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第836話・夏を待っていました

 日が進み、それぞれの『個人戦』第3戦が終わって、あっという間に夏季休暇前日になった。

 

 その放課後、俺は担任の香取先生に呼び止められた。必然的に、いつも一緒に寮へ帰っているメンバー(鮫川(さめがわ)も含めた『グラジオラス』メンバー)も教室に残る。

 

 長期休暇前に別れを惜しむ生徒たちに帰宅を(うなが)し、教室から彼らを追い出した香取先生は、ようやく俺たちに話を戻した。

「えっと、犬上(いぬかみ)君のことについてなんだが……ここにいる者はみんな知っているのかな?」


「ええ、まぁ」と、俺。

 その話はあの後、鹿角(かづの)や青葉や東御(とうみ)、鮫川や鳩ケ谷にも伝わっている。


「瀬戸が容疑者になっとる事件じゃな」と、鳩ケ谷が嬉しそうに言う。

「アホ! あれは蒲生(がもう)が勝手に言っただけで、中央本部が俺を取り調べているってわけじゃねぇ」

 そう言い返すと、香取先生が「蒲生()()だろ、瀬戸君?」と、溜息交じりに言った。

 

 さらに鮫川が「ついに瀬戸に逮捕状が出たって話か、先生よ?」と半笑いで訊く。


「いや、むしろ疑いが晴れそうって話だね」

 香取先生のその言葉に、俺は「おっ」と目を輝かせた。

「何か進展があったんですね、犯人についての情報に!」


「ああ。まぁ、まだ犯人は捕まっていないし、中央本部もそこまで詳しい情報を伝えてきてはいないんだけど、『牙』だからということで少しだけ教えてもらったことによれば、犬上君は襲われた日の少し前から新しい『エイト剣』を探していたらしい」


「新しい『エイト剣』を?」と、一同首を傾げる。

「どういうこと? なくしちゃったのかな?」と、雛季(ひなき)だけ少し的外れなことを呟く。


「瀬戸君は星取表を見て知っているだろうが、彼は『個人戦』の初戦と2戦目を落としていて、つまり連敗中だった。友人たちの話ではかなり焦っていて、新しい『エイト剣』を手に入れたがっていたらしい。彼は前々から、自分が持っていた『エイト剣』と自分との相性が悪いと感じていたらしいから」


「ああ、それで新しい剣にしたかったわけね」と、鹿角。

「発揮しやすくなるかもしれないと言われているね、能力が。今ある魔溜石(まりゅうせき)を全部、相性の良い新しい剣に換えることで」と、東御も納得したように言う。


「でも、前の剣には経験値が積み重なっているだろ? それを捨てて新しいものにすると、しばらくは余計弱いよな?」

 

 俺のその投げかけに、答えたのは香取先生だ。

「ああ、基本はそうだ。いくら相性の良い『エイト剣』を見つけられたとしても、少なくとも瀬戸君との第3戦には強化が間に合わなかっただろうね。しかし、とにかく犬上君は新しい剣を手に入れたがった。夏休み中に強化して、第4戦や最終戦に賭けていたのかもね」


「探すというのは、やはり横流しされた物を手に入れようとしていたということですか?」

 美咲が真剣な面持ちで問いかける。

「そうだね。魔獣などにやられた者から中央本部よりも先に回収して裏で売りに出されている物を、買おうとしたんだろう。瀬戸君や鮫川君もそうしたらしいから強くは言えないが、お勧めできないね」

 香取先生はそう言って、俺たちを見た。


「確かに……適性試験を過ぎていた俺たちはそうするしかなかったけど、すでに『エイト剣』を持っている者がわざわざすることはないな」と、俺。


「売っている者たちも悪い人たちだったりするんでしょう?」と、青葉が言った。

「俺たちも後からいろいろ面倒なことがあった」

 俺がそう言い、鮫川も思い出してムカムカした様子だ。【第49話・参照】


「つまり、その犬上っちゅう奴も、剣の売り手とトラブルになったというわけかのぉ?」

「そうらしい。彼が亡くなった日、彼は『エイト剣』の売り手の居場所を聞き回っていたという話だ。そしてあの日、彼は……いや、何でもない」と、香取先生はそこで口を(つぐ)んだ。眉間にシワを刻み、メガネの奥の瞳はずっと教卓に落ちている。


「怖いね」

「気の毒だね」などと女子たちが呟いている中、俺はその香取先生の心ここにあらずというような表情が気になった。

「……先生、どうかしました?」


「ん、ああ、いや……」と、先生はいかにも無理やり笑みを作った。

「それより、明日から夏休み。君たちも今年は2年生だ。昨年の夏とは違うからね? 遊びすぎないように」


「は~い」と、雛季をはじめ明るく返答し、一同教室を出た。

 立ち去る香取先生の肩がいつもより沈んでいるように俺には見えた。


 ******************************************


 何はともあれ、夏休み。

 

 軽く荷物を集めた一行は、寮を出て、まず琴浦家に立ち寄り、いつものようにお茶をしながら話し、それからそれぞれの家に帰る。

 と言っても、琴浦家に残る鮫川、自宅に帰る鳩ケ谷、亘理(わたり)吾妻(あがつま)、目黒さんのアパートに帰る彼女と白鷹(しらたか)以外のメンバーは休暇中も『ビッグドーナツ』で過ごすので、つまり我ら一行のほとんどの者が一緒だ。


 同じクラスとなった『黒衣の花嫁』の出水(いずみ)さん、朝霞(あさか)さんも、『メドゥシアナ』の美馬さんと柳井(やない)さんたちも一緒に帰った。

 

 毎度のように、多くの女子に囲まれて帰る俺を羨ましがった鳩ケ谷が別れるのを渋ったが、美馬さんの『TEMPTATION(テンプテーション)』を食らって、命令を受け帰された。

 

 出水さんたちと別れ、中庭のテントで家族と暮らす二宮や隣室の美馬さんたちとも一旦別れ、『グラジオラス』メンバーは部屋に入る。

 これまた毎度のことだが、部屋にいた玉城(たまき)や松川姉さんたちに迎えられ、半分フザケながら再会を喜び合う。俺も、薄着の玉城たちにもみくちゃにされ、久しぶりに彼女たちの柔肌を感じた。

 

 これからしばらく、もっと刺激的な日常がやって来る。

 夏が、来たのだ!

 

 などと言ってもいられない……。

 税金の引き上げにより、昨年よりも魔溜石採取やバイト、依頼をこなすなどしなくてはならない。

 また、相変わらず行方がはっきりしない伊賀のことを、それでもできる限り捜さなくてはならないし、熊野のオッサンを殺したあの王寺(おうじ)に似た男の謎も残ったままだ。

 十和田(とわだ)さんに任せきりとなっている、親父の手がかり探しも気に掛かる。

 

 もちろん新学期からの成績アップのために、剣や魔法の訓練も続ける必要がある。

 この夏、やることはいっぱいあるのだ。




 しかし、やっぱり休みが始まった1週間はだらけてしまった。

 ここぞとばかりに遊びまくる雛季や鹿角や青葉や二宮、暑さに弱く、いつもよりもだらけがちな桜川や東御につられてしまって、遊んだりだらけたりして過ごしてしまった。

 

 また、玉城や松川姉さんなど『牙』に通っていないメンバーとは、マッサージや一緒に買い物などの誘惑的なイベントが続いた。

 

 さらに昨年の夏とは違って、美馬さんも加わっている。

 美馬さんとのゲーム相手やマッサージ(松川姉さんの時とは違い、こちらがマッサージする方だ)、『エイト剣』の訓練という名の『TEMPTATION』によるいたずら(代わりにこちらは『STRIP(ストリップ)』を使わせてもらった)などの誘惑的なイベントもあった。

 内心では幸せだが、時間は奪われる一方だ。

 

 それでも、やはり伊賀のことは気になり、護衛として琴浦姉妹や桜川を伴いながら天川(てんかわ)の所に行ったこともあった。

 しかしやはり伊賀についての新情報は得られなかった。

 

 夏休みが1週間過ぎてから、いつまでもだらけていられないということでパーティーに来ていた小さな依頼をこなしていった。

『ビッグドーナツE』近辺の家の魔溜石灯や『魔神具(マシング)』などの修理、店番などが多いが、治安が悪化していることもあって護衛の仕事も少しだけあった。

 

 さらに、短期間で魔溜石採取に二度も出た。

 一度は、諸塚の件でやや不満を抱いている篠山(ささやま)純太と黒石に促されたためであるが、二度目は俺の親父の行方の手がかりを求め、それを主目的としてレインボーバードリバーの先に行ったのだ。


 俺、琴浦姉妹、鹿角、桜川、ミュウ&トラヒメ、青葉、東御、鮫川、鳩ケ谷といういつものメンバーに、二宮と美馬さんが加わった。

 

 レインボーバードリバーの先……特に『勇者の町』を離れると草原や森が広がっていて、人が長い間住める建物というものは5軒も見つからなかった。あったとしても、魔溜石採取に向かう冒険者たちが一時休むために作られた小屋のようなものだ。


 そのため、父・国博(くにひろ)の行方を知る手がかりは掴めなかった。

 ただ、捜索の手を森の方にも広げれば何か見つかりそうな気配のようなものは掴めた。


 それでも、今の戦力では難しい(今回も、なかなか手ごわい魔獣と遭遇してしまって、雛季や桜川や青葉や二宮辺りはてんやわんやしていたし、鳩ケ谷は人の後ろに隠れる、鮫川や鹿角は自信過剰でピンチを招く、あと個人的な問題だが美馬さんの体に目を奪われてピンチになりそうになるし、かなり苦戦する場面があった)。


 また、自分の親父のことに他のメンバーをこれ以上巻き込むのは気が引ける。

 

 まぁ、親父の行方を知る手がかりについては得られる物はなかったが、二度の魔溜石採取で幾つかの魔溜石を持ち帰ることができ、とりあえず篠山組も納得させたし、パーティーの貯えもできた。


 *********************************************


 その後、『北東部エリア』にある孤児院から魔溜石灯などの整備の依頼が入った。

 孤児院の近くを拠点としているパーティーは幾つかあるし、魔法術師も住んでいるはずだが、比較的依頼料の安い『グラジオラス』に頼んだらしい。

『グラジオラス』メンバーは手の空いている者が多いので、鹿角も二つ返事で依頼を受けた。


 メンバーの対応がよかったということで、その孤児院からはさらに子供たちの剣や弓の訓練の依頼も入った。魔法能力適性試験を受ける年齢を中央本部が引き下げたということで、孤児院にいる15歳未満の子供たちも早くから準備を始めたいということらしい。


 大人たちの『エイト剣』、『エイト弓』などを持ち、発光するなどの反応が出た……すなわち魔法能力が備わっていると思われる13、4歳の少年少女はもちろん、まだ魔法能力が備わっているか判断できない12歳未満の小さい子たちも合わせて20名ほどの子供たちが『ビッグドーナツE』にやって来て、訓練場で俺たちの訓練を受けた。


 中には幼すぎたり体が弱かったり魔法を怖がったりする子もいたが、その子たちは雛季や桜川やミュウたちが部屋で遊ばせた。


 剣の訓練を受けた子たちの中には、魔法剣士や魔法弓士としての素質がありそうな子もいて、彼らはその後も何度か『グラジオラス』のメンバーの特訓を受けている。


 それ以外にも小さな依頼をこなしたりバイトをしたり、空いた時間には自分たちの剣や弓の訓練をして、『グラジオラス』メンバーは昨年の夏休みよりも忙しく過ごしていた。

「ああ~、最近は結構働いているな~。そろそろ遊びた~い」と、鹿角が言いだすのも当然と言えば当然だった。


「雛季も~」

「わ~い、遊ぼ、遊ぼ!」

 雛季や青葉、玉城たちもすぐにノッた。

「そうだね。確かに、少し息抜きも必要かもね」と、美咲や坂出など真面目なメンバーも同調する。


「それなら、やっぱりプール?」と、松川姉さん。

「いや、姉さん。ここは1、2泊で考えて、南の海に行こうよ?」と、中間(なかま)

「ああ、それもいいわね。1、2泊と言わず1週間ぐらいのんびりしましょうか」

「いや、そこまでのんびりすると、また働きづめになるから」と、俺。

 

 その後の話し合いで、結局2泊ぐらいで南の海に海水浴へ行くことに決まった。隣室の美馬さん、中庭のテントにいる二宮も誘った。

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