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第84話・新たな同居人、新たな魔法   ≪キャラ挿絵≫

 大島さんたち『SDG』メンバーと別れてからしばらくして、道の端で待っていた『グラジオラス』メンバーと合流した。

 それから琴浦家に寄って、農園から帰ってきた親父さんたちと共に賑やかな夕食を取ってから、『ビッグドーナツ』に帰った。

 もちろん俺は『黒衣の花嫁』のメンバーたちに見つからないようにこっそり部屋に入らなければならない。

 

 別の仕事を先に終えて待っていた中間(なかま)たちが、俺たちの帰宅を出迎える。

 彼女たちのうち最初にこちらの異変に気がついた広尾(ひろお)が訊ねてきた。

「……その女の子は、誰なの?」

 

 部屋で待っていた女性たちの視線が雛季(ひなき)の背後に集中する。

 そう、そこには謎の少女・ミュウの姿があったのだ。


 ミュウはこの部屋に入る時もややおどおどして時間を掛けたのだが、中に入ってさらに五人もの人がいたことに目を丸くし、雛季の後ろに隠れてしまっていた。

 巨人の前ではあんなにも冷静に見えた彼女だが、人は苦手なようだ。


「あんまり近寄って見ないでよ、怖がるから。特に亜紗美(あさみ)はね?」


「はぁ? 一番危険なのは自分でしょ? キャップ!」

 中間が柳眉(りゅうび)を吊り上げた。亜紗美とは彼女の名だ。

 確かに彼女はいわゆるギャルで、それはこの『サライ』でも少しワルっぽいイメージを与える存在だ。

 しかし中間が言い返したように、彼女よりも、鹿角の方が心配な存在だと俺も思う。


「この子はミュウちゃんだよ~! 今日、森で一緒になったの!」

 そう言った雛季に続いて、美咲がわかりやすく経緯(いきさつ)を説明した。もちろん、明石の件は伏せられた。


「ミュウちゃんね、よろしく」と、宇佐や浅川、小牧が笑顔で手を差し出すが、ミュウはしばらく考えた後、差し出された手に素早くタッチだけして、また雛季の背後に引っ込んだ。


「この後はどうするの? そろそろ暗くなるから家に帰してあげた方がいいんじゃない?」

 広尾が言うと、美咲は沈んだ顔で首を横に振った。

「それが……ミュウちゃんは幼いころ両親を亡くして、今はご近所の人の世話になっているらしいんだけど……」

 

「二人とも怖い人なんだって。手伝いを一杯させて、少しでも失敗するとぶったりするんだよ。だから家出して出てきちゃったんだってさ」と、雛季が言葉を継いだ。


「だから帰る場所がないらしいの。それで、鹿角さんたちと話して、しばらくここにいさせてあげることにしたわけ」

 美咲が言うと、玉城(たまき)は頷きながら自分の布団の上に寝転がった。

「スペースとるわけじゃナイし、おとなしい子だからオーケーでしょ?」


「まぁ、男を入れたぐらいだから、今更反対はしないけど」と中間が言ってこちらにチラッと目をやってきた。俺は苦笑いを返した。


「よろしくね、ミュウちゃん!」と宇佐たちが改めて言って、一方的にそれぞれの自己紹介を始めた。


「よかったね、ミュウちゃん。じゃあ、ミュウちゃんの場所は……雛季と同じとこ! ここで一緒に寝よう!」

 雛季が自分の布団を敷いた場所に連れて行くと、ミュウはおとなしくそこに座った。


 彼女は人見知りをする性格のようだが、なぜか雛季にだけは少しだけ懐いていた。

 親猫の胸に自分専用の乳首を見つけた赤ちゃん猫のようだ。


 お風呂の時間まで彼女は洋書のアート写真集よりも小さそうなスペースで、膝を抱え丸まったままジッとしていた。

 ミュウはその後すっかりこの空間に馴染み、すぐに彼女がいることに違和感がなくなった。


 だが、みんなと打ち解けたというわけではなく、相変わらず雛季や浅川、小牧などの若い子たち以外とはわずかに距離を取っていた。

 特に男の俺にはまったく近寄ってこず、こちらが声を掛けると露骨に逃げられてしまう始末だった。

挿絵(By みてみん)



 翌日、夕刻。

 綺麗な虹色の羽を持つ鳥が一羽飛んできて、部屋のベランダの手すりに止まった。

 レインボーバードだ。

 その手すりには、昨日俺が巻いた布切れがある。鳥はその匂いを頼りに飛んできたのだ。


「来た。『SDG』がよこしたレインボーバードだ」

 ベランダに飛び出した俺。

 その後ろには琴浦姉妹や鹿角がついて来ていた。

「もう結果が出たんだね……。レインボーバードは人の声を覚えて相手に伝えることもできるんだけど……そのコは喋らないね。手紙で伝えるだけみたい」

 美咲はそう言ってから、鳥の脚に紙が付いていることを教えてくれた。


 紐で括られたその紙を鳥の脚から外し、俺たちは部屋に戻った。

 雛季だけはしばらくベランダに残って、手紙を携えてきてくれたレインボーバードに感謝の言葉を言っていた。

 

 小さく畳まれた紙を広げると、男っぽい雑な文字がびっしり書かれていた。

 最後に『SDGキャプテン・知立昂暉(ちりゅうこうき)』と署名されていたので、彼の字なのだろう。


 それを声に出して読み上げる俺を琴浦姉妹、鹿角、玉城、松川さんが囲んで座っている。

 他の者は各々自分の場所で耳を傾けているか、あるいはそもそも興味なく自分のことに熱中しているかしていた。

 ミュウはというと、相変わらず自分の(雛季と共用の)布団の上に座って、時折こちらを窺うように視線を向けてくるだけだ。


 手紙の内容はもちろん『SDG』最終試験の結果だった。

 そして結果も予想通りのものだった。


 瀬戸翔琉(カケル)、鮫川武蔵両名の『SDG』加入は認められない……というものだ。


 俺に対する理由は大島さんたちが言っていた通りだった。

 ミュウが明石を襲ったということは明確にしていなかったが、『人助けをしようとした優しさは買うが……』などという見え透いた世辞の後に、大島さんたちの(めい)に反し勝手な行動をしたことを非難する言葉が書かれていた。

 一方、鮫川の不合格の理由には、粗暴な性格、チームワークを乱すなどのことが挙げられていた。それについては納得だ。


「残念だったね……」と言った雛季は本当に残念そうな表情をしていたが、同じく慰めの言葉をかけてくれた美咲をはじめ他の者たちは、どこか愁眉(しゅうび)を開いたようだった。

「ミウちゃんを助けに行ったことは、絶対間違いじゃなかったよ」と、美咲が微笑みかけてくる。


「まぁ、ガッカリしないで」

「そうよ。カケル君には最初からこの『グラジオラス』があるんだから」

「ウエルカム、カケル君!」

 鹿角、松川さん、玉城が交互に俺の頭を撫でた。

 最初は不合格を素直に残念がっていた雛季も、彼女たちの行動で、その方が自分にとっては良いことだと理解したらしく、いつもの笑顔に戻って俺を励ましてくれた。

 



 その後、俺は一人で琴浦家に行き、その『残念な結果』を鮫川に伝えた。

 

 案の定、彼は憤慨した。

「俺がいつチームワークを乱した? お前がいなくなった時も俺はあいつらと残っていただろ?」


「それだけじゃない。粗暴な性格も見抜かれていたんだ」


「俺のどこが粗暴だよ?」

 そう言って鮫川は俺の首を、砂時計の真ん中のようにキュッと絞めてきた。

 咳き込みながら何とかその手を払う。

「そういうところが粗暴だって言われてんだよ! 完全なる粗暴! 死んだら戒名(かいみょう)に『暴』という字を入れてもらえよ……」


「フザけやがって、あの女ども! そしてあの知立とかいう野郎も。初めから気に食わなかったんだ、あの暑苦しい顔は!」


「あとは……筋肉バカ、ケチ臭いという理由だそうだ」

 それは書かれていなかったが、この際ついでに改めてもらおう。

 

 猛り狂っていた鮫川は、しばらくしてから何とか怒りを収め、ソファに腰を沈め言った。

「まぁ、いい……。あんなところこっちから願い下げだ。もっと有能なパーティーを当たるぜ」


「他の? そんなところあるのかよ?」


「一つあるぜ……。まぁ、お前には関係ないことだ。あの女どものパーティーで楽しんでいるといい」


「……俺だって、まだ『グラジオラス』に入るとは決めていないぞ」

 そう、俺もまだ決めかねていたのだ。




 その後も美咲や鹿角は俺の『グラジオラス』入りを半ば決定事項のように言っていたのだが、こっちが煮え切らない態度を続けていると、やきもきし始めた。

「……カケル君。まだ決めかねているようだね?」

 いつものように夜遅く一人コソコソと大浴場で一っ風呂浴びて部屋に戻った俺に、美咲が深刻な顔で詰め寄ってきた。


「あ、ああ、まぁな……。鮫川がまた別のパーティーに目星をつけているらしいんだ。もったいぶって隠しているんだが……そこのパーティーがどんなもんか見たい気はする」


「ハァ~……まったく」

 美咲は困ったという顔をした。

 そして後ろのベッドにいる鹿角と目配せしてから、彼女から何かを受け取り、それを俺に手渡してきた。

「ん? これは……土の塊?」


「黄土色しているからそう見えるかもしれないけど、れっきとした魔溜石だよ。付けられたアルファベット名で言えば、『P』にあたる石」


「『P』の魔溜石……。で、これが何か?」


「ケイブジャイアントから取り出した二つの魔溜石のうちの一つなんだ……」と、ベッドの上の鹿角があぐらを崩し前のめりになって言った。

「最後は私が倒したわけだけど、カケル君も活躍したから……」


「自分が倒したというのは余計だと思うけど……」と、坂出(さかいで)が二段ベッドの上からツッコむ。


「ハハハ……。とにかく、カケル君もミュウを担ぎながらよく敵に挑んでいたし、私たちで話し合った結果、一つを君にあげることにしたんだよ」


「え? ほ、本当か? しかし……いいのか?」

 俺は掌中の黄土色の石に目を注いでから、周りにいるメンバーたちを見回した。

 

 雛季は羨ましそうに指をくわえ、他の者は一様に微笑を浮かべ頷いた。


「本当は売って生活費にあてるか、納税のために取っておきたいところだけど……美咲ちゃんの強い訴えでね、君にあげようということになったのよ」

 鹿角にニヤついて見られ、美咲は顔をわずかに赤く染め、早口に言った。

「き、君はまだ一つしか魔法を使えないでしょ? それではやはり今回みたいな強敵に遭遇した時に辛いから」


「俺が死んだら君たちにも関わってくるかもしれないもんな……」


「そう。だからカケル君には強くなってもらいたいの。本当は『グラジオラス』で成長してほしいんだけど、君が今でも別のパーティー入りを考えているのなら、尚更その魔溜石が必要でしょ?」


「本当に、くれるのか?」


「いらないのなら返してくれてもいいんだよ?」

 鹿角がそう言うと、雛季は両手を上げて、正座したままピョンピョン跳ねた。

「だったら雛季がもらうよ~。土っぽい色だからカケル君にあげてもいいと思ったけど、やっぱりもらえる物はもらっとく!」


「いや、いらないとはいっていないよ……。むしろ嬉しすぎる」


「結局もらうの? カケル君~」と口を尖らせた雛季。


「雛ちゃんは今度余分に手に入った時ね? カケル君が強くなることは私たちやお父さんたちにとってもいいことだから、この石はあげようね」

あやすように雛季へ言ってから、美咲はこちらに視線を向けた。

「カケル君。それを『エイト剣』にはめれば、新たな魔法を使えるようになるはずだよ。しっかり訓練して、モノにしてね?」


「あ、ああ……わかった。みんな、ありがとう。早速明日から試してみるよ」

 俺は親指と人差し指でつまんだ黄土色の『P』の魔溜石を改めて見た。

 地味な色だが、天井から降る魔溜石灯の灯りを当てると、キラキラ輝いて多少高級な感じがした。

 

 彼女たちの暮らしは貧しく、鹿角が漏らしたように、この石を売ってお金に換えた方が有意義だろう。

 しかしそれを俺に譲ってくれたのだから、無駄にするわけにはいかない。

 新しい魔法を発動できるようになって、さらに強化し、自分の身を護るだけではなく、いつか魔溜石を採取して恩返しをしたいと思った。


***********************************************


 翌日、『ビッグドーナツ』から少し離れた林の中で、早速訓練を始めた。

 新たに『P』の魔溜石を『エイト剣』の柄頭からはめ込んで、その剣を胸の前に構える。

 前方の数本の大木を敵に見立て、意識を集中させる。

 

 背後では琴浦姉妹が、見届け人となって立っている。

 雛季の横には、彼女が行く所にいつもついてくるミュウも静かに立っている。


『魔溜石の本』を見て、今の俺の『エイト剣』にはめられた魔溜石の種類で、少なくとも新たに三つの魔法が使えることがわかった。


 ということで、午前中から俺は『エイト剣』を様々な角度で、何度も振って試していた。

 そして……。

 まだ気が小さく、完成形には程遠い状態ではあるが、一応新たな三種類の魔法の発動に成功し、今から最終確認として、その三種の魔法を改めて繰り出してみることになった。


 一つ目。

「チップ・オブ・ダイヤモンドッ!」

【TIP(=先端)・カケル所持魔溜石、H、『I』、『P』、『T』】

 

 前に突き出した剣先から、青白い光が前方に伸びた。

 それはまるで『エイト剣』が何倍にも伸びたように見える。

 その青白い気でできた『剣先』は、15メートルほど先の大樹の幹に刺さって、木っ端を散らした。

光が飛散し消えると、幹にできた深い穴がはっきり見えた。


「よし……。まだ穴は小さいけど、確実に発動できるようにはなったな」

「うん。それじゃあ、次ね」と、美咲が背後から声を掛けた。

 

 俺は小さく頷き、柄を強く握り直した。

 深呼吸すると、自然と『エイト剣』を包み込むように青白い光が生まれる。

 言わば魔法発動の準備段階というこの状態に持っていくのにも、より時間が掛からなくなっていた。

「行くぞ……二つ目! ピット・オブ・ダークネスッ!」

【PIT(=穴、くぼみ)・カケル所持魔溜石、H、『I』、『P』、『T』】


 地面に円を描くように剣先を動かす。

 それに合わせて数メートル先の地面が青白く光り、小さな爆発が起きた。

 その場所の土が雑草と共にえぐれ、深さ30センチほどのマンホール大の穴だけが残った。これが『PIT(ピット)』という特殊攻撃魔法だ。


「最後は……やっぱ恥ずかしいが……」

 そう前置きを口にしてから、俺は『エイト剣』を振り下ろし、叫んだ。

「ワイド・ヒップスッ!」

【HIP(=お尻、腰)・カケル所持魔溜石、『H』、『I』、『P』、T】

 

 青白い二つの気が横に並んでくっつきながら放たれ、大樹にぶち当たった。

 貫通こそしなかったが、太い幹の中ほどまでえぐれたため、大樹が大きく葉を揺らした。もう少し衝撃を与えれば倒れてしまうかもしれない。


「すっご~い! 『お尻』が一番すごいよ、カケル君!」

「『お尻』と言わないでくれよ……」

 大声で言う雛季に、俺は少し恥ずかしくなった。


「よかったね、カケル君。これで攻撃のレパートリーが増えたじゃん」と、美咲が小さく手を叩いた。

 

「何か、悪いな。でも、二人の分も俺、強くなるからさ!」

 

「でも、調子に乗って勝手な行動をとるのは絶対ダメだよ? あくまでも君が一人の時、身を護る最低限の手段としてその石をあげたんだからね?」と、美咲は複雑そうな表情で言った。


「わかっているよ。鮫川じゃないんだ、安心してくれ」

 やっぱり返してなんて言われる前に、今日の訓練はこれぐらいにして、剣を鞘に収めた。

挿絵・ミュウ(手前)&(左から)宇佐、中間、広尾、雛季、浅川、小牧

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