第845話・バトル・イン・ザ・ダーク
志木が迫って来る。
俺は先ほどの『GRAPH』の後遺症で、体の動きが鈍化していた。
「せ、瀬戸先輩! パイル・オブ・アイロンッ!」
【PILE(=堆積、山)・二宮所持魔溜石、B、C、『E』、H、『I』、『L』、N、『P』、S、Y】
志木が再び『BLAST=突風』を吹かせてきたが、二宮が『エイト弓』から矢を放ち防御魔法を発動、俺の前に黄緑の光のブロックを積み立ててくれた。
「ゴロゴロ・ランブルッ!」
【RUMBLE(=雷などのゴロゴロ)・青葉所持魔溜石、A、『B』、『E』、『L』、『M』、N、N、O、P、P、『R』、『U』、Y】
続いて青葉が剣を振り下ろし、黄色い稲妻のような気が志木に向かって落ちる。
志木は自分の頭の上に黄緑の気を張ってそれを弾く。『STOLE=えり巻』という防御魔法だ。
青葉の『RUMBLE』もかなりの攻撃力のはずだが、志木の防御魔法が上回っていた。黄色と黄緑の明滅が起きるが、やがてなくなり、志木は無事だ。
間髪入れず、今度は東御が前進した。
「スウィンギング・トロット!」
【TROT(=馬の速足)・東御所持魔溜石、A、B、E、F、I、L、N、『O』、『R』、S、『T』、『T』、U、Y】
前に突き出された東御の剣先から、仔馬ほどの大きさの青白い楕円の気が勢いよく飛び出して、志木にぶつかって行く。
青葉の攻撃を防いだ直後の上、速さに特化した攻撃魔法だ。志木もさすがに防御が中途半端となり、後ろに突き飛ばされ木に激突。うめき、前に倒れる。
「志木さんっ! ……全員で、戦う覚悟ができたようね? じゃあ、私も遠慮しないわよ? ミステリアス・アーソンッ!」
【ARSON(=放火)・宮代所持魔溜石、『A』、E、F、I、『N』、『O』、『R』、『S』】
宮代が飛び跳ねるようにしながら前進し、剣を振り下ろす。
辺りが赤く染まり、テニスボールほどの赤い気が東御に向かって飛んで行く。
それは途中で巨大化した。東御の目の前まで来た時には直径1メートル程の球体になっていた。もちろん、赤い炎に包まれたままで、火の粉が舞っている。
「私服にそんな物をぶつけたら……」と俺が慌て、防御の構えが中途半端となった東御も悲鳴を上げながら腰を下げた直後、相手の『ARSON』という火系の気が青く包まれた。
気だけではない。周辺の地面もビシビシという音と共に凍りついた。
青い光の尾が漂っている方に目を向けると、二宮が弓を構えていた。
「二宮……! ナイス!」
「『ICE』という魔法です。火にはこれですね」と、二宮ははにかみながら言った。
【ICE(=氷)・二宮所持魔溜石、B、『C』、『E』、H、『I』、L、N、P、S、Y】
「ありがとう、二宮さん。……デストラクティブ・ボルトッ!」
【BOLT(=太矢、ボルト)・東御所持魔溜石、A、『B』、E、F、I、『L』、N、『O』、R、S、『T』、T、U、Y】
東御が礼を言いながら振り下ろした剣から、先が尖った青白い気が飛び出した。
一方、宮代が防御魔法を発動するが、砕け散った。
削られて縮小した『BOLT』だが、そのまま宮代にぶつかり、後ろの木に叩きつける。
「きゃふうぅっ!」
「てめえら……。防具してないから手加減してやっていたら、いい気になりやがって……」
茂みの方から前進してきた志木が犬歯をむき出しにして言った。
「手加減していたとは思えないけどな?」と、俺。
志木は構わず、いきなり剣を振り下ろした。
「ハングリー・ビースト!」
【BEAST(=獣)・志木所持魔溜石、『A』、『B』、『E』、I、L、O、『S』、『T』、T】
大型犬サイズの青白い楕円の気が、地を蹴って進む獣のように上下しながら東御にぶつかって行った。
東御も防御魔法を発動していたが、あっさり破られた。10メートル以上後ろへ吹っ飛ぶ。敗れた服の一部と、鮮血が舞った。
「と、東御……」と彼女の方に視線を向けるのも、今の俺はゆっくりになってしまう。
「東御先輩……! このっ! ミサイル・ペンシルッ!」
【PENCIL(=鉛筆)・二宮所持魔溜石、B、『C』、『E』、H、『I』、『L』、『N』、『P』、S、Y】
二宮の弓からリリースされた『矢(鉄の棒)』がバットぐらいの大きさの、先が尖った青白い気を生み出し、志木に向かって行く。
しかし志木は一瞬ニヤリとして、「パーフェクト・スティール!」と、剣を振るう。
「スティール……マズい」と、俺は叫ぶ。
『STEAL』という魔法はかつての敵が使用して知っている。
案の定、その時と同じように、二宮の放った『巨大な鉛筆』のような気は消え、再び現れた時には逆方向に進んでいた。つまり、二宮は自身の発動した魔法をそっくりそのまま返されたのだ。
【STEAL(=盗み)・志木所持魔溜石、『A』、B、『E』、I、『L』、O、『S』、『T』、T】
「何で? あうぐっ!」
二宮は青白い気に突き飛ばされて転がって行った。シャツの切れ端と共に、血が飛び散った。
青葉が気にしながらも、前進した。
彼女の刀身は大きな赤い気が包み込んでいる。柄を両手で持っていることからも、特大攻撃魔法を撃つ気だ。
こっそり、そしてゆっくり動き、ようやく東御の傍に着いた俺は、青葉が攻撃を仕掛けている間に東御の治癒を行う。
それが終われば、二宮にも治癒魔法をしなくては。まともに戦えない今の俺にはそれしかできない。
「護ってアーミーッ!」
【ARMY(=軍隊、陸軍)・青葉所持魔溜石、『A』、B、E、L、『M』、N、N、O、P、P、『R』、U、『Y』】
青葉の剣から、ピンポン玉サイズの赤い気が150以上……自宅の増築を繰り返したウィンチェスター夫人の屋敷の部屋の数ほど発射される。
名前は頼りなさそうだが特大攻撃魔法で、一つ一つはそこまで威力はないが、数で相手を圧倒する魔法だ。
対する志木も防御魔法・『STOLE』に体を包まれるが、『ARMY』の何十発目かがそれを壊し、それ以降の『ARMY』の気を食らって再び後ろの林の中へ吹っ飛んだ。
それを一瞥してから、眉を吊り上げた宮代が反撃に出る。その刀身には、これまで以上に大きな赤い気……。
「特大攻撃魔法! マジかよ……防具なしの相手に」と、俺は慌てた。
「頼もしいランバー君!」
【LUMBER(=材木)・青葉所持魔溜石、A、『B』、『E』、『L』、『M』、N、N、O、P、P、『R』、『U』、Y】
青葉も急いで剣を十字に振った。
黄緑色の十字の気は、さらに斜めにも放射され最終的に黄緑の気の壁を青葉の前に作った。
「アーレス・プラネットッ!」
【ARES(=ギリシャ神話の軍神、アーレス)・宮代所持魔溜石、『A』、『E』、F、I、N、O、『R』、『S』】
宮代がおもいきり剣を振り下ろす。
熱風と共に、炎に包まれた球状の気が飛んできて、青葉の『LUMBER』にぶつかった。赤い光も飛び散ったが、黄緑の光の方が多く飛び散り、結局『LUMBER』は破壊された。
一回り小さくなった『ARES』が尚も飛び、青葉は悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
『LUMBER』が食い止めている間、彼女は剣にさらなる防御魔法の気を溜めて迎え撃つことができたこともあり、特大攻撃魔法を受けた割には被害が大きくなさそうだ。
それでも、打ちつけた体や火の粉を浴びた肌は痛むだろう。
そんな彼女に治癒魔法をするためか、東御が近寄って行った。
「陽香莉!」
「倒すたびに治癒されたら終わんない! 治癒はさせないわよ!」と、宮代が剣を構えながら走り出す。
だが、彼女は東御たちへの攻撃の前に、近くに立つ俺に目を向けてきた。
「まずは、あなた!」
「さすがにバレたか……」と、俺は顔をしかめる。
ゆっくりと『エイト剣』を構え、気を放つ。放たれた気もやはり遅い。
その横を通り過ぎてきた宮代の攻撃魔法の方が何倍も速く、先に俺を撃った。
「ぬごぉっ!」
後ろに倒される。
しかし、すぐに宮代の悲鳴も聞こえた。仰向けに倒れたまま顔を上げて見れば、すでに俺の放った気を受けた宮代が奥へと転がっていた。
「? も、戻った……途中で速度が戻った!」
俺は体の痛みもそのままに、勢いよく立ち上がった。スムーズに立てた。ようやく『GRAPH』が切れたのだ。
俺は急いで、横になっている二宮に治癒魔法・『PRIEST=聖職者、司祭』を掛け(青葉には東御が治癒魔法を掛けている)、宮代のさらに先にいる志木に近寄って行った。
立ち上がった志木は、勝てないと思ったのか、あるいは戦うのが面倒になったのか(おそらく後者だろう)、「宮代、早く行くぞ!」とこちらに背を向けた。
「逃げる気か? 魔溜石を返せ!」
志木は大きく舌打ちし、振り返りざまに剣を振り下ろした。
「このままだと殺しちまいそうだからやめてやろうとしてんのに……ハングリー・ビーストッ!」
大型犬サイズの青白い楕円の気が地を駆け、迫って来る。
「セット! トリップ! トリップ!」
俺は右斜め前へ瞬間的な移動をし、『BEAST』を回避。さらに左斜め前へ瞬間移動し、志木のすぐ傍に立つ。
焦りの色を露わにした志木に向け、さらに魔法を送る。
「ホーリー・ストリップッ!」
【STRIP(=ストリップ)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、N、『P』、『R』、『S』、『T』】
ここで通常の攻撃魔法を放っても、相手に防がれる可能性は高い。残念ながら、志木の魔法能力はわずかに、あくまでわずかにだが俺たちよりも上のようだから。
それよりも、まず『STRIP』で相手の防具を外して防御力を下げ、精神的に五分にしておきたい。このままでは、防具をしていない俺たちが圧倒的な不利だ。
相手も防具なしの状態にさせて、戦意を削ぎたい。
しかし、志木は素早く『STOLE』を発動し、『STRIP』による防具破壊を逃れた。
志木の横を抜けた『STRIP』の気はブーメランのように弧を描きながら飛んで行き、背後の木の枝を切断する。
「くそ、防がれたか……」と俺は歯噛みしたが、その後、短い悲鳴が上がった。
何もせずに逸れて行ってしまったと思った『STRIP』の気は、志木の斜め後ろにいた宮代の防具のベルトは切ったらしい。
胴鎧がズレ、さらにその下の服も裂き、片方の胸がこぼれ出そうになっている。
それを手で隠し、反対の手で落ちそうな胴鎧を支えている。完全に壊れているわけではないので応急処置をすればまた戦えるだろうが、それには時間を要するだろう。
宮代は胸を隠し、防具を支えたまましゃがみ、戦意を失っている。
いつまでも彼女の方に目を奪われているわけにはいかない。
あとは目の前の志木を……と視線を戻した時には、奴の剣は青く光っていた。
「ディープ・オイル!」
【OIL(=油)・志木所持魔溜石、A、B、E、『I』、『L』、『O』、S、T、T】
放たれた青い光は『油』のように地面を流れて、俺の足元へ。
直後から足がヌルヌル滑り、踏ん張りがきかなくなって俺は転んだ。
「ぐわっ……クソ、『油』か!」
立ち上がろうにも足も手も滑る。
その間、志木はまた宮代に声を掛けながら、林の方へ後退。
その上、こちらが追いかけてこないよう、牽制のための攻撃魔法を放ってきた。
「バトル・アニバーサリーッ!」
【BATTLE(=戦闘)・志木所持魔溜石、『A』、『B』、『E』、I、『L』、O、S、『T』、『T』】
「バトル? デ、デカい……!」と俺は慌てて起き上がろうとしたが、また滑る。
「特大攻撃……構えて、剣を! 瀬戸君!」
東御が前進しながら剣を振り、赤い大きな楕円の気を放つ。
同時に「メタル・ライオン!」と言ったので、彼女も特大攻撃魔法・『LION』で対抗したようだ。
【LION(=ライオン)・東御所持魔溜石、A、B、E、F、『I』、『L』、『N』、『O』、R、S、T、T、U、Y】
赤い『ライオン』に、バナナぐらいの短めの赤い光線が何発とぶつかって行った。
赤い気同士が削り合い、空中でバチバチと火花を散らす。
ただ、ここでも能力の差なのか、志木の『BATTLE』という名のいかにも強そうな攻撃魔法の方が押し始めたように見える。
東御の『ライオン』はどんどん削られて行き、飢えているように痩せ細っていく。




