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第1135話・英霊の聲〈こえ〉 《キャラ挿絵・再≫

 現実の世界で目覚め、病院内。

 鎌ケ谷(かまがや)さんたちを見かけた。上高井(かみたかい)さんを見舞いに来たらしい。


「ん? お前……瀬戸か?」

 鎌ケ谷さんが俺に気づき、指を差してくる。

「ああ、いたね、瀬戸って子」と色麻(しかま)さんがそっけなく言い、「ああ、瀬戸君! 久しぶりね。君もここに?」と川口さんは好意的な笑みを浮かべた。


挿絵(By みてみん)


「ケガして入院したんでしょう。この子、『(きば)』にいた時からそんなに強くなかったじゃない」と、色麻さんがまた嫌味をこぼす。

「まあな」と、鎌ケ谷さんもつられて笑う。


「それは、同じく魔獣との戦いで怪我を負った私への嫌味でもあるわね?」

 上高井さんが苦笑いで言い、色麻さんたちは慌てて否定した。


「……と言うことは、上高井さんもケガを?」

 俺は思わず割って入った。『幻影の世界』でのことがあるから、気が気じゃない。


「……ええ」と、上高井さん。そしてグレーの髪の人をはじめ『グア・ハム』のメンバーが一様に目線を落とした気がした。

「私は大したことはなかった……。でも……」

「……もしかして、亡くなった人がいますか?」と、俺はつい口走って訊いてしまった。


「何だよ、瀬戸。関係性薄いくせに、他人の事情をズケズケ詮索すんなよ?」

「いいのよ、鎌ケ谷君、少しくらいなら……。いつまでも落ち込んで、このことから逃げ続けてもいけないわ」と、上高井さんは気丈に言った。


「す、すみません」と、俺はとりあえず謝る。その際、グレーの髪の人やショートカットの人にも親しげな眼を向けるが、『現実世界』の彼女たちは俺を知らないのだった。二人とも曖昧(あいまい)な表情を返すだけ。


 上高井さんが続ける。

「先日、『魔の森』に魔溜石(まりゅうせき)採取に向かって、メンバーが命を落としてしまったの。キャプテンとして痛恨の極みだわ……」と、上高井さんは最後に唇を噛む。


「あなたも助けに入って、長い治癒が必要なほどの大けがを負ったんじゃない、上高井ちゃん? 誰も責めたりしないわよ」

 色麻さんが慰めると、鎌ケ谷さんや他の『グア・ハム』メンバーも励ましや感謝の言葉を掛ける。

 

 一方、俺は『現実世界』で起きていたそのことが、『幻影の世界』にもしっかり反映されていたことを知り、やはり驚く。


「うん? なに、瀬戸君? 『現実世界』でも……って?」

 色麻さんが俺を見てくる。

「え?」

「いや、今、君がボソッと言ったじゃない?」

 

 どうやら口に出してしまっていたらしい。しかしこの色麻って人は、無関心を装いつつ、よく他人のことを観察しているものだ……。

「ああ、そう? いや、実は……」

 俺は『幻影の世界』にいて、そのため現在入院していることを手短に報告した。




「ナイトメア・リバティーンか……。聞いたことはあったが、実際呑み込まれる間抜けな奴がいたとはな」と鎌ケ谷さんが嫌味な笑みを浮かべ、色麻さんや後ろの『ハイペリオン』のメンバーにも笑いが起こる。

 

 ただ、戦った魔獣の種類が違うにしても、同じパーティーのメンバーの命を(うしな)ったばかりの『グア・ハム』メンバーの方には笑顔はなく、俺への同情が表情に見て取れる。ちなみに川口さんもどちらかと言えばそんな顔つきだ。


「不運が重なっただけですよ」と俺は鎌ケ谷さんたちに返してから、上高井さんの方に視線を移した。

「その『幻影の世界』で会ったあなたたちも、やはり落ち込んでいました。亡くなったのは、黒髪の長身で筋肉質な女性ですよね?」


「そ、そうよ……。驚いた……。それなら、本当に『幻影』の中でも起きていたのね……不思議」

 上高井さんたち『グア・ハム』メンバーは、驚きの色を隠せないようだ。

 

 俺は「ええ、本当にわけがわからないんですが……せっかくだから伝えておこうかな?」と言った。

「伝えるって……私たちに、何か?」


「はい。向こう……『幻影の世界』では、なぜか死んだ人も見えるようになっていて。『牙』在学中に亡くなった友が見えたり、鳩ケ谷が見えたりなんかもしたんですが……」

「ハトガヤって……あの鳩ケ谷君?」

「いつ死んだの、彼?」

 川口さんに次いで色麻さんが口を挟んだ。どうやら勘違いさせてしまったらしい……。


「あ、いや、間違えました。彼は『幻影の世界』で死んだだけでした。『現実世界』では生きています。悔しいぐらいの生命力です」

「ああ、そうなのね……」と、色麻さん。さすがにどんな人相手にしても、死を喜ぶほど冷酷ではないと思いたいが、その声にはどこか落胆が感じられた。


「とにかく話を戻しますと……実は、上高井さんたちと一緒に、その黒髪の人とも会ったんです、俺」

「彼女と……? 亡くなった後に、と言うことよね? つまり、彼女の霊?」

 グレーの髪の人たちと顔を見合わせてから、上高井さんが訊いてきた。


 俺は(うなず)く。

「はい。俺だけが見えて……。そして別れる際に、霊の女性が呟いたんです……」

 俺はあの時のことを改めて思い起こし、頭の中で整理してから、上高井さんたちに伝えた。


『あなたたちには、出会ってからずっと感謝しているわ。ありがとう』


『あなたたちはまだ若い。振り返らず、前を見て。自分たちの道をしっかり見極めて、ゆっくりでもいい、その道を信じて進んで行きなさい。ずっと、あなたたちの幸せを願っているから……見守っているからね』


「彼女が……そう言ったのね?」と、上高井さん。

「ええ。その時は俺、まだ彼女が霊だと気づいていなくて、これは俺たち『グラジオラス』に向けて言っているのかと勘違いしたんですが、それにしては感謝され過ぎかなって気もしていて。あとからその女性が幽霊だとわかって、この言葉は俺を介して上高井さんたちに伝えたかった言葉だったんだとわかりました」


 上高井さんも、グレーの髪の人やショートカットの人たちも、目を潤ませて俺に頭を下げた。

「……ありがとう、伝えてくれて。本当に、ありがとう」

「ありがとう、君」

「いや、俺は伝えただけなんで……」と、少し照れ臭くなる。

 

 そんな感動的な雰囲気に包まれた中、鎌ケ谷さんが口を挟んだ。

「でも、それは魔獣が創り出した世界での話なんだろ? 霊の世界に現実もクソもないかもしれないが、その言葉がその人の言葉とは言えないんじゃないか……と、何だよ、川口?」

 

 川口さんが鎌ケ谷さんの腕を引っぱって制した。

「現実的なことは今はいいじゃないですか、鎌ケ谷さん? 上高井さんたちがその方の気持ちとして受け取ったんだから」

 

 そ、そうだよ。せっかく感動的な場面になっているのに、水を差す人だ……と、俺もつい眉をひそめる。

 

 色麻さんは鎌ケ谷さんの肩を持とうとしてだろう、口を開きかけたが、上高井さんが声を被せた。

「ええ。瀬戸君が伝えてくれたこと、私たちには響いているわ。生前の彼女の性格を考えると、もし彼女が最期に……私たちに声を掛ける時間があったなら……今瀬戸君が伝えてくれたようなことをきっと言ってくれると思うの」


「そうですよね。自分には厳しいところもあったけど、人には優しい人だったし、他のメンバーのことを気に掛けてくれる人だった」と、ショートカットの若い女性は言って目頭を押さえる。

「ええ」と、上高井さんや他の『グア・ハム』メンバーがうなずいた。


「そう……それなら、上高井ちゃん……」と、色麻さんが改めて言った。

「要は、くよくよしないで進んで行きなさいってことだよね? 私は感謝している、気にしないで、とも。上高井ちゃんたちは、その人を助けられなかったと後悔ばかりしていられないわけだよ?」


「……ええ、そうだね」と、上高井さんは軽く目を拭ってから、微笑んだ。


「それに……」と、川口さんも優しく微笑んで上高井の背をさする。

「これからは、私たちも仲間。上高井さんたちも、私たちを頼ってね? 頼りになるかわからないけど」


「そう、特にキャプテンの鎌ケ谷様がいれば、これ以上辛い思いをしなくていいと思うわ」と色麻さんも言い、鎌ケ谷さんも「まあな」と(あご)ひげを触りながら、まんざらでもない顔だ。


「そうね。わかってる……。あの人が遺した言葉を信じて、この悲しみを乗り越え、前に向かって行くわ」

 上高井さんがやや力を込めて言い、他の『グア・ハム』メンバーも同調する。

 

 一同の言葉が途切れたのを待ってから、俺はようやくまた口を開いた。

「えっと……今の感じだと……と言うか、そもそも鎌ケ谷さんたちがここにいる理由を訊いていませんでしたけど……もしかして今言っていたことと関係が?」


「何よ、君、まだここにいるわけ?」と、色麻さんがジト目で見てくる。

「確かに、瀬戸は別のパーティーの……つまり部外者だからなぁ。答える義理はないかもなぁ、ハハハ……」と、鎌ケ谷さんも意地悪く言う。

 

 ただそれにはやはり川口さんが「意地悪しないの、二人とも」と注意してから、俺へ優しく言った。

「私たちも、『グア・ハム』の彼女たちと……ああ、今は『ハイペリオン』だけどね……」と、彼女の視線は一度グレーの髪の人たちに向けられた。

「今は、ハイペリオン……?」と、俺は目を丸くする。


「そう。だから、彼女たちと一緒に、上高井さんの治癒が終わって退院できるということで迎えに来たのよ。さっきも言ったように、もう『グア・ハム』は私たちの仲間、『ハイペリオン』メンバーってわけなの」


「『ハイペリオン』と、統合?」

 俺の頓狂(とんきょう)な声を聞いて、鎌ケ谷さんが「そんなに驚くほど興味あったのか、俺たちに?」と胡散(うさん)臭そうに言い、上高井さんは小さく笑って続いた。

「統合と言うのかな? 『グア・ハム』の名前は残っていないし、パーティーの拠点や住居も彼らの方に移っているから、吸収と言う方が合っているかしら?」


「もともと『グア・ハム』はできて4年弱で、結成時のメンバーは残っていないこともあって……。その上、このご時世だからね。今回のようにメンバーが亡くなったり、辞めていったりもあって、メンバー数も少なくなっていたから、少し前から『ハイペリオン』とくっつくということは話し合っていたのよ」

 そうグレーの女性が言い、上高井さんも続く。

「亡くなった彼女も、以前からその話には積極的だったわ。おかげでキャプテンだった私も決断を下せた」


「……と言うわけだ。だから上高井たちも、これからは『新生ハイペリオン』メンバーさ」と、鎌ケ谷さん。

「よろしくね、瀬戸君。そちらの他のメンバーにも一応伝えておいてくれるかな?」と、上高井さん。


「は、はぁ……。それはもちろん……」


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

【挿絵】①左から、色麻、鎌ケ谷

②左、川口(参考。実際は防具をしています)

③上高井(参考。実際は患者の入院服着用)


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