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万象  作者: 桐崎浪漫
第三章 「パライソへ」
59/620

2(ルカ)


氷咲ヒサキくん、最近多いね。また金貨?」


「うん、そう。換金お願いしまーす」


ごちゃごちゃいろんな会社とか事務所が入ってる雑居ビルの 一室に来ている。


ここは、物を即現金にしてくれる。

かなり高価な物でも大丈夫らしい。

面倒な手続きとかも 一切ない。


オレは仕事上、アンティークな物を扱う店に行くことがある。

人や物に残った思念のようなものが わかるので、なんかヤバイもん憑いてないかとかの目利きをしに。

何件かのそういう店の 一件から、ここを紹介してもらった。


なので、時々ここからも目利きに呼ばれる。

指輪などのアクセサリー、腕時計、絵画をはじめ、壺とか いろいろあるけど

素人目に見てもすげぇ価値なんだろうな って物から、その辺に手頃な値段で売ってそうな物まで扱ってる店だ。


店の人は何人か話したことあるけど、今日は

沢村さんていう人。

たぶん、27のオレより10くらい年上。

こざっぱりとして清潔感がある人だ。


背の高いカウンターの椅子に座って、向こう側にいる沢村さんに金貨を渡す。


「ん? 今日のは、いつものと違うね。

ちょっと待って... あっ」


「えっ? 何?」


沢村さんは ニヤッと笑った。


「これ、うちでは 十五万だよ。よかったね。

氷咲くんて、小出しに持ってくるよねぇ。

ちょっと待ってね」


沢村さんは現金を数えているが、十五万?


「なぁんか、悪いことしてんじゃないのー?

まあ、いいけどさぁ。

若いんだし、無茶なことしないようにね」


そんなこと言って、オレに札を渡す。

ハティはなんで

今日は いつもと違う金貨を渡したんだろ?


「あっ、そうだ。時間あるかな?

目利き頼んでいい?」


「ああ、いいっすよ」


オレが答えると、沢村さんはカウンターの隣にあるドアを開けて、手招きをする。

カウンターで部屋を二つに区切ってあるので

このドアを通らないと、カウンターの内側や

その奥には入れないようになっている。


奥の壁の上の方には 防犯カメラ。

そして、奥のもう 一部屋へ続くドア。


「うちは すぐあっちこっちに商品流しちゃうから 物が残ることは少ないんだけど

時々なぜか流せないやつとか、戻って来ちゃうやつがあるんだよね」


もう 一部屋には、現金が入った金庫と高額商品が入った金庫、普通の商品を置いておく棚がある。


そして、強面で筋肉隆々の兄さんがカメラのモニターの前に座って待機している。


「じゃ、あとは北山くんに聞いといて」と

沢村さんは ドアの向こうに戻っていった。


「おっ、氷咲くん。コーヒーでもどう?」


ゴリゴリした いかにもガードマンって感じの北山くんも顔見知り。歳は変わらんくらい。

ここで警備してるけど、毎日平和で

モニターの前で居眠りして 一日が終わるらしい。


「うん、もらおっかな。

オレが みる商品て、棚のやつ?」


「そうそう。って言っても

二段目のオルゴールと、ケースに入ってるメダルみたいなやつだけだけどね」


北山くんは椅子から立ち上がると、ぐうっと伸びをしてあくびをした。

グラス三つに氷を がちゃがちゃ入れて

上からコーヒーをドリップしている。


まず、オルゴールに手を伸ばしてみた。


うーん... 何もない。

問題ないし、古いけど綺麗だ。


次に、パカッと開くタイプのケースを手に取る。

開けてみると楕円形のメダルが入っていたけど、これ、メダイじゃないのかな?


これは確か、1800年代にパリで最初に造られたんだったと思う。

聖母マリアが現れて

私を模したメダルを作りなさい... とかって言って、その姿をメダルにしたものだとか何だとか。

その時に 1500枚作って、今でも それで型を取って造ってる って聞いたことある。


奇跡を起こしたとかも言われてるけど、お守りみたいに持つ物だよな、たぶん。


イタリア人の母さんが割りと熱心な教徒だから、うちでも見たことある気がする。


表には 両手を拡げる聖母マリア。

その周囲に円上の文字。


裏には、十字の下にMの文字。周囲には十二の星。

ハートの形の心臓が二つ。一つには剣が刺さってる。


メッキじゃなさそうだ。

フランスの教会のやつかな?


手に取ってみると、微かに 何か残っているのがわかる。


なんだろ?


持ってた人の思念じゃないな。

でも、付喪つくもでもないし。

メダイ自身の記憶みたいなものかな?


「コーヒー置いとくよ」


北山くんが テーブルを指してオレに言う。

ドアを開けて沢村さんにも

「コーヒー淹れましたよー」と声を掛けている。


「ありがとう。今日 何杯目かなぁ」


沢村さんは すぐに入って来た。

今日は店が暇だったようだ。


「どう、氷咲くん」


沢村さんがオレを手招きし、北山くんが折り畳みの椅子を用意してくれた。


メダイを そのまま持って行き

「オルゴールは問題ないっすね。

こっちは何かあるけど、何かはわからないっす」と、報告すると

沢村さんは「そっかぁ... 」と、メダイを手に取った。


「これさ、知り合いの祓い屋さんが持って来たんだよね。お祓いは済んでるらしいんだけどさ」


「えっ、祓い屋が?」


「そうなんだよー」


コーヒー 飲みながら話を聞くと

そいつは どこかでメダイを拾い

『でも人の持ち物だし』と、一応清め

『でもきんだし』って持ってきたらしい。

いいかげんなヤツだよなー。


「氷咲くんみたいに うちを贔屓にしてくれてるしさ、22金だから、って思って買い取ったんだけど、なんか流しづらいんだよね。

誰かが お守りにしてた訳じゃない?

それを買う人は なかなかいないだろうしさ。

まあ、溶かすとこに流せばいいんだろうけどねぇ... 」


確かに。

元々 家族とかが持ってた物とかなら まだしも

他人のお守りって 買ったりしねーよな。


「あっ、氷咲くん家ってさ、カトリックじゃなかった?」


北山くんが空にしたグラスを持ったまま言う。


「うん。まあ主に母さんがね。オレは何もしてないけど」


「じゃあ それ、教会の神父さんに預けてもらったら いいんじゃないすか?

日本のお守りなら神社に持って行くし」


北山くんが沢村さんに言うと

「おっ、それがいいかも」と、沢村さんはオレを見た。


「いやさぁ、教会って行ったことないから

行きづらいんだよね。

持って行ったとしても “拾い物だけどきんだから買い取ったんですが”... とか言いづらいし。

氷咲くん、頼んじゃっていい?」


教会って、ジェイドにか。

全然いいけど、一応商品なのにいいのかな?


その辺を聞いてみると

「これ、三万で買い取ったんだわ。

そのくらいなら どうにでもなるよ」ってことだった。


「じゃあ、氷咲くん。悪いけどお願いね。

後で手間賃プラスして仕事料振り込むよ」


沢村さんは そう言ってドアの向こうへ戻って行った。


「氷咲くん、まだ時間ある?

ちょっとゲームしていかない?」


北山くんは 今日も暇っぽい。


「いいよー。何があんの?」


... と、二時間ほどゲームをして店を出た。

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