82.危険とはお思いになりませんか
四人は改めて領主の横に座る二人を観察する。
息子の方は領主と同じく金髪碧眼の偉丈夫だ。立派な体格で、そこそこの美男子と言っても良いだろう。
娘の方は逆に華奢な体形のようだ。少し赤みがかった茶髪と、翠色の眼をしている。絶世の美女と言う程では無いが、じゅうぶん愛らしい容姿だ。
ドーリだけは別の感想を持ったようだ。「ネカハより体のメリハリはついているな」と呟いていた。
娘と紹介している以上は未婚なのだろう。息子の方は分からないが。
この容姿なら二人とも婚約を申し込まれまくっているに違いない。
領主の自己紹介を他の三人に翻訳してから、ユーリも名乗り返した。
「ユーリと申します。私の隣から順にエイティ、ゴロー、ドーリです。彼等は言葉が分かりません。翻訳のため話を遮るかもしれません。ご容赦願います」
四人とも右手を胸に当てる礼を取っている。
相手が居丈高な態度を取らないならば、年長者に対する最低限の礼儀や言葉遣いも躊躇う事は無い。喧嘩をしにきたのでは無いのだ。
異世界物で王族や貴族、どんな相手にも平気でタメ口で話す者が居る。
それも十五、六歳の若者がだ。
わざわざ喧嘩を売りに行っているのだろうか。
相手に対する敬意が全く無い事を暴露しているのと変わらない。それどころか自分の方が上位者だと宣言しているのに等しい。
魔王に転生でもしたのならばともかく、常識や良識が無さ過ぎるのだ。
現代社会に置き換えるまでもなく分かる事だろう。
平社員が社長に、学生ならば校長に、態度もラフにタメ口をきく。人事考課や内申書がどうなるかなど、火を見るより明らかだ。
気安さを示しているのではない。相手の気持ちや立ち位置を、推し量る事すら出来ない愚か者である事を表明しているのだ。
ギルド長も組合代表も胸を撫で下ろしたい気分だった。
友好的、いや少なくとも敵対的な行動を取らなかった事に対して。
彼等の立場で考えれば、どんな態度でもおかしくないのだ。
「領主」の過失による依頼で、危地に陥った冒険者を救った。そして招かれた街で、「貴族」を首魁とする複数の「商人」が結託した盗賊に襲撃を喰らう。
この街そのものが、悪徳の街だと思われても仕方がない。
そんな街を治める領主だ。悪の統領と考えられていても不思議ではなかろう。
彼等が謁見の場でも武具を手放そうとしないのも当然のことだ。
もちろん、そのような領主ではない。
善政を施し、賢侯とすら呼ばれている。クーディ達のような平民の冒険者ですら、敬意と謝意を持って接する領主なのだ。
「まずは礼を言わせて貰おう。ラゴギョノテの件で冒険者達を救ってくれた事に感謝する」
領主はそう告げた。
ラゴギョノテの単体討伐の依頼を出したのは領主なのだ。
もちろん森を通る商人達や冒険者等から、一匹だったとの報告が上がってきたのが原因だろう。だが最終的に判断して依頼を出した責任は免れない。
単体討伐が可能な上位の冒険者達を、無為に死なせる可能性があったのだ。
言葉が分かるユーリだけが肯いている。
謙遜の言葉を述べる気は無いようだ。
たぶんこの世界で彼等と対等に闘える相手は、ドラゴンレベルの魔物しか居ないのではないかとすら考えていた。
魔法のある世界のようだが、その魔法も彼等にとってはレベル一程度だろう。
剣術や体術も系統だった物にまで進歩していない。あの盗賊団の首領フィルヴィの大鉈も軽く捌けたのだ。
彼等はチートというより、人の姿をした災厄、埒外の化け物と言った方が妥当な存在なのだろう
だが無敵だとも思っていない。空腹も感じるし、休憩だって必要なのだ。
それこそ二つ以上の軍集団十万の兵に取り囲まれて、休む暇も与えられずに一旬も攻め続けられたら負けるだろう。相手も九割以上は死滅するだろうが。
何も答えないユーリを気にする様子も無く、領主は言葉を続ける。
「それから詫びだ。領の者が迷惑を掛けた。彼等には厳正な処分を行う。賠償に関しては後で組合代表から行わせる。それで勘弁して欲しい」
「厳正な処分……ですか」
少し疑わしそうな声音で、ユーリは訊き返す。
どうせ身内だと、庇うのだろうと思っているのだ。
せいぜい一代爵に落として、折を見て元に戻すのだろうと。さすがにあの馬鹿息子を後継にはしないだろうが、次男か庶子、娘婿辺りに継がせるだろうと。
「資産没収と爵位剥奪の上で犯罪奴隷落ちは確定だ。親子共にな。ヴォズリィ家は抹消だ。初代の功績すら存在しなかった事になる。残る妻子も平民落ちの上、領外への追放だ。領内の貴族による引き取りも認めない」
横からギルド長が補足するように口を出した。
厳罰過ぎる気もしなくもない。過去に遡っての存在抹消だ。
家を滅ぼすだけではない。親や祖父、それ以前の祖先の功績すら否定される。
代々続く貴族である事だけを誇りとしてきた者には、最悪の結果だろう。
妻も他の貴族の子女なのだろう。だが実家に戻る事は許されない。援助はされるかもしれないが、貴族位を騙れば犯罪者だ。他の子と共に、一庶民として残りの生を歩むのだ。
「商人の方も全資産没収の上、本人は犯罪奴隷になります。家族は領外への放逐となるでしょう」
商人組合代表も横から口を出す。
家族は見知らぬ土地に、着の身着のまま放り出される。
運が良くて開拓民、場合によっては身売りするしかないだろう。
現代地球のように、罪はそれを犯した本人にのみ適用される世界では無い。
見せしめの意味もある。家族にまで累が及ぶと分かれば、他の者は罪を犯そうという意思は低くなるだろう。
共に相当重い処分だが、そうした理由は単純だ。下手に軽い処分にすると何が起こるか分からない。
ユーリ達が不服に思わないようにするためだ。彼等がこれ以上手を出さないように、納得させるためなのだ。
さすがにそれを聞くと、ユーリも肯くしかなかった。
領主の言葉や傍に立つ二人の処分内容を、他の三人に翻訳していった。
彼等の誰一人として、加害者の家族が可哀相だとは思っていない。
既に片割れの商人は家族を含めて消し去った。「盗賊」の仲間だ。命があるだけマシだろうと考えるだけだ。
そして領主が改めて口を開いた。
「君達の事を聞きたい。高位冒険者だそうだな、『異国』の」
「口を差し挟む事をお許し願えますか。なぜ、御子息と御息女を伴われているのですか。危険とはお思いになりませんか」
ユーリが口を挟む。
領主の横に並ぶ二人は、子供という齢では無い。だが無関係な者にまで、自分達の情報を晒すつもりも無い。
邪魔だ、出て行かせろ、と脅しているのに等しい。
ギルド長が囁いたように、異国ではなく異世界の者と思っている筈だ。組合代表ですら立ち合わせるなと思っているのだ。
ギルド長と組合代表は、少し身構えながら領主の方を見た。
領主は面白そうにユーリを眺めている。そして話し掛ける。
「君達が私の想像通りの者ならば、立ち合わせておいた方が将来の為になると思ってな。それと君達は私に敬意など持っておらんだろう。私は武官に近い。もう少し楽に話してくれないか。遠回しな言葉や、腹の探りあいは勘弁して欲しい」




