4(ルカ)
バイクで教会に着く頃、ようやく外は暗くなった。
教会は 街の外れにある。
この道の先は、キャンプ場がある山の道路に繋がっている。
教会の裏の 前神父の家... 今は ジェイドの家の書庫で、本を選んでいるとこ。
キリシタン弾圧 って言ってたよな。
本棚には、今日本屋で買った三冊にかぶる本が 二冊。先に この書庫見ればよかったよな...
でも他に 二冊それっぽい本があったので、それを取ってリビングへ向かう。
キッチンの冷蔵庫から炭酸水を出してる時に
棚にライムを見つけて
ガラスポットに氷とスライスしたライムを がばがば入れて、それに炭酸水を注いだ。
ちょっと多かったかな?
けど、まだ夏だし。
リビングでグラスに炭酸水を注いで、書庫から持ってきた本を開く。
なんか、ふわーっと習ったよな。学校で。
いや 習った時に
オレが ふわーっとしてたんだけど。
豊臣秀吉とか徳川家康とかの政策で
キリシタンかどうかを調べるために 絵踏みさせたりして、棄教させて 仏教に入らせた... とか。
長崎が ほぼキリスト教を信仰... っていうかもう
簡単に言えば、豊臣さんから見たら異国に乗っ取られた感あったみたいだし
宣教師達が 鉄砲なんかの武器や弾を大名に売るために、その資金作りに 日本人を安くで海外に奴隷として売り捌いてた... とかも聞く。
でも... まあ、国を護るためかもしれねーけど
耳を削いで京を引き回し、長崎まで歩かせて磔にして竹槍で突いた。
内蔵が動かないように 身体をぐるぐる巻きにして固定し、血抜きの穴を こめかみとかに開けて、穴に逆吊りにして、棄教を迫った。
内蔵固定や血抜きの穴は、すぐに死なせないためか。
他にも、100度の熱湯をかけながら棄教を迫った
... とか。
熱湯は温泉でもやられたらしく、外気の熱もすごい。口からは煙を出していたらしい。
これ本当に 人間のすることかよ、まったく。
「夜も暑いね。まったく風がない。
一日中 エアコンをつけてないと」
シャワーを浴びたジェイドが ジーパンだけを穿き、肩にタオルをかけて リビングに戻って来た。
両腕と背中の片側、左胸のタトゥは
まだ 10代の頃に入れたものだ。
「派手だよな、おまえ」
全部 黒一色で彫られてるけど
アッシュブロンドの髪ってこともあって
なんか目を引く。モロな外人顔だし。
「ああ、夏は特に後悔するよ。
外出するにも、濃い色の長袖のものしか着れないんだ。僕は神父だしね」
ジェイドは グラスに注いだ炭酸水を 一気に飲み干して、もう一杯注いで向かいのソファーに座った。
「本は選んだのか?」
「おう。これと それ借りるわ」
開いていた本と テーブルに置いた本を指し示す。
「キリシタン弾圧か。魔女狩りにしてもだけど
ここまで残酷になれるものか と震撼するね。
だけど、人には どこかにそれが組み込まれてるんだ。僕にもね」
確かに。こういうことをしてきたのは、オレらと同じ人間なんだよな。
「こういうことを繰り返さないためには、その事実を知ることも大切なことだけど
それを こうして安全な場所で論じるということには、僕は いつも違和感を感じるんだ。
それは、戦争についても同じことで
何か解決策を話し合う訳でもないなら、語り合うのもどうかと思う。
僕は、兵士の経験がないからね」
まあなぁ。意識することは大切だけど
安全な場所で、わかったような顔して話す気にはなれないことだよな。
ここにいるオレは 何も痛くないんだし。
出来ることを... と考えはしても
現地でのボランティアを選ぶほど、オレは人間的に出来ていない。
せいぜい ニュースを見て 一時的に胸を痛めて
時々募金するくらいのものだ。
時には ニュースにすら目を背ける。
小さい子が泣きながら逃げてるとこなんか
とても直視出来ない。
手が伸ばせないと余計に。
手が伸ばせるとこには行かねーくせにな。
開いていた本を閉じて、テーブルの上の本に重ねる。
「そろそろ外に出てみるか」
二杯目の炭酸水を飲み干して、ソファーから立ち上がると、また黒い長袖のシャツを着ながらジェイドが言う。
「見てるだけで暑苦しいよなぁ。
そうだ、うちに生えてるミントやろうか?
風呂に入れたらいいみたいだぜ」
本を持ってオレもテーブルから立ち上がる。
バイクの鍵をジーパンのポケットに突っ込むと、何か 硬い音がした。
「僕は バスタブの湯に浸かる習慣はないよ。
ミントは 紅茶に入れるために少しでいい」
「湯に浸かるのは 日本の文化なんだぜ。
母さんも今では 入浴剤にうるさいくらいだしよ」
ポケットを漁ると、昼間金貨を換金した店で預かったやつが出てきた。
手のひらにのせると
「メダイじゃないか」とジェイドが自分の手に取る。
「これさぁ、預かってくれ って言われたんだよな。おまえに」
いきさつを話すと、ジェイドは
「そうか」と 少しの間メダイを見つめ
「持ち主に返すのが 一番だけど、探すのは難しいだろうね。とりあえず僕が預かるよ」と
ポケットに入れた。
ジェイドの家を出て、教会の前に出る。
「ハティは 呼ぶのか?」
「おう。門のとこに居なけりゃな」
だが教会の外門の隣、塀の外壁に沿って停めたバイクに、ハティは寄りかかって本を読んでいた。
「よう、ハティ。本借りたぜ」
ハティが満足そうに赤い手で本を受け取るのを、ジェイドは冷めた眼で見ている。
「それで、何を見るって?」
その眼のまま ジェイドが言う。
ハティには高圧的なんだよな。いつも。
うちで鉢合わせる時も めんどくさい。
いちいち こんな感じになる。
「視線の主だ」
ハティの方は たいして気にしてない。
「いつも見られている訳じゃない」
「どこで視線を感じる? 教会か?」
ハティの問いに、ジェイドは少し考えて
「墓地の周辺だ」と答えた。




