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81.お言葉に甘えさせて頂きます

 ギルド長も軽くお茶に手を付けて、ユーリ達に向き直る。


「君達も気付いているだろうが、昨夜の襲撃はヴォズリィ男爵の手による物だ」

「ヴォズリィ男爵……ですか?」


 ユーリは不思議そうにギルド長に訊き直した。

 ギルド長はその様子に溜息を吐いた。

 名前すら覚える気がなかったのか。先の門前の領兵と、今しがたの謁見の場と、二回も名前が出たのに。


「謁見の場で喚いていた馬鹿だ」

「ああ、あの男ですか」

「馬鹿息子の方がすぐに吐いたよ。異国の品を入手して、それを王に献上するつもりだったとな」

「なぜ只の冒険者の我々が、貴重な異国の品を持っていると思ったのですかね」


 ギルド長は再び溜息を吐く。

 ラゴギョノテ三体を瞬殺出来る冒険者が、「只の」ではなかろう。

 と同時に、ヴォズリィ男爵にも文句を言いたかった。

 それを推測できる程度の知恵があるのに、なぜ襲おうと考えられるのだ。

 この国の権威や、この街での商人の立場が、なぜ通用すると思ったのだ。

 歪んだ自尊心が都合の良い未来を見せていたのだろう。


「それにしても短時間でよく調べ上げましたね。ここの領兵は優秀ですね」

「爪を全部剥いで、指を数本折ったら、素直に喋ってくれたそうだ。朝の商人の方も、脚の傷口に酒をぶっかけて塩をすり込んだら黒幕を話したそうだ」

「それは酷い手段を取りましたね」


 クーディ達はその言葉を聞くや否や、ユーリ達に顔を向けた。

 視線で訴えかけている。

 お前等が言うなと。昨夜の襲撃での尋問時に、盗賊達の四肢を斬り落として下顎まで潰したのは誰だと。

 諦めて喋った連中すら片腕片脚を潰したのだ。連中は奴隷落ちが確実だが、先は長くない筈だ。足を引き摺り、利き腕も不自由なのだ。鉱山奴隷として使い潰されるのが関の山だ。


 ギルド長も呆れているようだ。

 何の為に拷問まがいの事をしてまで、吐かせたと思ってるのだ。

 彼等四人のためだ。いや、厳密には違う。彼等四人が独自に報復を行う事を避けるためだ。

 昨夜の二件の火災は近隣にも被害が出ている。賠償は火元の商人の資産から行われる事になるだろう。

 火事の原因も商人の不始末で片付けられる予定だ。彼等は証拠など残していないだろうし、もし残っていたとしても「盗賊」退治だと気にも留めないだろう。


 しばらくしてノックの音がした。

 領主かと思ってクーディ達が腰を浮かせかけたが、メイドに伴われて入って来たのは商人組合の代表だった。

 彼も関係者として領主との面会に立ち会うのだ。たぶん昨夜の報告時に命じられたのだろう。

 ギルド長の隣に腰掛けて、差し出されたお茶を飲み干した。

 彼も謁見の場に緊張していたのだ。ユーリ達の態度にかもしれない。


 更にしばらくして、ノックの音と共に家宰の男が入ってくる。

 すぐに領主が訪れるので、席を立っていて欲しいと告げた。そして最低限の礼はして貰えないかと頼んできた。

 ユーリ達も、跪けだの、面を下げろだの、あからさまに下に置こうとすれば抵抗する。だが単に礼儀として略式の礼をするくらいなら構わない。

 ユーリ達は席を立ってギルド長の背後に並び、片手を胸に当てて佇んでいた。

 当然のようにクーディ達は、ギルド長の背後で膝を着いている。


 ほっとした様子で家宰はメイド達に合図を送る。

 メイド達が黙って部屋を出て行く。そして領主が入ってきた。ユーリ達より若い男性と、更に若い女性を伴って。

 男性は二十歳を越えたくらい、女性は十六、七歳といったところか。

 ある程度着飾った様子から、領主の息子と娘に違いない。ただ護衛のような者は一人も居ないようだ。

 ユーリ達は内心で首を捻っていた。

 なぜ身内を「危険」に晒すような真似をするのだろうと。

 自分達が危険物扱いされるのは分かっているのだ。


 領主は奥のソファに腰を下ろした。

 若い男性と女性は、その両脇に座る。

 ギルド長と組合代表は、クーディ達とユーリ達から離れていった。そして領主の座るソファの両横で少し手前に仁王立ちの状態だ。ユーリ達を警戒しているに違いない。家宰の男はソファの後ろに控えている。

 ギルド長がクーディ達に目で合図を送った。

 クーディ達は立ち上がると領主に一礼をして部屋を出て行く。扉の前で見張りをする為に。


 どうやら家宰も立ち会うようだ。

 家宰、執事と言うのは実は相当の権威がある。只のお手伝いではないのだ。

 家主との面会取次ぎを行う際に、自分の判断で会わせない事も可能なのだ。家主の変わりに、他のメイドや雇い人に指令を出す事も可能だ。

 場合によっては直轄領の代官に命令を出す事も出来る。爵位こそ無いが、副領主と言っても過言ではないのだ。


 そのため信用出来る者しかなれない。

 基本は家を継げない貴族の次男や三男がなる事が多い。貴族のしきたりなどを理解出来ているからだ。

 その上で家主と同じ立場で物事を考えられる視点を持つ必要もある。辺境伯領の執事ともなると、小さな領を預かる者よりはるかに有能だろう。

 その後は第一の家臣として代々続く事も多い。

 異世界物で見かける事もあるが、執事を馬鹿にする貴族など居ないのだ。執事ごときが、使用人風情が、と罵るのは愚か者なのだ。


 クーディ達が部屋を出たのを確認して、領主が口を開いた。


「楽にしてくれ。礼も不要だ」

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」


 ユーリはそう言って礼を解く。他の三人もユーリの様子を見て礼を解いた。

 そして領主の対面のソファに腰を下ろす。

 領主の息子や娘と思われる若者達も、興味深げに彼等を見ていた。


 領主は感心しているようだった。

 こういった言葉遣いも出来るのか。粗野な冒険者では無いようだ。ギルド長や組合代表の報告にあったように、高い教育を受けているに違いない。

 やはり「あの男」と同じ者達なのかもしれない。

 一息ついた領主が改めて名乗り始めた。


「領主をしているセクミ・レヴィンシだ。これらは息子のレットニイと娘のノアルマだ」


 紹介されたレットニイとノアルマは胸に手を添える礼を取っていた。

 平民の冒険者相手に平気なのかなと、ユーリは思っていた。

 だが領主である父親が、わざわざ招いて会おうとする相手だ。礼を取るのも不思議ではあるまい。

 それに父親の施政も理解している。平民を見下す気も無ければ、高位冒険者を無下に扱う気も無い。


 どうやら名が前で姓が後らしい。

 印欧語系統に近いのだろう。この辺りでは、ほとんどの言語がそのようだ。クスマナエの言葉も同様であった。

 男性形や女性形に分かれ、数や格によって変化する。

 男性名はイの音で終わる物が多いようだ。たぶん女性はアの音なのだろう。

 エイティやドーリ、ユーリの名に、疑問を持たれなかったのはそのお陰か。だとしたら、ゴローの方が異国人扱いされていたのかもしれない。

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