第1116話・失楽園
あけましておめでとうございます!
一年が早いですね…。この作品の終わりもなかなか見えてきません(^_^;)
今年もマイペースに続けていきますので、お暇な時にのぞきに来てくれれば幸いです。
本年もよろしくお願いします。
本日『7日目』の変化5つは見つけられたと思う。あとは昨日『6日目』の変化一つを見つけなくては……。
俺は周囲を見回しながら、東北東通りを過ぎ、北東大通り沿いまで来た。
そこで、通りをこちらに向かって歩いてくるピンク色のセミショートの髪の女性とすれ違う際、向こうのやけに尖った視線が気になって、こちらも視線をまた向けた。そして、見知った顔であることに気づき、声を漏らす。
「ああ! も、最上さん?」
そう、『牙』で2年間同じクラスだった最上智那さんだ。
【第408話・イラスト参照】
彼女はあれほどこちらに視線を向けておきながら、気づかれたかとでも言うように迷惑そうな表情を見せる。
「ああ、瀬戸君……久しぶり。相変わらず間の抜けた顔をして歩いていたね?」
「いや、失礼過ぎだろ……。しかし、髪、ピンクに染めたんだな? はじめ気づかなかったよ?」と俺は言いつつ、ここが『幻影の世界』であることを思い出した。
案の定、最上さんは呆れ顔で応じる。
「何を言ってるのよ、今さら……。『牙』の時と変わってないけど? 私は16ぐらいからずっとこの頭よ」
「……そ、そう。ずっと? なるほど」
俺は早々と見つかった変化に、多少肩透かしを食らったような気がして苦笑い。
最上さんとは、『現実世界』では『牙』卒業後にも街で見かけたことはある。その時の髪の色は『牙』当時と同じブロンドだったわけだが、この『幻影の世界』で会うのは初めてだ。つまり、昨日も当然会っておらず、その時の彼女の髪の色はピンクに『変化』していても気づけなかったわけだ。
おそらくこの『最上さんの髪がピンクに変わっている』というのが、昨日『6日目』の残り一つの変化と思われる。
俺の心身は少しだけほぐされたようになった。
これで魔獣に怯えながら無理して街を闊歩する理由はなくなったのだ(トップレスの女性を見たいと言うなら別だが、それは6日目でもいい……と、まるで池田さんのようなことを考える)。
「何、ニヤついてるの?」と、最上さんが険の帯びた顔つきで言った。
「あ~、もう! 何かイラつく! ちょっと、君! こっちに来なさいよ!」
「イラつくって言われても……おい、どこへ行く?」
俺は最上さんに手を掴まれ、路地裏の方へ引っ張られ、慌てた。
人通りの少ない細い路地裏を7、8メートル入ったところで、最上さんは俺を壁に押し付けた。そしていきなり肩に手を回してくる。
「……え? ちょ、何してるんだよ、最上さん? わっ……」
最上さんは俺の首筋に口づけしてから、蕩けるような目で俺を見つめてくる。その露わになった上半身は、俺の胴鎧に押し付けられ卑猥な形に潰れている。
「イライラして、こうでもしなくちゃ治まらない。君が悪いんだからね? ねぇ、ここなら人目もあまり気にならないし、君も大丈夫でしょ?」
「だ、大丈夫って、何が? ちょっと、待って!」
最上さんはレスリングでもするかのように、低姿勢で体を押しつけて来ながら俺の右の腿を抱えた。それにより俺はバランスを崩し、ズルズルと壁伝いに腰を落としてしまう。
「何って、決まっているでしょう? エッチよ」
言って最上さんが目を閉じ、紅潮した顔を再び近づけてくる。壁に寄りかかったまま身体が下がっている俺の顔と、小柄な彼女の顔の高さはほぼ同じぐらいだ。
「こ、こんな、みんなが魔獣に気を配っている時に君は!」
唇が重ねられる前に、俺は自らさらに腰を落とした。
「あっ……何、逃げてるのよ? それともオッパイが好き? そうなのね?」
キスをかわされ前のめりになった彼女は、諦めずにその美乳を俺の顔へ押しつけてきた。大きすぎもせず小さくもない、弾力のある二つの膨らみが俺の顔を挟んだ。
しかし俺はすぐに、さらに下へと顔を落とす。
「そんな、私だけ嫌がらないでよ……」
「嫌がっているわけでは……」
「君があの琴浦さんや鹿角さん、東御さんたちと、毎日のように肉欲に溺れているのは想像できるわ。想像するだけで、ムラムラ……イライラするのよ!」
「何だ、それ!」
俺の顔面は最上さんの腹部を擦って、最後は彼女の淡いブルーのミニスカートの前面へ……。地べたに座る格好となった俺の顔は、彼女の股間の高さになるのだ。
「お願いよ! 私のこと嫌いじゃないなら、強く抱き……はああ! あ、うん、これ、いい……」
「も、最上さん! いい加減に……ああっ!」
俺は最上さんの股の下から抜け出そうとしたが、彼女がそのまま覆い被さって来た。
「おお、いいね、若い奴は。でも、魔獣には気をつけろよ」
通りに入って来たおじさんが横目でこちらを見て茶化したが、それだけで行ってしまった。
俺がそのおじさんを見ている間、最上さんは頬に口づけをし、さらに胸を顔に押し当ててきた。
「うう……悔しいけど、すごい感触……」
ここは現実とは違う『幻影の世界』。
それに、魔獣がすべてコントロールしているというよりは、この世界を見ている俺の頭の中も反映されている可能性が高い。だから本来はクールなはずの彼女がここまで大胆になっているのだ。
そうであれば、抗う必要もないのか?
美咲たちや速見先生たちともかなり濃密なことまでした記憶がうっすら残っているし、今さら……。
そして俺は、半分ほど目を閉じ、脱力。最上さんにされるがままになった……。
そうして5分ほど経っただろうか、メインストリートの方から爆発音のようなものが響いた。同時に悲鳴などで騒がしくなる。
さすがに最上さんも上体を起こす。その顔は、赤らんでいて淫らだ。
「また魔獣だ!」
「子供たちを家へ!」
「魔法士! 退治してくれぇ!」
俺も体を起き上がらせ通りの方を見る。街の光の中を、逃げまどう人たちが次々に過ぎ去っていく。
また、こちらの裏通りに逃げ込んでくる人たちも多い。最上さんが俺の膝に跨っていても誰も気に留めない。
「何よ、また魔獣なの? うっとうしい! エッチの邪魔よ!」と、最上さんは頬をふくらませる。
「いや、どう考えても俺たちの方が人の避難を邪魔してるだろ。とにかく行くぞ? 最上さん」
俺は立ち上がろうとした……が、最上さんはまた抱きついてきた。
「向こうの人が斃してくれるでしょ。それより、続き!」
「続き……したいのはやまやまだけど……一応『牙』卒業生として参加ぐらいしないと!」
俺は無理やり立ち上がった。最上さんは後ろへ転げ、お尻を丸出しにした……つまり、いつの間にか下も脱いでいたわけか?
しかしまた振り返ることもできず、俺はそのまま騒がしい通りの方に走った。
「ああ~、もう~! それなら、後でたっぷりするからね!」と、最上さんが背後で叫んだ。
通りの人たちは三々五々と散って、辺りに残っていたのは魔法剣士や魔法弓士、その他防具を身に着け武器(またはそれに近い物)を手にした一般市民たちだ。
そして、建物の外壁や街路樹、街灯などの一部がすでに壊れている。店の窓ガラスも割れ、出店のテントや通りにはみ出して置かれていた陳列棚などが潰れている。
そんな惨状を確認している時、見知った顔が視界に入って、またそちらへ焦点を向ける。
「あ……」
「は、鳩ケ谷君! しっかりして!」と青い顔をした葉山が、痴漢して逃亡した挙句に捕らえられた男のように道で仰向けに倒れている鳩ケ谷を、起こそうとしているところだった。
その傍に、亘理と吾妻の姿もある。
彼らは久しぶりの登場だ。やはり『この世界』は俺の意思も少し働いているのだろうか?
彼らのことを忘れていたら、うまい具合に最近まったく会わなかった。
それなら今も望んでなどいないから、ここで会ってしまったのは俺の意思とは無関係の偶然の出来事かもしれないが……。
「ありがとう、葉山……。大丈夫、慌てたから転んだだけじゃよ」と、起き上がる鳩ケ谷はどこか嬉しそうだ。
「よかった……死んじゃったらどうしようかと……」
「そんな、涙ぐまなくても。君を残して死ねるわけがないじゃろう?」と、鳩ケ谷は葉山の頭をポンと優しく叩く。そうだ、彼らは『この世界』では恋人になっていたんだったな。
「……何をイチャイチャしているんだよ?」と、そんな二人を睨みながら亘理。
「ほ、本当だよ。べ、別に羨ましくないけど、こ、こんな時にすることじゃないでしょ?」と、吾妻。
「そうそう。と言うか、死んでもよかったぞ」と、これは俺だ。
「瀬戸! 何じゃ、お前もいたんか」と鳩ケ谷ら雑兵軍団が、近づく俺に気づいて何やかんや言った。
「騒ぎを聞いて駆けつけたんだ。魔法剣士……それも『牙』卒だからな。とにかくお前らも、あの人たちに協力するんだ!」
俺は通りの前方を指す。
20メートルほど離れた場所で、大きなオオカミのような魔獣……デビル・ファングが3頭ほど暴れていて、それを魔法剣士や弓士が魔法で攻撃や封印を試みている。ただ、それが彼らの能力値なのか、街中だから遠慮しているのかはわからないが絶賛苦戦中……。
太い牙を向けてがむしゃらに人間を追う魔獣3頭によって、街の被害は増えていく一方だ。
俺も、ここでは大きな魔法は無理だ。まして『KNIGHT』なんて。
そんなことを考えているうちに、鳩ケ谷たちは俺よりも後ろへ下がった。
「そ、そうじゃな。この中では、瀬戸君が一番強いし、カッコええ!」
「何が、瀬戸君だ! 下がるんじゃねぇ、鳩ケ谷!」と俺は鳩ケ谷の首根っこを掴み、引き戻す。
「うん、まぁ、そうだね。強いし、失うものもない」と、亘理も鳩ケ谷に同調。吾妻もうなずく。
「お前らよりはあるわ! 亘理たちも逃げんじゃねぇ!」
とにかく俺は剣をライフルのように構え、『SNIPER』の『気』を2発(その前に『SET』を発動して連続で出せるようにした)魔獣に撃ち込んだ。
【SNIPER(=スナイパー、狙撃手)・カケル所持魔溜石、A、C、『E』、G、H、『I』、K、L、『N』、『P』、『R』、『S』、T】
1頭のデビル・ファングが俺たちに狙いを定めたのか他の魔法剣士たちの上を跳び越え、俺たちの方に迫って来ていたからだ。
以前も戦ったが、デビル・ファングという魔獣は結構厄介な相手で、『SNIPER』の『気』1発分では押し返すことができず、俺たちはそのまま太い牙で襲われるか重い体で体当たりされていたかもしれない。
しかし、『SNIPER』の『気』2発分で、何とか突き飛ばすことができた。
魔獣は後転し、街灯にぶつかった。その街灯の柱は大きく歪む。
「ナ、ナイス、瀬戸君!」と言って葉山は自分の剣からも攻撃魔法を放ち、立ち上がりかけた魔獣をさらに押し飛ばした。
だが、鳩ケ谷たち3人は続く様子を見せない。剣を構えはするが、それはあくまでもディフェンスの姿勢だ。
仕方なく、俺がまた『SNIPER』を放つ。
その背後で鳩ケ谷や亘理たちが、この状況にはふさわしくない嬉々とした声を発した。遅蒔きながら最上さんがやって来たのだ。
振り返って見れば、「ああ、最上ちゃん」と鳩ケ谷はわずかに鼻の下が伸び、その視線の先を辿ればやはり最上さんの胸へと行きつく。上半身裸が常態化しているこの『世界』でも、彼の性欲が治まるわけではないから厄介だ。
一方、葉山は拗ねた様子を見せ、鳩ケ谷の腕を引っぱる。
「そ、そうだよ。き、君には葉山君がいるんだから。う、浮気はよくないよ」
「浮気なんかじゃないわい! 余計なこと言うんじゃない、吾妻!」と、鳩ケ谷。そして冷たい目を向ける葉山には愛想よくふるまう。
そんな彼らに、最上さんもうっとうしそうな目を向けつつ、言った。
「彼らが臆病なのはともかく、早くしなよ、瀬戸君。斃せないわけじゃないでしょう? 早く片付けて、ゆっくりシよ……」
「あ~! わかった! 斃すから!」と、俺は彼女の言葉を遮った。彼女と終わったら何をする気なのか、鳩ケ谷たちに知られると面倒だ。
「でも、こんな街中じゃ大きな魔法はできないし、地道に斃すしか……」
「ふ~ん……まあね」と呟き、最上さんも剣を構える。その刀身は、銀の光を発し始めた。
「それじゃあ、私がこうしてあげるわよ。ミニマム!」
【MINIMUM(=最小)・最上所持魔溜石、A、E、H、『I』、『I』、『M』、『M』、『M』、『N』、O、R、S、T、『U』、Y】
「あ~、君にはそれがあったな!」




