第18話・多分、知り合いの男
「怪しい男が来る!」と叫び、美咲が剣を構え俺の背後に向かって走り出す。
妹の雛季も剣を構えた。
慌てて俺も振り返った。
確かに、広場を走って男がこちらに迫って来ていた。しかしそれは……。
俺が二人を制止するよりも早く、そしてその男が声を発するよりも早く、雛季が剣を軽く振り下ろした。
剣先から光が弾のように飛び出し、男の体に当たる。
男はうめき声を上げながら、突風に吹かれたように後方の宙へ舞った。
身長180センチほどの大柄な男の体が、指で弾かれた鼻くそのように簡単に吹っ飛び、10メートルほど後方で転がって倒れた。
「ぐわっ……痛ぇ……クソがっ!」
男はクレーンゲームの景品のようにちょっとずつ動きながら、上体を起こした。
一方、雛季と美咲も剣を構え、男の方へじりじりと歩み寄り、対峙する。
「……何すんだ、女ぁ! と言うか、今の攻撃は……もしや」
男が射るような目を向け、咆哮のような声で言うと、美咲も負けまいと強い口調で返した。
「あ、あなたこそ何ですか? 無言でこっちに迫って来て……!」
「……何だ、この女どもは? 説明しろ、瀬戸!」と、男は彼女たちの背後の俺に向かって言った。
直後、姉妹も丸くなった目を俺に向けた。
「え? カケル君……知り合い?」
肩を小さくすくめてから、苦笑いを浮かべ答えた。
「この星にこの手の魔獣がいないとしたら……多分こいつは俺の知り合いの鮫川って奴だ」
「多分って何だよ、てめぇ!」と、その男……鮫川武蔵はうなった。
数日ぶりに見た鮫川の口周りには、シャワーカーテンのカビみたいなヒゲが斑に生えている。
「二人とも、やめてやってくれ。こいつは鮫川って言って、向こうの世界でのクラスメイトだった奴なんだ。俺と一緒に連れて来られちまった奴だ……」
「ったく……。お前のせいでとんでもないことになったみたいだな、瀬戸?」
「いや……俺に言われてもなぁ」
「信じるのに時間が掛かったが、100年以上先の異星に飛ばされたみたいだぞ? わかってんのか?」
砂埃を払って立ち上がった鮫川に、
「らしいな……。俺も混乱している。ただ、缶詰ができてから缶切りが発明されるまでに48年かかったことを考えると、100年の経過というのも意外と……いや、やっぱりそんな楽観的には考えられん……」と、俺は髪をクシャクシャと掻いて答えた。
「クラスメイト……学校の友達ってことだね? そうだったのね。それだったらもっと早く言ってくれれば……」
「そうだよ、カケル君~。お友達なら、雛季もやらなかったよ~?」
姉妹はそれぞれ剣を鞘に収めながら、申し訳なさそうに呟いた。
「いや、鮫川だと気が付いて止めようと思ったんだけど、剣さばきが速すぎて……」
それにクラスメイトであっても友達ではないと付け加えると、鮫川は「フザけるな」と怒りに満ちた目を向けてきた。
そんな彼にも、琴浦姉妹は優しく手を差し出して言った。
「ごめんなさい、さめ……鮫川さん? 怪しかったもので、つい……」
「怪しかっただと?」
鮫川は歯噛みして、差し出された姉妹の手を無視した。
「鮫ちゃん……怒ってる」と、雛季が悲しそうな顔で言うと、鮫川はさらに不快そうな顔つきになった。
「鮫ちゃんって何だよ? おい、瀬戸。この女どもは誰なんだ? まさか、のんきにナンパしたんじゃないだろうな?」
「そんなわけないだろ! 彼女たちは、なぜかこっちでの俺の生活をサポートしてくれることになった人たちだ」
「琴浦美咲です。こっちは妹の雛季」
「雛季です! ひなきちゃんかひなちゃんて呼ばれ……」
雛季を無視して、鮫川は喋りだす。
「どうしてサポートをしてくれるんだ? 騙されているんじゃないのか?」
無視されて口を尖らせる雛季の隣で、美咲が言った。
「騙しなんかしませんっ! 詳しくは私たちの家で話します。もうすぐの所ですから、鮫川さんもよければ来てください」
そう言って歩き出そうとした美咲を、俺は引き止めた。
「ああ、待って。その前に、鮫川。伊賀はどうなった? 俺が耳にした話では、あいつもここへ連れて来られたらしいんだが?」
「ああ……。目が覚めたら、お前の家からワープして、あいつと共に変な部屋にいた。『キャッスル』だか何だか、そんな田舎のラブホテルみたいな名前の場所の、病室みたいな部屋だ。俺たちは隙を見てそこから抜け出したんだが、伊賀とは途中ではぐれちまった。それからもう数日経つぜ」
「何? じゃあ、伊賀はこの数日間一人で……」
「俺も同じだ。大変だったんだぞ」
「ああ、それはそうだったな。しかし今はあいつだけ一人だ。どこで何しているんだろう……。早く捜し出してやらねぇと」
そう呟いてから少し考え、美咲に顔を向けた。
「あのさ……俺一人だと心細かったけど、今は鮫川と会えたし、俺たち二人で伊賀っていうもう一人の男を捜しに行こうと思うんだが……」
美咲は溜息をつきながら、両目を閉じて首を横に振った。
「ダメだよ。二人でも危険は変わらないよ」
「いや~、でも……こいつは結構頼りになる奴なんだ」
俺が鮫川の肩を叩いて売り込んだが、意外にも、本人も首を横に振った。
「いや……確かに今はまだ、その女たちの協力を得る方がいいかもな」
「何? お前らしくないな、鮫川」
鮫川はやや苛立ったように頭を掻いてから、
「今の攻撃見ただろ? 剣から空気の塊みたいなもんを放って、俺を吹っ飛ばしたんだぞ? あの日、お前ん家に現れた奴らもそうだっただろ? こいつらも同じ黒い剣を持っているから、少しは力になるだろう」
鮫川の指先が向いた姉妹の方に視線を送ると、彼女たちは同意するように頷いた。
「鮫川さんは少し知っているようだね、この剣のこと……」
「俺もそれには気が付いていたけど……その黒い剣、通りにも同じような剣を持った奴らがいたけど、一体それは何なんだ?」と、俺は訊いた。
姉妹よりも先に答えたのは鮫川だった。
「その剣は特殊な剣なんだろ? 何とかって言う石を取り付けると、石が持つ特殊なエネルギーで攻撃を発動できるように作られているらしい」
「い、石って、魔溜石か?」
少し置いてけぼりになった気分で、美咲に問いかける。
「ええ、そうなの。持っていれば全員が全員、今のように力を発揮できるっていうものでもないんだけど……。幸運にも私たちは二人ともできるの」
「兄弟姉妹でも、どちらかができないってことは多いんだよ~。だけど雛季とお姉ちゃんは二人ともできるの! 凄いでしょ~?」
「よくわからないけど、凄いことなのか? ……しかし、鮫川。何でお前そんなに詳しくなっているんだ?」
そう問われて、鮫川は面倒くさそうに話を始めた。
「俺たちが捕まってすぐ……あいつら、俺と伊賀に戦士としての資質があると見抜いたのさ。そして俺たちに兵士としての訓練を受けるよう勧めてきた」
美咲が驚いた様子で、話に割って入った。
「いきなりですか? それは凄いことだと思う。異例なこと。普通は剣術の学校へ通い、そこでよい成績を残さないと中央本部兵や衛兵に誘われることなんてないと聞くから……」
「まぁ、その点は見る目があったと褒めてやりたいが」と鮫川はまんざらでもない顔をして、話を続ける。
「しかし、そん時は今以上にわけがわからない状態だったし、訓練? そんなものをして、奴らの下に付きたいとは思わなかったね。それは伊賀も同じだった。だから二人で脱出することにしたんだ」
「よく抜け出せたな? いくらあいつらの目が俺たち研究員の関係者一行に集中していたとは言え……」
「普段は厳重な監視がされているみたいだが、その時は意外とスルスル行けたさ。俺も後から知ったんだが、お前らの対応でパニックになっていたらしいな。まぁ、もちろん俺たちが追ってくる奴らの攻撃をうまくかわしきったってことが一番大きいが……。その後だ。建物を出て、とにかく無我夢中で壁の方へ突っ走っている時に、伊賀とはぐれちまった」
「それじゃあ、伊賀は壁の外に出られたかわかっていないのか……」
俺は歯ぎしりをし、握りしめた拳で自分の膝を叩いた




