99.二度ある事は三度ある
すぐに組合代表が、今までと同じ女性の秘書を伴ってやって来た。人数分のお茶を運んできている。
お茶を飲みながら、明日積み込む分の水や肉類以外は揃った事を告げられる。
「これから馬車と馬、荷物の検分にお付き合い願えますか」
「もちろんです。夕刻には領主様の館に向かいますが」
「少し離れた場所になりますが、組合所有の倉庫と駐車場に向かいます。ですが時間は問題ないでしょう」
お茶を飲み干すと、組合代表に連れられて倉庫に向かう。秘書の女性も同行するようだ。
代表自らが案内などせずともと尋ねると、自分以外の者がユーリ達に対応するのが「怖い」と答えられた。
誰かも同じようなことを言っていたなと、ユーリは苦笑していた。
四半刻ほど歩くと倉庫と駐車場に着いた。中央城門に近い場所だ。
隣には百メートル四方はありそうな牧場が存在している。牽引馬用の牧場との事だ。五十頭近くの馬が放たれている。
組合所属の馬だけでなく、個人所有の馬もいるそうだ。別の城門の近くにも牧場があるらしい。牧場と言うより繋養場と言った方が近い。
一部には馬房のある宿もあるらしい。だが一晩程度ならまだしも長期の滞在となると、こういった施設も必要なのだろう。
組合代表に訊くと、城外には馬の生産牧場もあるそうだ。貴族街には更に広い繋養場もあるらしい。先に見た詰め所の牧場とは別に。
早馬用に軽種馬すら飼育されているそうだ。
先に馬を紹介されるらしい。
家屋が焼失した商会が持っていた馬の内の一頭だそうだ。個人所有で複数の馬を持つ商人がなぜあんな馬鹿な真似をしたのか、組合代表も疑問だったようだ。
貴族には逆らえないと言う事だろう。もしくは己の要望に忠実すぎたのか。
体重が一トンくらいありそうな鹿毛の牝馬である。大人しい馬を選んでくれたらしい。名前は無いそうだ。
ゴローが近付いて撫で掛ける。馬は大人しく撫でられるがままだ。馬を撫でながら一周したゴローが親指を立てる。問題無さそうだ。
「名前を付けた方がいいかもしれないな」
「馬なら普通にシルバーじゃねえのか」
「なんで『ハイヨー、シルバー』って言うんだろうね」
「大昔のアメリカのドラマが元らしいんだよねえ」
「ゴローは親や祖父の世代の知識は何でも知っていそうだな」
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」
「おい」
それから倉庫の方に向かった。
馬車は指定通りの物である。四輪の大型馬車で御者台もあった。荷物も大半が積んである。だが空きスペースが広い。彼等の要求した荷が少ないのだろう。
またもゴローが御者台に上り、座り心地などを確かめている。だがクッションも無い木の板だ。しっくり来ないようだった。
荷台のほうに移って、積んでいる布袋に藁束を詰め込んで、簡易クッションを作っている。それを御者台に置いて再度座り込む。
なんとか納得できたのだろう。クッションをそのまま残して降りてきた。
そして荷台に組合代表とユーリが上る。
組合代表は一品ずつ指しながら、ユーリに説明をしていく。ユーリはそれぞれ底から掬い取ったりしながら、混ぜ物が無い事を確認していった。
組合代表は信用できるだろう。だが実際に品を集めてきた者は、指示されただけの別人の筈だ。確かめる必要があるのだ。
荷物は全て問題なかった。このまま駐車場に馬車は置いておく。組合の雇った護衛がこの後も見張っているそうだ。
時刻は昼四刻を過ぎた辺りか。午後五時くらいだろう。
晩餐にこそ参加しないが、組合代表も領主の館に向かうらしい。そのため商業組合の会館に寄る事になった。
ユーリ達も晩餐には参加する予定は無い。さすがに「異邦人」の「英雄」と言えども、二日連続では組下の貴族に対して面目が立たない。
それに長女との別れとなる最後の晩餐だ。家族以外は邪魔なだけだろう。
別室でクーディ達と馳走になる予定だった。
商業組合で時間を調整して、夕刻に着くように出発する。
まだ十分に明るく人出も賑やかだった。未だにエイティに対する好奇の視線は多いようだ。
それに気付かない振りをしながら彼等一行は歩いていく。
領主の館の門前には、門衛の他に家宰まで立っていた。
今回は組合代表とユーリ達、クーディ達と爵位持ちが居ないにも関わらず。
どうやらジョン・ドゥの同郷、及び令嬢の護衛と言う事で貴賓扱いらしい。
門衛に軽く礼をして、家宰に連れられて行く。
案内されたのは、相変わらず一階の客室だ。今回はクーディ達も一緒だった。
室内にはギルド長が既に座っていた。ゆっくりとお茶を飲んでいる。
組合代表もギルド長も、ユーリ達に掛かりっきりだ。いくら他の者に任せるのが「怖い」とは言っても、限度と言う物があるだろう。
ユーリは気になって尋ねた。
「お二人とも自分の仕事は良いのですか」
「どうせ明日の昼までだ。君等を野放しにする方が仕事が増えかねん」
「優秀な秘書も居ます。事情を知っている私の方が、都合が良いのですよ」
ギルド長はストレートに、組合代表も婉曲にだが同じ事を言っている。
ユーリ達を目の届かない場所には行かせられないと。
信用は出来ないが、信頼は出来るということか。
過去の行いから、何をするか分からないと言う恐れがある。だが逆に過去の行いから、護衛を任せる力は十分だ。そう考えているのだろう。
しばらくすると家宰の男が、数人のメイドと使用人を伴って入ってきた。
使用人の男性は椅子や机を、メイド達は夕食を携えている。椅子と机はクーディ達用だろう。
白パンと香辛料を使ったステーキ、そしてスープのセットだ。クーディ達は目の前に並べられたそれらに目を剥いている。
クーディ達は小麦を使った白パンなど滅多に食べる事は無い。香辛料を使った肉など見るのすら初めてだ。本当に手を付けて良いのかと戸惑っている。
ユーリ達は当然気にしない。ギルド長は子爵だし、組合代表はこの街の商業のトップだ。彼等にとっては珍しくは無いようだ。
ギルド長が声を掛けると、クーディ達も食事を始めた。その味に驚いているようだ。だが静かに食べている。さすがに場の空気は読めるようだ。
食事が終わるとクーディ達は別室に案内されていった。この先の話はジョン・ドゥや異世界の事も出るだろう。聞かせる訳にはいかない。
食事を終えてお茶を飲んでいると、領主がやって来た。息子と娘も一緒だ。
明日から共に旅をする仲間だ。今更、娘をこの場から外しても意味が無い。
それどころか打ち合わせと考えるなら、一緒に居た方が良いだろう。
始めに組合代表が馬車や荷物が整った事を領主に告げている。更には掛かった経費と、残額を領主に預ける事まで話していた。
それを聞いた領主はユーリに問い掛ける。
「君達はそれで良いのかね」
「ええ、我々の世界にこういう諺があります。二度ある事は三度ある」
「それは同じ事は何度も繰り返すと言う事かね」
「どちらかと言うと戒めですね。失敗は繰り返す事が多いため注意せよと」
「ジョン・ドゥや君等の来訪を失敗だとは思いたくないのだがな」
「ええ、我々もそう信じたいですね」
少し苦笑しながらユーリが答える。
彼等を送り込んだ神の如き誰かは、彼等に知識チートを望んでいるのだろうか。もしかしてこの世界を進歩させるための、起爆剤として送っているのだろうか。
それなら人選ミスだったね、と嘲笑ってやりたい気分だ。
ネカハの村の転移転生者は便所や橋くらいだし、ジョン・ドゥのフリーマーケットは二十年経っても広まっていない。
天然ソーダなど地球では紀元前から知られていた。この辺りまで伝播していないのかもしれないが、たぶん遠方では当然のような知識だろう。




