74.それは気の毒ですね
しばらくしてエイティ達が戻ってきた。
怪我も無く暢気な感じであった。一仕事終えた感じすらしていない。
部屋に入ると空いている方の下段ベッドに腰掛ける。
「片付いたの?」
「ああ。奴の家と店を潰しておいた。隣近所に延焼するかもしれんが、どうでもいいしな」
「ホント鬼畜だねえ」
「止めなかったお前も同類じゃねえかよ。……俺もだがな」
それを聞いたユーリは肩を竦めただけであった。
平民としては富裕な場所に家を持ち、街の中心近くに店を構えていたのだ。
当然商人組合に加盟しているだろうし、為替のための当座預金のような物もあるに違いない。出火責任として隣近所の損害はそこから支払われるだろう。
ただ彼等は思っている以上に、自分達が壊れている事が分かっていた。
周りの被害を考えない事もそうだが、この短時間で家屋全体を燃やし尽くした事が問題なのだ。
エイティの魔術で行ったのだ。当然首謀者の商人は亡くなっただろう。
だが一緒に居たであろう「家族」や、店に居たかもしれない「従業員」も、確実に逃げ出せなかっただろう。
見ず知らずの無関係な異国の旅人を襲おうと考えるような商人だ。実際に配下の者達が彼等を襲撃している。そんな商人の稼いだ金で生きてきた家族や、他の従業員も身内と言っても良いだろう。
その者達をも一緒に消し去ったのかもしれない。確認もせず、躊躇いも無く。
彼等が言った鬼畜と言う言葉は冗談のつもりが全く無いのだ。
ユーリは宿の主人に向き直った。
「申し訳ないですが、空いてる部屋があれば彼等を休ませて欲しいのですが」
「なら俺達の部屋を使ってくれ。どうせこの後もギルドや領兵に話をする必要があるだろうし」
クーディがユーリに声を掛けた。
やはり護衛を務められなかった事に対して、申し訳ない気持ちがあるのだ。
ユーリは肯いて他の三人に翻訳していく。
「とりあえず三人は休んで貰える? 特にエイティはSP減ってると思うから」
「明日の領主との面会は……キャンセルだねえ」
「城門壊すくらいのスキルポイントは残っているがな」
「俺が起きている方が良いんだろうが、言葉分からねえしな」
ハンマーを数回振るっただけのドーリだ。現状では最もスキルポイントが残っている。寝ずの番をするのに一番向いているのだ。
だが後で来るだろうギルドの者や領兵と話せるのはユーリしか居ない。
三人はクーディ達の部屋に向かって行った。
更に四半刻、三十分ほど経った頃だろうか。ギルド長と数名のギルド職員、それに五人ほどの領兵を連れてクーディの仲間が戻ってきた。
彼等は宿の入口近くに並べられた遺体に驚いていた。
喉を矢が貫通している者と、眼から後頭部まで矢が深く突き立った者が並んでいる。どんな腕の持ち主がこんなに的確に射止める事ができるのだろう。
二人の領兵を入口前に残して、宿の中に入っていった。
クーディの仲間に連れられてユーリの居る部屋まで上がっていく。
部屋の惨状に驚きながらギルド長がユーリに訊ねた。
ギルドの長の方が、平民街を担当する領兵よりも立場が上なのだろう。もしかしたら指揮権すらあるのかもしれない。
「何があった」
「襲撃ですよ。異国の品を狙った『盗賊』でしょうね」
「火事が起きている。二箇所もな。そのせいで領兵が出払っていて、連れてこれたのは五人ほどだ」
「大変ですね」
「燃えている二箇所は、ある商人の自宅と店らしい」
「それは気の毒ですね」
ユーリはとぼけた様に答えた。
だがギルド長は鋭い眼をしたままユーリを見詰めている。明らかに彼等の仕業だと疑っているようだ。
間違いなく異国の品を狙った商人指揮下の襲撃だ。そして報復されたのだ。
商人自身の命と、家と店と家族すら一緒に燃えていったのだろう。ユーリが言ったように「盗賊」の首領とその仲間として。
封建主義の世界では連座制が一般的だ。罪人の家族も一緒に罪に問われる。
罪を犯した者を止めなかった事、それが罪になるのだ。知らなかったでは済まされない。そのような者である事に気付けない事すら罪なのだ。
だが、それを裁くのは領主だ。平民の一個人のすべき事ではない。
しかし、とギルド長は考える。
襲ってきた相手を倒すのは当然だ。首謀者が居るならそれも含めて。
だが下手をすれば首謀者の商人は、懇意な貴族に庇われて罪に問われずに済むかもしれない。あの場所に家を構えているのだ。後ろ盾が居てもおかしくない。
そして自ら名乗ったように彼等四人は領民ではない。誰も彼等の弁護などしないだろう。自分達で片を付けに行くのも仕方がないのかもしれない。
ギルド長は諦めたように溜息を吐いた。
そして改めて部屋の様子を眺める。窓と扉の両方が破壊されている。同時に二箇所からの襲撃があったのだろう。
脇のベッドには縛られている男達が四人転がっている。入口付近の遺体も含めると最低でも六人での襲撃だ。
ユーリに問い質してもまともな返事が無いだろうと思ったギルド長は、クーディに詳しい話を聞く事にしたようだ。
クーディの話を聞いたギルド長は領兵に指示を出して上段ベッドを覗かせた。その領兵は見た物を報告した後、気分が悪そうに入口の警備と交代しに行った。
更に五人も居た事が分かった。計十一人による襲撃だ。どう考えてもコソ泥や単なる盗賊では無い。この規模の盗賊団が街の中に居るとも思えない。予想通りなのだろう。
ギルド長は縛られた四人に尋問を始めた。
短槍を持った男は変わらずに冷たい眼で自分達を見下ろしている。それに気付いた男達は、嘘を吐くと上段のベッドにいる者達と同様になると思っている。
縛られた四人は正直に話し出した。
尋問を終えたギルド長は、こめかみを押さえながら軽く首を振る。
想像通りだった。商人なら情報収集くらいしていろ、と怒鳴りたい気分だ。
クーディ達が彼等四人を連れてきたのは見ていれば分かる。そのクーディ達がラゴギョノテ退治の依頼を受けた事も少し調べれば分かるのだ。その繋がりとラゴギョノテの生態から、彼等の力量を想像も出来ないのかと。
そしてギルド長は上段ベッドを覗きこむ。
さすがに眉を顰めるが、気分が悪くなったりはしていないようだ。ギルドの長にまでなったのだ、この程度で取り乱したりはしない。
息のある二人は朦朧としているようだが、痛みのために随時意識を取り戻しては呻いている。
たぶんユーリは故意に無視しているのだろう。いや、もしかすると忘れているのかもしれない。既に死んだ者として意識の片隅にも残っていないのだ。
再び溜息を吐きながらユーリに問いかける。
「この者達の処理を任せてもらって良いか」
「ええ、構いませんよ」
ユーリは興味無さげに答えた。
その様子にギルド長は「本当にどうでも良いのだな」と呟いた。
腰からナイフを抜き出して、二人に止めを刺していく。
生き残った四人から証言は取れたのだ。下顎を潰された者から証言が聞けるとも思えない。しかも両手足が断ち切られているのだ。犯罪奴隷にすらなれない。結局は処刑される事になるだろう。
そして雇い主の商人に唆されて盗賊に落ちるような愚か者とは言えども、たぶん元冒険者なのだ。見知った顔でないため他所の街の者だろうが。
これ以上無為に苦しめるのも忍びなかった。




