表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
857/1149

第847話・悲しいうわさ

 翌日も海で遊んでから、夜『ビッグドーナツ』に帰ってきた。

 

 それからはまたバイトや魔溜石(まりゅうせき)採取などで忙しく過ごす。

 しかし時々、バイトのないメンバーでプールに行って夏を満喫した。海でも見たばかりというのに、鳩ケ谷(はとがや)は女子メンバーの水着姿にはしゃいだ。

 

 そんなある日のプール帰りのことだった。

 俺、琴浦姉妹、鹿角(かづの)、桜川、ミュウ、青葉、東御(とうみ)、二宮、ミュウ&トラヒメ、鳩ケ谷、鮫川と、プールに行ったメンバーがゾロゾロと歩いて帰っていると、人通りの少ない路地で突然美咲が叫んだ。

「危ない、雛ちゃん!」

 

 一団の後ろの方を歩いていた美咲が、さらに後ろを歩いていた雛季(ひなき)を引っ張って自分の胸に抱き寄せた。

 前の方にいた俺は、またどうせ雛季がよそ見しながら歩いて車道に飛び出したから注意されたのだろうと思ったが、違った。

 彼女たちの横にフードを被った怪しげな奴がいる。

 

 そいつの手にはナイフが握られていた。

 一番後ろを歩いていた雛季を、あるいはその前を歩く桜川や青葉をそれで襲おうとしたらしい。


「誰? おじさん」と、ナイフが見えていないのかどこか呑気に言う雛季に対し、美咲の声は鋭い。

「一体、何ですか? そんな物で……」

 

 そして美咲は腰に吊るしていた『エイト剣』を抜いた。

 慌てふためく桜川や青葉の代わりに前へ出た鹿角も、すでに剣を構えていた。みんな防具こそしていないが、『エイト剣』や『エイト(きゅう)』を持っていた。

 

 ただ事じゃないと知った俺も、剣を手にして前に出た。鳩ケ谷はさりげなく背後に下がる。

 

 ヒゲ面の男は顔を引きつらせ、しかしまたナイフを持つ手を伸ばした。

「うおおおっ!」

 半ば自棄(やけ)に見えた。

 

 美咲はそれをかわし、青白く光る自身の剣で男の手を軽くはたいた。

「ぎゃああっ!」

『エイト剣』を持つ相手に対して、その短いナイフでは無謀と言わざるを得ない。男はナイフを落とし、赤くなったその手をさすった。

 

 そこへ、さらに青白い気がぶつかって行った。

「ぐへぇっ」と男は転がり、7、8メートル後ろでうつ伏せに倒れる。


「え? あ、鮫川君……! 待ってよ、死んじゃうわ」

 気を飛ばしたのは鮫川だった。こういう時、躊躇(ちゅうちょ)なく攻撃ができる男だ。

「それはそれで構わないだろう。人を殺めようとするなら、死ぬ覚悟も持つべきだ、なぁ? オッサン」

 鮫川は剣先を倒れている男に向けた。


「さ、鮫川君!」

「捕縛して中央本部に突き出せばいいわ!」

 美咲や鹿角が止めて、魔法で男を封じた。


「甘い奴らだ。死んでも正当防衛だろ」と、鮫川は渋々剣を鞘に収める。

「過剰防衛というのもあるんだよ」と、俺は眉をひそめてツッコむ。




 なぜ襲い掛かって来たのか問い詰められた男は、『(きば)』生なら誰でもよかったと言った。

 雛季や二宮が水着を入れて持っていた袋が『牙』のもので、校章が描かれている。それを見て、俺たちが『牙』生と判断した男は襲って来たようだ。


「『牙』に何の恨みがあるんだ? 将来、魔溜石をたくさん採取して市民のためになるかもしれない者たちに」

「自分たちで言うことでもない気がするけど」と、美咲が苦笑して俺に言う。


「そうじゃ。あんたが同じ魔法剣士と言うなら、『牙』生が魔溜石を採取することによって自分たちの取り分が減るとか、そういう不満はわからんでもないが……あんた、魔法能力者じゃないじゃろ?」


「魔溜石の問題じゃない」と、しばらくこちらを()めつけるだけだった男が、また口を開いた。

「復讐だ。仲間を殺られたから、お前らに!」


「お前らって、『牙』生に?」

「やられたっていうのは……殺されたと? 本当なの?」

 俺に次いで、鹿角が疑いの目で男を見る。


「生徒かどうかはわからねぇ。防具姿だったし、『牙』ってのは俺ぐらいの歳の生徒もいるって聞くし、教師たちと区別もできんし……。とにかく、仲間がいきなり襲われ殺されたのは事実だ。俺はその時、近くの店に寄っていて、殺されたそいつは外で待っていたんだが、店の窓ガラス越しにハッキリと目撃したんだ。俺が外に出た時にはもう相手はおらず、仲間は雨に濡れながら血だらけで倒れていた」


「その相手が何で『牙』の奴だとわかる?」と、俺は訊いた。

「殺された仲間は魔法剣士だった。死ぬ直前、特殊魔法? そういうやつで剣に相手の顔を記憶させた。後からその映像を紙に転写できた。まぁ、写真のようなものだ」


「『PHOTO(フォト)』って魔法かしらね」と、鹿角が口を挟む。

「名前はわからんが、とにかく紙に転写し写真を作って、そいつを数人の仲間で捜し回った。半殺しにして、最後は衛兵に突き出してやろうと。そしてついに見つかった。その犯人の男はさっきも言ったように防具姿で『牙』に入って行ったんだ」


「制服ではなく防具で……」と言う美咲の呟きに、「教師ならよく防具をしているね」と青葉が言った。

 しかし鹿角がすぐに首を振る。

「いや、さすがに教師がそんなことやらないでしょう。生徒でも、例えば『第三グラウンド』から教室の方に戻る場合なら防具姿で学校に入ることがある」


「個人戦さんもありましたからね」

「ああ、うん。個人戦あったね!」と桜川に雛季が相槌(あいづち)を打つ。


「じゃが、生徒が疑われるのもなぁ……。やっぱりあんたが嘘を……」と、鳩ケ谷が言うと、男は鋭く彼を睨んだ。鳩ケ谷はすぐに言い換える。

「ああ、いや、嘘ではないけれども、勘違いでは? 犯人はただ『牙』に立ち寄っただけで、関係者ではなく……」


「関係者でもないのに、『牙』に入る奴がいるのか? 行事もなかっただろう? ……とにかく」と男は言って、魔法で身動きのできない体を揺すった。

「お前ら『牙』生なら犯人の顔を知っているかもな。コートの下の右ポケットに写真があるから見てみてくれ」

 

 俺は顔をしかめた。

「確認させてどうする気だ? 仮に知っている人でも、俺たちはどうもできない」


「それに、まだ事実かもわからないのに、『牙』生を差し出すのも嫌だね」と、鹿角。

「自分が襲い掛かって来たことを忘れさせようとしてねぇか?」と鮫川はしゃがんで、(ひざまず)いている男を正面から睨みつける。

 男はばつが悪そうに目を逸らした。


「まぁ、一応確認をしようか? 鳩ケ谷君が言ったように、学校内や寮ではまったく見ない人かもしれないし」

 美咲のその言葉を受け、すぐに雛季が男に近づいた。先ほどその男に自分が狙われたことを忘れたかのように弾んだ足取りだった。

「右のポケットの写真だね? あ、こっちは左だ。じゃあ、こっちか」

 

 雛季が男のポケットを探っている間、俺や美咲は剣を構え警戒した(まぁ、魔法で腕や(もも)が動かせない状態だから、大したことはできないだろうけど)。


「あった!」

 雛季は『写真(映像を転写した紙)』を見つけると、まずは高く掲げてから、トレーディングカードを確認するみたいに慎重に表を見た。

「あれ、()()()()()だ」


「え? 先生?」

 俺たちは一度顔を見合わせてから、雛季が持つ写真を覗き込んだ。

 そして揃って息を呑んだ。

 

 そこには香取先生の顔が映っていた。

 

 倒れながら『PHOTO』と言う魔法を発動して撮った(剣に記憶させた)からだろう、斜め下から取ったようなアングルだ。雨が降っていたらしく、やや薄暗いが、それが香取先生だということはしっかりわかる。


「……香取先生、だね……間違いなく」と、鹿角や青葉。

「う、うん。でもちょっと怒った怖い感じなの」と、雛季。

「人を襲う時に笑顔の方が怖いけどな……」と、俺は一応ツッコむ。


「でも、見たことないよ、確かに、先生のこんな顔」

 東御がそう言い、雛季も「そうだよ~」と言った。


「ほぉ~、知っている教師なんだな? 香取って言うのか」と、男は笑みをこぼしている。

「な、何かの間違いです」と、桜川は首を小さく振り続けながら呟き、他の者たちも男を睨み返した。


「あんた! いい加減なことを言わないで!」

「そうだよ~。先生が人をいきなり急に襲って倒したりしないの」と、鹿角や雛季が言った。


「本当だって言ってんだろ! 俺が目撃したし、転写もすぐにした。そいつが俺たちの仲間をいきなり襲った犯人なんだよ!」


「この先生はそんなことしません!」と、美咲も言い切る。

「まぁ、蒲生(がもう)や川崎ならわからんこともないけどな……。香取先生は真面目で優しいし」と、鳩ケ谷。


「仮に何か先生の中で許せないことがあっても、まずは話し合うはず。いきなり襲うなんて……」

「逆にお前の仲間が香取に襲い掛かったんじゃねぇのか?」

 鹿角に次いで鮫川がそう言って、剣先を男の顔のすぐ横に持って行った。


「わ、わかっていないな、まだガキだからなぁ。人には裏の顔があるんだよ! 真面目な教師が裏では変態だったり、優しい教師が実はとんでもねぇサイコ野郎だったり! お前ら、その教師のプライベートのこと、どこまで知っているんだ?」

 男が半ば自棄になったように叫んだ。


「それは……」と、鹿角たちの語気が一旦弱まる。

 

 俺はそこで口を挟んだ。

「俺も、香取先生はそんなことやっていないとは思いたい。しかし、先生のことで気になっていることもある……」

「気になること? 何、カケル君?」と、美咲。

 みんなの怪訝(けげん)そうな目が注がれてくる。


「……夏休み前、俺の『個人戦』の相手の犬上(いぬかみ)って奴が何者かに殺されたという話をした時、先生の表情がやけに曇っていたんだ」

「そ、そりゃ~、生徒が殺されたからじゃろう?」と、鳩ケ谷。他の者たちも首肯(しゅこう)する。


「それはそうなんだが、悲しいとか悔しいという表情よりも、何か(うわ)の空のような瞬間があって、香取先生にしては珍しい態度だと思ったのを今思い出した」と、俺は重い口調で言った。


「……う~ん、言われてみればあの時、何か言いかけて止めたこともあったね……」と、美咲も視線を落としながら言った。

「いやいや、きっと別の問題のことを考えていたんでしょう。先生がやるはずないって」と、鹿角。雛季や青葉もまた同調した。

「それは、私も信じているけど」と、美咲。


「会って本人に問い詰めりゃいいんだ。やったんだったら、自首させてやれ。とにかく、それとは関係なく、こいつは突き出そうぜ!」と、鮫川がまとめた。

「な、何?」と男は慌てるが、勝手に復讐心を燃やして雛季に襲い掛かったのは事実で、それを何もなかったように見過ごすわけにもいかないだろう。


「香取先生にも、今度訊いてみた方がいいね。魔法で作られたこの写真の間違いか、この人のデマか勘違いだろうけど、一応ね」と鹿角が言い、一同浮かない表情でうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ