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第1114話・クロコダイル・ダンディー

 メンバーがイライラして喧嘩をしている……これが『幻影の世界』7日目に起きた変化か?


 部屋からの声量が少しだけ小さくなった頃を見計らって、俺は気配を消すようにそっと部屋に戻った。

 中間(なかま)と宇佐は喋り疲れたのか、二人並んで座り朝食をとっている。宇佐にはプリンもある。()けば雛季(ひなき)の分があって、それを宇佐にあげたらしい。


 それだけでは今度は雛季が納得しなかっただろうし、この『7日目の世界』の性質からすれば彼女もプリプリ怒っていたはずだが、彼女には代わりに美咲がアイスを、さらに桜川がマフィンをあげたと言う。大人の二人が我慢して一件落着したというわけだ。

 

 また、鹿角(かづの)とやり合っていた安城(あんじょう)さんは、本庄さんたちと共に一旦隣室へ戻っており、そちらも一応治まっていた。

 

 とにかく俺は再びソファーへ行き、甘いパンとサラダを口にした。

 そうしながらも、昨日の失敗が『諸塚(もろつか)の坊主頭』と何か別の『変化』を間違えたことにあると決め、その別の『変化』とは何だったのかを改めて考えてみる。


 ……が、他のメンバーが些細なことで言い合いになり、その度なだめ、思考は度々中断を余儀なくされる。

 

 


 そうしているうちに、あっという間に正午の『全住民体操』の時間だ。中央本部のある南の方角を向き、他の人の見よう見まねで体操した。

 

 その後、「ただいま~」と言って、白鷹(しらたか)、目黒さん、月形さん、水巻さんが部屋に入って来た。

 

 部屋に彼女たちをすんなり迎え入れた美咲たち。

 そして白鷹たちは勝手知ったる部屋のように適当な場所(布団)に腰を下ろす。

 彼女たちの会話から、どうやら4名は元々この部屋の住人だったということらしい。これが本日『7日目』の3つ目の『変化』と思われる。

 

 ちなみに白鷹と目黒さんの性格は入れ替わったままだ。『6日目』に起きた『変化』の正解は、『諸塚の坊主頭』ではなく、この二人の入れ替わりを『変化』の2つと数えていいということなのだろうか?

 などと考えながら、彼女たちの方を見ていると、白鷹のような性格となった目黒さんに「何、ジロジロ見ているの、君!」と理不尽に怒られた。『現実世界』でも白鷹にはしょっちゅう怒られるぐらいだから、ここでの目黒さん(性格が白鷹)はもっと過激で危険そうだ。

 

 そういうこともあるし、とにかく嘆いても仕方ないので本日7日目の『変化』の残り2つを探すため、また昨日見落とした『変化』が他にないかを探すため、俺は防具を(まと)い、剣も持って外に出た。

 

 すぐ琴浦姉妹や桜川に見つかり外階段のところで呼び止められ、俺は出かける口実を慌てて(つくろ)う。

「……鳩ケ谷と、遊ぶ約束をしているんだ。亘理(わたり)吾妻(あがつま)とも会う」

 咄嗟に彼らの名前を出した。名前を利用しておいて何だが、彼らと遊ぶぐらいしか外出する理由を捏造(ねつぞう)できない自分が悲しくなる。


「そのメンバーで? 何か企んでそうなメンバーだね? ……誰かとエッチなことするの?」と、美咲は(いぶか)る。

「ええ? ああ、まだ、そうか……そういう世界か……。でも、違う! あいつらがいて、それは難しいだろ? いくらおかしな世界とは言え、相手の同意が得られなければダメなんだし」と、俺。


「そうだよ? 女の子に断られても、犯罪だけはやめてよね?」

 いつもの美咲ならそこまで疑わない……と言うか少なくとも『犯罪者予備軍』のような言い草はしないはずだが、今の彼女も少し苛立ちやすく言葉も厳しいらしい。


「ポッポ君たちもいるんだね? じゃあ、私も行きたいな~」

 相変わらず一人称が『私』の雛季が嬉しそうに割って入ってくるが、俺はすぐに手で制した。

「おもしろいことはないよ。ちょ、ちょっと金の……ああ、金はないか……貸している物の催促に行くだけだ。ちょっと言い争いになるかもね。だから雛季が来てもいいことはない」

 

 楽しいことではないんだとアピールするために、ちょっと物騒な感じになってしまったが、今の『この世界』では日常的なことだろうから問題はあるまい。

 

 ただ、桜川はやはりどこか不安そうに訊いてくる。

「わ、私たちも行かなくて大丈夫でしょうか? 何か、揉めそうな雰囲気さんがあるのでは?」

「ああ、いや、大丈夫。桜川も美咲も、部屋でゆっくりしていてくれ」


「もちろんそうするけど、君の命は、私や桜川さんたちの運命も握っているかもしれないことを忘れないでよね?」と、美咲はやはりどこか強い口調で念を押した。


「わ、わかってる。とにかく相手は鳩ケ谷たちだし、危険なことはない。三匹の子豚の一番上のお兄さん豚ぐらい間抜けで弱いでしょ、あいつらは。とにかく、そう……夕方ぐらいには戻るよ」

 俺がそう言ってそそくさと階段を下り始めると、美咲の「夕方? そんなに?」というやや怒ったような声が聞こえた。


「人類の最初の方のパーマは6時間以上かかったらしいし、まぁ、気長に待っていてくれよ」と、俺は作り笑いを浮かべ改めて言って、また歩き出した。

「パーマの話は関係ないでしょ?」と美咲の強めのツッコミが聞こえたが、もう振り返らなかった。




 アパートの北門へ向かっている途中、左手の大浴場からショーツ一枚、あるいは下にタオルを巻いた格好の女性たちが次々に飛び出して来た。

「ああ、あなた!」

 そのうちの一人が俺を見るなり駆け寄って来て、腕を掴んだ。

「来て! 中に!」


「ちょ、ちょっと待ってください! 今は忙しくて、エッチなことしている場合じゃ……」と、俺は(軽く?)抵抗を見せるが、女性は尚も風呂場へと引っ張ったまま叫んだ。

「勘違いしないで! そうじゃなく、あれよ! 防具をしているなら、(たお)すのを手伝って!」

 

 脱衣所まで来ると、女性が言っていた意味が分かった。

 脱衣所にいる裸の女性たち3名、その奥にある風呂場へのドアが向こう側に倒れ、湯気が流れ出してきている。その湯煙の中にはまた2、3名の女性がおり、裸に『エイト剣』や『弓』だけを持って、何かを囲んでいる。


 俺は脱衣所へ前進し、初めてそれの姿をしっかり捉えた。

 紺色の、ワニぐらいの大きさがある魔獣らしきものが、床を這っていたのだ。


「こ、こんな所に、魔獣?」

 俺のその呟きに、脱衣所にいた女性が自分の物と思われる剣を手にして答える。

「風呂に現れるのは珍しいですね。とにかく、私たちも参戦しましょう!」


「かつて、気味の悪い猿が侵入したケースはあるけど……って言うか、風呂場とか関係なく街中にこうして現れること自体珍しいッスよね?」

 女性はそれには答えず、白いお尻を揺らしながら前進して行った。

 先ほど俺を呼び込んだ女性も棚に置いていた自分の剣を持って来て、俺の背後に。俺は彼女に押される形で、お風呂場へ突入した。


「キャアアッ!」

 その瞬間、風呂場にいた女性の一人が逆さ吊りになった。足首に緑のスライムのようなものが絡みついていて、それが上に伸び、女性も逆さまで宙に浮いているのだ。緑色の長いそれは、『S』字を描くかのようにまた下降し、ワニのような魔獣の口の中へ……つまりそれは魔獣の緑色の長い舌だったのだ。

 

 舌は(むち)のように振り下ろされた。それに絡みつかれた女性を、床に叩きつけるつもりだったのだ。

 しかし先に、別の女性が『エイト弓』を構え、青白い気を放った。それが一気に広がり、振り下ろされた女性の下に気の『クッション』を作り出した。

 

 敵の舌の勢いは強く、女性は結局床に転がされることになったが、『気のクッション』があるのとないのでは体をぶつける痛みに雲泥(うんでい)の差が出るので良しとしなければ。

 

 ただ、魔獣の舌はすぐに女性の足首を離すと、次に前方へ、縁日でよく見かける笛(吹き戻し)のように伸びて、弓から魔法を放ったばかりの女性を()った。

『エイト弓』士は、矢を(つが)えなくてはならない分、魔法発動に時間が掛かるため、近距離の相手に弱い。彼女も咄嗟に弓本体を構えて防御しようとしたが(それでも小さな防御魔法は出せる)、敵の舌の威力が勝った。彼女は悲鳴を漏らしながら、洗い場の壁へ叩きつけられた。


「お姉さん……! クソ! この魔獣、何なんだよ? ワニ?」

「ブルードラゴン・クロコダイルって言う、まぁ、ワニ系の魔獣! でも、動きは速いし、舌長いし、噛む力はワニの比じゃないし、防御力も高い!」と、女性の一人が剣を振りつつ言った。

 この魔獣を知っていたのは、彼女も『黒衣の花嫁』のメンバーだからなのだろう。

 そして、彼女が剣から放った火炎の気も大きく、威力があるように見えた。

 

 だが、燃え上がる炎を散らしながら、素早く前進してくるブルードラゴン・クロコダイル。皮膚はやや黒く(すす)け、(えぐ)れた箇所もあるようだが、痛がる様子もなく迫ってくる。防御力が高いのは本当らしい。

 

 そして目の前で回転した。

 一瞬風呂場のタイルで滑ったのかと思ったが、そんな間抜けではなく、自分から横回転し、その太く強靭な尻尾で俺たちの足を払いに来たのだ。


「キャウッ!」

「どわっ!」

 俺はうまく横に跳んでかわしたのだが、女性の一人が脚を()ぎ払われ俺の方へ倒れ込んでくる。

 俺はそれを全身で受け止めたことによってバランスを崩し、ただ踏ん張るも、濡れた床に足を滑らせ、最後は女性を抱えながら倒れてしまった。間抜けは俺の方だったのだ……。

 

 そこへ、魔獣の舌がまた伸びてくる。

 直前に他の女性たちが剣や弓から攻撃をしたのだが、魔獣の振り回す太い尻尾と鎧のような厚い皮膚にことごとく消滅してしまったのだ(傷は増えてはいるが)。


 裸の若い女性に覆いかぶさられていた俺は身動きが取れない。

 上にいる女性は慌てて剣を構えようとするも遅く、細い足首を舌に絡み取られる。女性は短く悲鳴を漏らし、最後の抵抗として俺の肩に強く手を回した。

 そのため、魔獣の舌で女性が引き上げられると、俺も彼女と抱き合った状態でコウモリの交尾よろしく逆さまになった。


「ちょっと! 俺まで巻き込まれて……ほとんどこれ、ペッティング!」

「だって……! わかった、離すから!」と、女性は叫んだ。

「え? この状況で? うわああ!」

 女性が手を離したので、俺は頭から落下……いや、床に頭をぶつけることはない。真下には、そう、魔獣がいるから!


「だあっ……ぎあああっ!」

 魔獣は女性の足を離し、舌を引っ込め、大きな口を開いて俺に噛みついて来ようとした。

 俺は気を溜めた刀身を魔獣の上あごに叩きつけ、その反動で魔獣から離れようとしたが、最後に魔獣の牙(一般的なワニのそれよりも大きい)が背中に当たった。

「くおおお……痛ぇぇ!」

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