で捜査すると約束した。

 感謝の言葉は特になく、むしろ『エイト剣』を奪われる失態をしたことを他の者に漏らさないよう口止めしてきた。

 

 王寺の態度には不満だが、とにかく俺たちは一安心した。

 あとは一日でも早く犯人(魔獣人?)が捕まって少しでも安心できる街になり、熊野のオッサンの墓前に報告ができればいい。


 *****************************************


 それから少し経って、また孤児院の子供たちが剣や弓の訓練を受けにやって来た。前回のように幼い子はおらず、引率の大人も一人だった。

 

 訓練が終わって、中庭のテーブルでデザートなどを食べながら休んでいる間、引率の先生に『神々の黄昏(たそがれ)』の奥にある『闘技場』の観戦に誘われた。

 何でも、『闘技場』の魔法剣士の対戦の出場者に孤児院の出身者がいるらしく、その選手に招待されているらしい。

 

 ただ『神々の黄昏』の中にあるし、『闘技場』では賭け事も行われるし、試合自体も流血があるような激しいものもあるので、幼い子供たちは連れて行かれない。そのため招待チケットが余ってしまうので、俺たちが誘われたわけだ。

 

 観戦日まで数日しかないので都合がつかないメンバーも多かったが、『(きば)組』のメンバーは予定がないので、鹿角が行くことを決めた(無料でもらえるもの、できることは何でも受けるのが鹿角だ)。


 ******************************************

 

 数日後の未明。

 

 銀色の髪の男……射水(いみず)夜紗(やしゃ)は、『北西部エリア』西の7ブロックにある住宅地を進んでいた。

 

 いつものように、小雨が降っていた。

 射水は雨男だ。彼が()()()()()をしようとする時、なぜか決まって雨が降り出す。

 

 そんなことにはもう慣れている射水は、傘もささず、足早に音もなく歩を送る。

 彼が今から行う()()とは、先日依頼された()()だ。

 しかし、彼はいたって冷静で、住宅地の一角にある林の中を規則的な足取りで進んで行く。

 

 彼は今までにもこうして殺しを行ってきた。

 例えば、先日もごろつきを一人殺した。これも依頼だった。その時は、その前にコピーした香取暁彦(あきひこ)の顔を使用した。

 

 しかし香取を襲ったのは誰かの依頼ではない。それは射水自身の『趣味』みたいなものだった。

 魔法剣士を襲い、殺して、『エイト剣』を奪うという趣味。

 ()()()()()()を見つけるまでは、それをやめるつもりはなかった。

 

 もし目的の『エイト剣』を見つけることができれば殺しをやめるかと言えば、そうはならない。

 魔法剣士を中心に狩っていくという『ゲーム』を終えるだけで、射水の体の中には『使命』を遂行し続けるという悪魔の血が流れ続けている。

 むしろ『ゲーム』を終え、狙う相手の制限が取り払われた時の方が、彼の本能に近い行動となるだろう。


 ただ、香取は手ごわく、『エイト剣』を奪い損ねた。このようなことは、射水にとって(まれ)なことだった。

 しかしムキになって追い込みはしない。殺しに時間を掛けると、それだけ他人に目撃されるリスクが出てくる。


 目撃者が出た場合はその者も殺すのだが、事件が大きくなっていくと当然中央本部の捜査や見回りが厳しくなる。

 中央本部兵であれ、魔法剣士であれ、少人数なら仕留めることができると射水は自負しているが、大勢で動かれるとさすがに厄介だとわかっている。


 香取を襲った直前、犬上を殺した。これも『エイト剣』を奪うためだ。

 犬上は密売されている剣をすでに1本手に入れた直後であり、つまり腰に2本の『エイト剣』を差していた。だから、射水は目をつけた。

 

 しかし2本とも、射水が探していたものではなかった。ただ彼のコレクションが増えただけだった。

 

 それより前には、『神々の黄昏』内の『闘技場』から武器を運ぶ王寺を襲い、奪った。

 その時使用した顔は朝倉舞彩(まや)で、その女を殺したのはだいぶ前だ。


 王寺と朝倉を襲う間にも、殺しの依頼を受けて、あるいは『エイト剣』を奪うために、数名の者を(ほふ)っていた。

 しかし、射水にも()()()()()()()というものがあるし、殺害時に一度目撃された顔はその後利用しづらいということもあり、王寺の時に利用したのはたまたま朝倉の顔だったわけだ。


 朝倉の時も、同じパーティーの者たちに目撃されてはいたが、それからだいぶ経っているのでまた利用できると判断した。


 そして、朝倉よりも前にも当然、何人もの人間を殺し、その後の犯行では()()()()を利用してきた。

 

 ちなみにその期間、射水は、馬車ごと崖から滑落した男の事故を知り、その男の顔も利用していた。

 男が長期入院していることも知り、男の住居にも入っている。そこで、地下室に閉じ込められて瀕死になった子供を発見した。もちろん射水は子供を助けず、外の土に埋めた。

 

 その後も、その家でしばらく過ごしていたが、主の知人が子供の安否を確認するためやって来てしまった。

 射水はその者と顔を合わせてしまい、その場を立ち去った。主の知人を殺すこともできたのだが、その時はひどく疲れていたため、黙ってその家を立ち去ることにした。

 

 この話は、『牙』の『山合宿』で桜川がした怖い話のもととなる。【第599話・参照】


 主の知人が桜川の母親と知り合いで、その話を彼女にした。

 それを桜川の母親が娘の璃紗(りさ)に伝え、桜川璃紗は怖い話としてカケルたちに話したのだ。

 

 また、『牙』のオカルト研究会の金沢たちの『最近、死んだ人が歩いているところを目撃したという話が増えている』という話も事実で、それは射水によるものが多い。【第645話・参照】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ