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万象  作者: 桐崎浪漫
第二章 「花の名前」(ルカ)
44/620



「あのさ、あんた達 わかってるよね?」


「はい」

「すいません、ボス」


ダイニングバーを出ると、気を取り直して

カラオケ行こうぜ... ってなった。

このまま解散じゃ 上村も浮かばれねーしな。


カラオケの受付で 他のヤツが店員と話してる時に、オレと里森は 山口から釘を刺されていた。


「あたしが、どれだけ頑張って女の子を呼んだか... 」


「わかった、ごめんて」

「もう 絶対気ぃつけるし」


オレらが怒られてる中、化粧直しに行ってた女の子達が ぞろぞろ帰って来て

受付カウンターからは

「なんかさぁ、団体室が空いてなくて

二部屋に分かれるみたいなんだよな」って声。


それは なんかうまくいかねー気が... とか

思ってると、ダイニングバーで上村の向こうに座ってた二人が

「アキちゃん、ユウちゃん。オレらと行こうぜ」と、さっさと女の子ふたりを連れて行った。

やるじゃねーか。


残ったのは、オレ、里森、上村。

女の子は山口、上村の狙ってる子と

あとなんか、ゴスロリな子。


その6人で、さっきの4人が入った隣の部屋に案内されたのだが

そこでも 二つの難関が待ち受けていた。


まず、テーブルを挟んで

ソファーが ふたつに分けられていること。

ひとつはL字で広く、ひとつは狭い。


もうひとつは、狭い方に先客がいることだ。

長い髪の透けた女が 俯いて座っている。


山口が オレに『わかってるよね』の眼を向ける。


オレは ゴスロリちゃんの手を取って

「こっちに座ろうぜ」と

狭い方のソファーに さっさと座った。


L字のソファーには自然と、里森、上村

上村の狙ってる子、山口の順で座る。


うん、いいんじゃね?

オレの前にいるのが里森と上村っていうのが

またいい感じだ。

山口も “まずまずね” って顔してるし。


ドリンクが運ばれると、里森が最初に歌い

流れ的に、次にオレ。


その間に上村が「ミクちゃんも歌ってよ」と

狙ってる子に言い

「えー、恥ずかしいー」

「じゃあ、一緒に歌う?」... とか

割りと うまいことやっている。


里森は向かいのオレと話し、山口はゴスロリちゃんと話していたが、上村とミクちゃんの曲が決まり、山口に選曲が回ってきたので

オレは ゴスロリちゃんと話すことにした。


隣に座るゴスロリちゃんは、ツインテールの髪に黒いリボン。白いシャツに黒いタイ。

黒いボックスプリーツのミニスカートに黒いタイツと、デコっとした靴... といった出で立ちだ。


この子、ソファーの真ん中辺りに座ってんだよな。

まあ、そのおかげでオレの向かいにいるのは ほぼ里森だし、いいんだけど ちょっと狭い。


そして、ゴスロリちゃんの隣には

長い髪の半透明な女が 俯いて座っている。


「ね、名前聞いてなかったよね?

なんていうの?」


オレが聞くと、ゴスロリちゃんは

「レナです」と、答え

「気を使わなくてもいいですよ。

氷咲さんが、人数合わせできたのはわかってますし。私も彼氏いますから」と、笑った。


「あ、うん... 」


山口をちらっと見てみたけど、歌っている山口には、オレらの会話は聞こえていない。


「氷咲さんて、アキラって名前じゃないですよね?」


「えっ?」


「連れているのは、狼ですか?」


ソファーの隣には 琉地がいた。

どこかで遊んできたらしく、床で丸くなって眠っている。


「見えるの?」


レナちゃんは頷いた。


見えるひとって、割と多いな。

普段、なかなかそういう話しねーから

わかんねーだけかもしれんけど。


まだ23歳だというレナちゃんは

普段はゴスロリ系のショップで販売員をし

週末だけ、占いサロンでヒーラーなるものをやってるらしい。


「ヒーラー って何?」


「癒し手ですね。ちょっと、いいですか?」


レナちゃんがオレの手に自分の手をかざすと手のひらから徐々に身体が温まっていく。


「へぇ... すごいじゃん。気、ってやつ?」


「おおまかに言えば、そんな感じです」


レナちゃんと話している間に、上村とミクちゃんの歌も終わっていて

「次はレナちゃん歌ってよー」と言われ

「あっ、ちょっと待って。

オレ もう少し話したいし」と 遮り

なんか冷やかされたりしたので 笑ってごまかしでやったけど

テーブルの向こうでは4人で盛り上がっているので、かえって これでいいとする。


「レナちゃんさ

その、隣の人も見えてたりする?」


「はい、見えますよ。

髪の長い女の人ですよね?」


だから、真ん中に座ってたんだ。


俯く先客の女は、別に悪いヤツじゃないし

大丈夫だろ って思ってたけど

オレがそっちに座るべきだったよな。


「座る場所は上村さんのことがあるんですよね?

この女の人は悪い人じゃないし、大丈夫ですよ」


なんでもお見通しだな、すげー...


「彼女は、歌ってくれるひとを待ってるんです」


「歌ってくれるひと?」


レナちゃんはそれには答えず

「氷咲さん」と、気になることを話し出した。


「大切なひとがいますよね?

妹さんかな... 」


「うん、なんで?」


どきっとした。

リンの 猫みたいな顔が思い浮かぶ。


「気をつけてあげてくださいね。

近いうちに、何かつらいことが起こるかも

しれませんから」


「えっ、どういうこと?!」


「はっきりとは、わからないんです。

預言として受け取ったのは、これだけで。

でも 伝えとかなくちゃって思って」


よげん て

預言だよな?


誰からのだろう


オレは何故か、そのことを聞けなかった。


「次、歌いますね」


レナちゃんは里森からマイクを受け取る。


... あれ?

レナちゃん、いつ選曲したっけ?


歌いだしたのは

アメイジング・グレイスという讃美歌だ。


レナちゃんが澄んだ声で歌う間

室内は水を打ったように静かになった。


レナちゃんの隣に座る先客が頭を上げる。


長い髪が肩を流れ、顔が見えた。

女は静かに泣いている。


女は、立ち上がると

『ありがとう』と、レナちゃんに言って

薄れて消えていった。




********




「とりあえずは、良かったよな」

明け方のカフェで里森が言う。


「んー、まあね」

山口も あくびしながら頷いた。


カラオケを出ると、ようやく解散となった。


今日は元々、職場が休みの山口と

「もう今日は休む」と言う里森と三人で

コーヒー 飲んでから 帰ることにする。


レナちゃんは、普通に

「じゃあ、おやすみなさい」と 帰って行き

4人部屋のヤツらも盛り上がったらしく

4人で朝飯食ってから帰る、と 別れ

上村は ミクちゃんと連絡先を交換し、送っていく ということに成功した。


「でもさぁ、オレなんで

氷咲 呼んだかなぁ?」


だいぶ今さらなことを 平然と里森が言う。


「誰かが来れなくなったんだろ?」


オレが言うと、里森は

「誰が来れなくなったんだろな?」と

聞き返してきた。


「知らねーよ。大丈夫か? おまえ」


うーん... と

里森は考えながら、オレに説明し出した。


「最初から、氷咲は呼ばない予定で合コン段取りしたんだよ。おまえ、こういうのキライじゃん。

だからオレと、主役の上村。あと、杉山と浦上の四人でさ」


里森、上村、杉山、浦上。で、オレ。

高校の時からつるんでいて、卒業してからも ちょくちょく会う。週末も五人で飲んだ。


「で、来れなくなったヤツって

誰呼んでたんだよ?」


「呼んでねーんだよな、誰も」


「はぁ?」


訳わかんねー。


「でも、オレ ダイニングバーにも最初から10人で予約してたんだよな。

店に着いてからもさぁ

“あ、ひとり来れなくなったんだった

じゃあ、氷咲呼ぼう” って... 」


「最初からいないはずのヤツが、予定の数に入ってたってことか?」


なんか気持ち悪ぃな。


「あんた達、高校ん時から よく5人でいたもんね」

山口も考えながら「あのさぁ」と話し始めた。


「あたしが声かけたのって、同じ職場のミクちゃんとアキのふたりで、ユウちゃんはミクちゃんが呼んでくれたんだよね」


「レナちゃんは?」


「わかんない」


「わっ、怖ぇ! なんだよそれ!」と

里森が騒ぐ。


山口は、ぶるっと 一震えし


「あたし含めて4人居ればよかったのに

いつの間にか、あたし以外に4人女の子が居なくちゃって思ってて...

アキとミクちゃんに、“ユウちゃん以外にも

誰かもう一人呼べないかな”って 頼んでたから

“ああ、どっちかがレナちゃんを呼んでくれたんだな” って 思ってた」


3人で顔を見合わすと、山口が頷いてスマホを取りだし、アキちゃんに電話した。


アキちゃんもユウちゃんも

レナちゃんのことは 知らないらしい。


ミクちゃんには... まだ上村と 一緒にいたら、上村に悪いので、メールで聞いてみた。


『知らないよー。誰の友達なの?』という

返事が戻ってくる。


「これは... 」


そのまま里森は黙り、山口も無言だ。


外は すっかり明るくなったが

オレらは なんか もったりした気分で

それぞれ帰った。

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