表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
43/620



普段、一人で使っている家に着いたのは

もう夜だった。バイクにカバーかけて家に入る。


昼くらいまで実家にいたから、なんか

やたらに静かだよな。


この家は 平屋の一戸建てで、実家まではバイクで40分の距離。

父さんの元実家を リフォームして住んでいる。


じいちゃんとばあちゃんが 父さんの兄さん家族と 一緒に暮らすことになったため

この家が空いてしまった。


売るのもどうか... という古さの家で

最寄り駅からも遠く

普段、スーパーとかに買い物に行くにも不便な場所にあるから

バイク持ってるオレに じいちゃんがくれた。


風呂やトイレ、キッチン

水回りのリフォームは業者に任せたけど

リビングと寝室、書斎は

自分で時間かけて コツコツと変えていった。

なので、この家には かなり愛着がある。


リビングと寝室の壁を取っ払い、広い 一部屋にし、床もフローリングにしたが

古い柱は 一本だけ そのままにしてある。


父さんと、その兄さんの背比べの跡がそのまま残ってて、“どうしても兄ちゃんを抜けん” という

父さんの想いも、微かに残ってたしな。


書斎は和室のまま、障子の襖と畳だけを新しく変えた。

小さい頃、じいちゃんと ばあちゃんに会いに

ここに来た時に

本棚に囲まれた書斎で、文机に向かって座る

じいちゃんの背中が かっこよかったから。


まあ、オレが書斎を使うのは

気が向いた時に絵を描く時くらいで

畳が汚れないようにビニールシート広げるし

なんか 台無しなんだけども。


あとは、裏の狭い庭だけなんだよな...


雑草抜いて、花壇を手入れ... しようとは思ってるんだけど

なっかなか やらねーんだよなぁ、オレ。


今は、琉地が草を噛んで遊んでいる。

また気が向いた時に やるかぁ...


飯も外で食って来たし、ソファーに転がって

見る気もないテレビを なんとなくつける。


ニュース見ながら あくびしてたら

高校の時のツレから飲みの誘いがきて

また外に出ることになった。




********




チャージ料無しの安いダイニングバーには

6人掛けのテーブルと4人掛けのテーブルをくっつけて、知った顔が座っていた。


「おっ、氷咲ぃ、遅せぇよー」


遅いも なにも、聞いたの さっきだしよ。


テーブルには料理が いくつかと、人数分のグラスに それぞれの酒が入っている。


座っているのは、女5人に男4人... これ


「えっ、なんだよ、合コンみてーのかよ」


オレが言うと、里森... さっきオレに

声をかけたヤツが「まっ、座れって」と

強引に オレのシャツの袖を引いて

空いていた端の席、自分の隣に座らせた。


なんか、おかしいとは思ったんだよな。

こいつらとは週末飲んだばっかだったし

世間は春休みとはいえ、今日は平日だしさぁ。


「おまえ、何飲む? ジンにするか?」


里森は 勝手に決めてオーダーした。


その間に、里森の向こうに並んで座る男3人が

テーブルの向かいに座る女の子達の機嫌を取っている。

女の子のひとりは 同じ高校だった山口だ。

この子に頼んで、他の女の子を集めてもらったみたいだな。


ジンにライム搾って飲んでると

里森が小声で オレに言い訳してきた。


「... 悪ぃ、氷咲。キライだったよな

こういうの。ひとり来れなくなってさぁ」


「知ってんなら呼ぶなよ」


オレは、女の子は好きだ。


いや別に、宣言することでもないけど。


けど、こういうのって

なんか不自然な気がして おもしろくねーの。

気ぃ使いあって、品定めしてさぁ。

出会いがないから... とか、よく聞くけど

ないなら ないで、別に良くね? と思う。


「氷咲、なんか食うか?」


「食ってきたから要らね」


「おまえさ、ちょっとトイレ付き合えよ、なっ」


なんだよもう...


渋々立って、男子トイレに入ると

里森はオレに 両手を合わせてみせた。


「頼む、氷咲

黙ってニコニコしててくれ!

そして目立たないでくれ!」


「なんだよそれ。

いうか 里森、おまえ 女いるよな?

一緒に住んでるんだろ?」


「いや、そうだけど...

これは オレの合コンじゃないんだ」


オレの合コンて何だよ。


「上村の切なる希望なんだよ」


上村 というのは、里森の隣

野郎共が5人座る並びの 真ん中に座ってるヤツだ。


「あいつ、彼女いたことないだろ?

最近、ヒロちゃん... あっ、あいつの弟な。

その子に また彼女が出来てさぁ。

焦ってんだよ、切ないだろ?」


「オレも いねーし」


27にもなってフラフラしてるしよ。


「好きでいないおまえとは違うんだよ!

ものっすごい、欲しいのにいないんだ!」


「弟に出来たから とか 動機おかしいだろ。

で、彼女がいない じゃなくて

好きな子がいないから 彼女もいないんだろ」


「正論かましてんじゃねーよ。

うぜぇな、いいから協力しろよ」


「なんだ、おまえ。

上村に悪いけど、ぶち壊すぞ」


「悪かった、氷咲。

ここは もちろん、おまえの分は オレが奢る」


「わかりゃあ いいんだよ」


一応、里森に話をつけられて

また渋々とテーブルに戻る。


オレの前に座ってるのは、同級生の山口だし

男は4人は 全員ツレ。

あんま気ぃ使うこともないか、と

ジンを片手にメニューを開いた。


腹は減ってないけど、里森の奢りだし

マリネでも食うかな。


おっ、この店

父さんのワイン入ってんじゃん。

営業の人、頑張ってんなぁ。


オレも たまに、父さんから会社の営業に駆り出される。

で、リカーショップとか、こういう個人経営の店に ワイン置いてもらうように営業して

ついでに自分の仕事の紹介もしたりする。


サーモンのマリネと白ワインをボトルでオーダーしてやると、里森が苦い顔したし

ニヤッとしてやったんだぜ。


「氷咲くんて、下の名前なんて言うの?」


なんか 遠くの方の席から声がした。

前を向くと、山口以外はこっち見てたから

誰が言ったのか わからねー。


「アキラだよ」


適当に答えて、テーブルに運ばれてきたマリネにフォークを刺した。


「アキラくんて、仕事何してるの?」


誰? ここのマリネうまいな。


「... おい、氷咲」


あっ、アキラってオレか。


「無職だよ。ニートなんだ」


あはは

続けて二回 同じこと言ってやったぜ。


ワインがきたので、ジンを空けて

グラスをテーブルの端に置く。


ふと眼を上げると、正面から山口が牽制するような厳しい眼をオレに向けていた。怖ぇ。


まあ、見なかったことにして

ワイングラスに自分でワイン注いでいると

「わたしもワイン飲みたーい」

「わたしもー」とか、聞こえてくる。


「じゃあ、ワイン取ろうか?

オレも飲みたいな」上村が頑張っているが


「アキラくんの、ちょっと分けてよ」と

上村は素通りされた。


「やだ。うまいしコレ」


里森が見かねてワインを2本オーダーする。


しばらくはオレに話が振られなかったので平和だったが、マリネを食い終えて、ワインボトルが半分になった頃に

「マナちゃーん、席変わってよー」と、向こうの端から 二番目の席の子が言った。


「えっ?」


おっ、めずらしく山口が焦ってんな。

マナちゃんというのは 山口のことだ。

こいつは高校ん時から、たいていのことには動じねーヤツだったのに。


山口は、上村を ちらっとみた。


ああ、なるほど。

あの女の子は 上村が狙ってんのか...


「マナちゃんは、実は彼氏もいるんだし

いいよね?」


うわっ、サラッと言いやがったぜ

合コンの席でよ。

これ、オレが『里森には女いる』って暴露するのと同じだよな?

自分のことは さて置くけど、空気シラケるし。


「あ... うん、まあ。でも、氷咲とは久々に会ったし、ちょっと話したいかなぁ って... 」


山口が 苦しい言い訳をする中

上村は顔をひきつらせた。


「あっ、山口、男いるんだぁ。

オレもなんだよねー。

さっき、ニートって言ったじゃん?

実はオレ、ヒモでさぁ

今日ここには 浮気相手を探しに... 」


そこまで調子良く言った時に

テーブルの下で、里森から脇腹を殴られ

山口のヒールが膝に刺さった。


「... 痛って。

いやそれは嘘だけど、オレが山口を狙ってるから席は変わらせないよ。ごめんね」


「あはは、氷咲 バカじゃね?

山口に男いるんだから

おまえ、もう終わってんじゃん

... あれ? じゃあ、氷咲は狙える... ?」


里森。バカは おまえだし。


その後は、上村の向こうに座る二人が なんとかしようとしていたが、上村は うなだれ

山口が オレと里森に殺意の視線を送ったまま

散々な感じで店の閉店時間がきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ