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第839話・真昼の人魚

 海に遊びに来た『グラジオラス』メンバー。

 日焼けクリームなどを塗った後、しばらくは自由に過ごした。

 

 雛季(ひなき)、桜川、ミュウ&トラヒメ、浅川、小牧、青葉、二宮のように浅い場所ではしゃぐ者、鹿角(かづの)、玉城、中間、宇佐、広尾のようにもう少し入った場所で波と戯れる者、松川姉さん美馬さんのようにチェアーやシートで昼寝する者、美咲、東御(とうみ)坂出(さかいで)のようにパラソルの下で読書する者、そして鮫川(さめがわ)のように海で泳いだり浜辺を走ったりして体をいじめている者。

 

 俺と、ようやく股間の痛みが引いた鳩ケ谷(はとがや)は、浅瀬に入りながら、あるいはビーチサッカーをする振りをしながら、周りの女子たち(メンバー以外の海水浴客も含む)をチラチラ見ていた。なんだかフナムシよりも哀れな生き物のような気がしてくる。

 

 それから負けたチームが勝ったチームにおやつやジュースをおごるというルールでビーチバレーをした。

 鹿角や玉城や中間が肩ひもなしのビキニであることも忘れ(と言うか気にしていないのか)ハッスルしたため、ポロリが発生した。


 鳩ケ谷は3回とも見逃したらしく悔しがっていた。

 その荒れっぷりを見て、股間の痛みがもう少し長引いていた方がよかったんじゃないかとさえ思う。


 それからスイカ割りもした。

 雛季がやりたがったので最初にやらせてあげたのだが、目隠しした彼女は、みんなの右や左の指示を間違え、結局見当違いの砂場を棒で叩いて終わった。


 その後、松川姉さんが目隠しされて異常に興奮したり、浅川も小牧もスイカを叩くことはできたが力が弱いせいでうまく割れなかったり、鹿角たちにフザけた指示を出された鳩ケ谷が海の方に行ってしまったり、鮫川は「面倒くせぇ」と言っていたくせに本気で叩きに行ってスイカが飛び散り、一部が砂に混ざってしまったりと、楽しかったのは楽しかったが思いのほか時間を使ってしまった。


 それからそのスイカや、ビーチバレーの後に買いに行ったフランクフルトやじゃがバターなどのおやつなどを食べ、再び自由時間に。




 俺は、魚が見たいという雛季に頼まれ、彼女の浮き輪を引っ張って少し深い所に出た。

 雛季はゴーグルを付け、海中を覗き込む。俺は彼女の体が浮き輪から抜けないように押さえる役目だ。

 時々、手が雛季の胸やお尻に触れてしまうが、こっちも泳ぎながらなので仕方がないだろう。


 ワイワイと楽しむ雛季だが、海面で待っている俺は特に面白くもない。プカプカ浮いている雛季のお尻を眺めたり、浜辺の人に視線を投げたりしているだけだ。


 しかし、幸運が訪れた。

 美馬さんが泳いで、7、8メートル手前まで近づいて来たのだ。


「ぷはぁっ。ここまで来ると魚も見えるわね」

 美馬さんは赤みがかったピンク色の髪をかき上げながら言った。髪から飛び散る水滴はまるで宝石のようにキラキラと光る。

「でも、さすがにチンアナゴは見れないようね」


「さすがにこの辺りにはいないでしょうね……。と言うか、この星にもいるんですか、チンアナゴが?」と、俺。

「いるわよ。ちなみに君のパンツの中にいるのがチンアナゴじゃないからね?」

「わ、わかってますよ……!」


「それじゃあ、私はまた浜辺に戻るわ……あっ!」

 体の向きを変えようとした美馬さん。その双丘(そうきゅう)を半分ほど包んでいたブラが下にズレ、ピンクの乳輪がわずかに見えた。

「おお? おおお……」と、俺は思わずこぼす。


「え? 何? ……あっ、あら、出てしまったわね。それで瀬戸君、そんな声を出したのね? フフフ、声だけでしょうね、出したのは? ああ!」

 いつものように蠱惑(こわく)的に笑う美馬さんだったが、急に叫んだ。そして俺の背後を指す。


「え?」と、俺は振り返った。

「ああ! 雛季!」

 美馬さんに目を奪われている間に海中をのぞく雛季の浮き輪が沖の方へ流れていた。


「ん? 何~? ああ、離れてる! カケル君、何で離れてるの? 怖いよ、溺れちゃうの!」と、体勢を戻した雛季はパニックになりかける。

「落ち着け、雛季! 今、行くから。浮き輪があるから大丈夫!」

 正直、まだ少し美馬さんのことが気にはなっていたが、俺は冷静に言って雛季の方に向かって泳ぎ始めた。

 

 しかし次に顔を上げた時、雛季はさらに離れていた。

「ああん? 流されている? それにしても……」

 速い流れだ……。

 雛季も焦った顔をして、「キャー、キャー」叫んでいる。これ以上離れたら、さらに慌てて自ら浮き輪から外れてしまいそうだ。


「ハッ……! 影? 何か、いる!」

 雛季の浮き輪の下に何かが泳いでいた。大きな魚にも見えたそれには、手の影が見えた。

「何かが雛季ちゃんを連れて行ってしまっているわ。サタン・マーメードってやつかしら?」と近寄って来た美馬さんも言った。


「……サタン・マーメード? 要は人魚? 確かに、魚の上半身は白い肌の人間のようだが……」

「絵本の人魚のように男を誘い出して海の中に連れて行くこともあるけど、もっと直接的に人を水中へ引き込むことがあると言うわ。早く、雛季ちゃんを捕まえないと!」

 美馬さんはいつになく真面目な顔で言って、再び泳ぎ始めた。

 

 俺も彼女と、その先を進む雛季を追いかける。

 しかし、相手は魔獣の一種。しかも基本水中で生活しているとあって泳ぎは圧倒的に速い。雛季がどんどん離れて行き、彼女の泣きそうな声も遠のいて行ってしまう。


「ぷはっ! ひ、雛季ぃ!」

「雛季ちゃん!」

 俺たちは一旦頭を上げた。雛季との間に絶望的な距離が生まれている。

 

 その時、浜辺の方でも叫び声が聞こえた。浜辺にいた他の者たちもこちらの事態に気づき叫んでいるのだ。

 そして美咲や鹿角らしき数名が『エイト剣』を持って海に飛び込んだ。確かに魔法があれば、魔獣に追いつくこともできるかもしれない。


 しかし、彼女たちがここまで来るのにまだ時間は掛かる。

 黙って美咲たちが来るのを待つか?

 美馬さんと共に波に揺られながら迷っていると……。


「ああ、あれ、トラヒメ君?」

 本当だ。トラヒメがホッキョクグマ並みに体をふくらませ、犬かきで必死に泳いでくる。その背にはミュウがしがみついていて、『エイト剣』を抱えている。


「ミュ、ミュウ……泳ぎは苦手なはずだが、必死に……。もしかして、持っているのは俺の?」

 ミュウを乗せたトラヒメは体を大きくしている分、泳ぎが力強く、美咲たちよりもだいぶ早く俺たちの所へやって来た。


「瀬戸さんと、美馬さんの剣、持ってきた。雛季ちゃん、助けてあげて」

 ミュウは波に怯えながらも上体を起こし、2本の剣を見せる。

 いち早く寄って行った美馬さんがそれを受け取り、俺の分も渡してくれた。


「ありがとう、ミュウちゃん。でも、瀬戸君。加速系の魔法はある? もしくは遠距離の相手を正確に攻撃できる魔法。瀬戸君がよそ見をしてしまったのは私の色気の罪だから、何とかしたいのだけど、私にはそういう魔法がなくて……」

 美馬さんはいつになく自信なさげだ。


「『SNIPER(スナイパー)』なら、雛季に当てずに敵だけ撃てるだろうけど、少し距離が開きすぎだ。『TRIP(トリップ)』でもっと近づいてからだ! ミュウはトラヒメと浜辺に!」

 俺は海面に出している剣の先に気を溜めながら言った。


「うん。気をつけて」とミュウは不安げに返し、トラヒメは体の向きを変え、浜辺の方に引き返す。


「私は行くわ。行く時は一緒よ、瀬戸君!」

 こんな時でもちょっといやらしく聞こえるのは美馬さんの日ごろの言動のせいか……。

 彼女は剣を振った俺の肩にしがみついてきた。


「セット! トリップ、トリップ!」

【SET(=セット、ひと組)・カケル所持魔溜石、A、『E』、G、H、I、N、P、R、『S』、『T』】

【TRIP(=旅行)・カケル所持魔溜石、A、E、G、H、『I』、N、『P』、『R』、S、『T』】


 美馬さんを背負いながら、そのまま『TRIP』を連続で発動。一気に雛季とサタン・マーメードなる魔獣との距離を詰める。

「クソッ、まだ距離がある!」

 すぐさま『SNIPER』を発動しようと剣をライフル銃のように構えたが、その標的はまだ小さすぎる。


「相手もかなり速いから……。そのうち雛季ちゃんが海中に引きずり込まれてしまうわ」と、背中で美馬さんが叫ぶ。胸がしっかり押し付けられているが、さすがにそれどころではない。


「怖いこと言わないでくださいよ。とにかく! こうなったら、加速だ」

「あるのね? 加速系の魔法が」


「正確には加速に特化した魔法ってわけではないけど……ウォーリア・グラフッ!」

【GRAPH(=グラフ、図表)・カケル所持魔溜石、『A』、E、『G』、『H』、I、N、『P』、『R』、S、T】

 

 上に伸びる棒グラフをイメージし、剣を構えた。銀の光が刀身を包む。

「行くぜ!」と、俺は泳ぎ始めた。

 美馬さんが背に掴まりながら「来て!」と、わけのわからない掛け声を発する。

 

 俺たちは一気に前へ進んだ。まるで魚になったような感覚で、雛季の明るい茶色の髪を追いかける。『GRAPH(グラフ)』がうまく発動し、速度がアップしたのだ。

「頼む、届いてくれっ!」

 絶望的に遠くに見えていた雛季の姿が徐々に大きくなっていく。


「カケル君~、ここだよ~。変な女の人の魚が引っ張るんだよ~」

 手を振る雛季の声も段々はっきり聞こえるようになった。

 もう『SNIPER』の射程距離に入った。俺は一旦泳ぐのをやめ、美馬さんに預けていた剣を受け取り、ライフルのように構える。


「ヒロイック・スナイパーッ!」

【SNIPER(=スナイパー、狙撃手)・カケル所持魔溜石、A、『E』、G、H、『I』、『N』、『P』、『R』、『S』、T】

 

 刀身の先から射出された青白い気が、雛季の浮き輪の傍に見えている白い腕を貫いた。

「キャウウウッ!」と、やけに響く声を発した魔獣は雛季から離れた。


「雛季ちゃん!」

 その間、美馬さんが雛季の方へ泳ぎ、その浮き輪を掴んでまた戻って来る。

「美馬姉ちゃん! あう~、怖かった~」と、雛季は引っ張られる浮き輪にしがみつきながら半泣きだ。


「もう一度『GRAPH』を使って加速して戻ろう! 二人とも掴まって……胸が潰れるぐらいに!」

「わかったわ。待って……」

 近寄って来る美馬さんと雛季。

 

 だがその前に……底を黒い影が過ぎて行く。

「! 追って来ている……うわっ!」

 俺の前で飛沫(しぶき)が上がり、青白い肌の人魚が姿を見せた。プラチナブロンドの長い髪、美女の顔立ち、上半身裸で小ぶりな胸の膨らみもある。ただ、下半身は緑や銀に光る鱗を持った魚だ。

 

 その美貌と、本物の人魚の存在感に、防御魔法を発動することができない。

 いや、剣は振れている。しかし防御魔法の気の壁が生まれない。


「……まだダメなのか?」と、俺は呟く。

 そう、俺はしばらく防御魔法がうまく行かないことをわかっていた。『GRAPH』で速度を上げた時、代わりに防御力を犠牲にしたからだ。


 最近は『GRAPH』で上げたい力と、その代わりに下げる力を、2回に1回の割合でうまくイメージできるようになっていた。今回も念じた通り、防御魔法を下げる代わり、速度を上げることができた。

 

 もちろんやろうと思えば、防御力ではなく、攻撃力を下げる代わり、あるいは発動距離を狭くする代わりに速度を上げることもできただろうが、加速して魔獣に接近できた時に攻撃力が低かったら意味はないし、発動距離が狭すぎても攻撃は当たらなくなるかもしれないし、体力を下げたら、ただでさえキツいこの状況で泳ぐ力がなくなり溺れてしまうかもしれない。

 だから防御力を捨てたのだ。

 

 しかし、未だに防御魔法が築けないとは……。

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