75.治安組織じゃねえな
その後ユーリにクーディの部屋に行って貰い、仲間と一緒に休むように頼んだ。素直に聞いて貰えたようで、すぐにクーディの部屋に向かっていった。
ユーリも夜明けまでは二刻ほどだが、SPは二割程度の回復、全快にはなるだろうと納得していた。
そしてギルド長は宿の主人に空いている部屋を二つ用意して貰った。
一つの部屋に連れてきたギルド職員を入れて調書の作成を頼む。領兵は入口の見張りに二人、捕虜四人の見張りに三人を付ける。
もう一つの部屋でクーディ達を休ませると共に、あの四人の今日の行動の一部始終を話させていた。
既に夕方に簡単には聞いてはいたが、今度は詳細な会話内容まで含めてだ。
クーディも換金屋のことは誤魔化したが、領兵詰め所での情報収集や商人組合でのやり取りは正確に伝えた。
ギルド長は商人組合での話を聞いて頭を抱えていた。
晩に彼等四人の返事を領主に伝えに行った時に、商人組合の代表を見た記憶が蘇る。あれは確実にユーリ達の報告のために居たのだろう。
彼等四人は商人組合を敵視はしてないだろうが、良い感情を持っているとも思えない。そんな状況での商人の襲撃なのだ。
対応策を考える為に朝一番で、領主と組合代表と話をする必要がありそうだ。
どうやらギルド長は朝までここに残るつもりらしい。
別口の襲撃があることを警戒しているのだ。
さすがに今夜また襲いに来るとは思いたくない。だが街中で二箇所も火事騒ぎが起きているのだ。夜番の領兵も出払っている。これを機会にと考える者が出てもおかしくない。
クーディ達と共に仮眠を取りながら、朝までの時間を過ごしている。
しかし、その後は何事も無く夜が明けた。
日が昇るとすぐにギルド長は領主の館に向かった。領兵の一人を連れて。
詰め所に応援を頼むように伝えさせるためだ。さすがに連れてきた五人だけで、捕虜四人の輸送と七人もの遺体処理は無理だ。
商人の家と店の火災も治まっている様だ。「盗賊の首魁」の検分より、こちらの方が大事だろう。
ユーリ達とクーディ達も同様に起きていた。
ユーリ達は前日の店に食事に行こうとしていた。
クーディ達は必死でそれを止めようとする。この状況下で彼等四人を野放しに出来ないと考えているのだ。
だが彼等は襲撃の事は気にせずに普通に出歩く気だった。既に昨夜の襲撃は彼等にとってはどうでもいい過去なのだ。
説得を諦めたクーディは自分が付き添う事にして、二人には残って領兵とギルド職員の手伝いをさせることにした。少なくとも関係者が残っている必要がある。
残る二人に店で持ち帰りが出来そうな物を頼む事を約束して、クーディと四人は宿を後にした。
ユーリ達は食事を楽しんでいた。
昨日と同じような献立であった。だがステーキは別の獣の肉だし、スープの味付けも出汁から変わっているようだ。
日毎に変えることで、通う者に飽きが来ないように工夫しているのだろう。
パンも相変わらず柔らかい黒パンである。
少し疑問に思い女将に尋ねると、どうやら北の国から輸入した粉を使っているらしい。その粉を混ぜると柔らかい黒パンが焼き上がるそうだ。ただ高価なので使えるパン屋は少ないらしいが。
やはり、あの世界の続きのようだ。
どうやらエルイはトロナ石を見つける事ができたのだろう。それどころか有力な輸出品にまで育て上げている。自分の商会を持っているのかもしれない。
いや、あれから三十年だ。息子にでも店を譲って隠居している可能性が高い。
ネカハへの贈り物は無駄ではなかったのだ。約束も守ってくれている筈だ。
四人は明日からこの朝食が食べられなくなるのだけが残念だと思っていた。
満足そうに食した後も、お茶を頼んでゆっくりと時間を過ごした。
たぶんギルド長が朝三刻に、本日の謁見の中止を宿に伝えに来るだろう。それまでの時間つぶしも兼ねている。
襲撃者の内の五人を殺し、その背後に居た商人一家も殺害したのだ。そんな連中を武具も取り上げずに領主に会わせられる訳が無い。
クーディは何か言いたげだ。しかし結局お茶を飲んでる間に、仲間とついでに領兵やギルド職員の分の持ち帰り可能な食事を注文するだけであった。
朝三刻、彼等四人の感覚では午前九時になる十五分くらい前に宿に帰った。
相手を待たせないようにとの配慮だろう。やはり日本人としての意識が捨てられないようだ。
クーディは食事を抱えて、宿の中に入っていった。
ユーリは入口前に立つ領兵に自分達が代わるので、朝三刻までにクーディの持ってきた食事を済ませるように告げた。
領兵達もそれを聞いて宿の中に入っていく。と言っても、入口内部の受付辺りで立ち食いで済ませるようだが。
四人が宿の前で立っていると、結構立派な服を着た男が十人程の男達を引き連れて近付いてくるのが見えた。連れている男達は服装を見る限り、衛兵でなく護衛か私兵のようだ。きっちり武装もしている
「治安組織じゃねえな」
「昨夜領兵も呼んだし、ギルド長が朝一で領主に連絡に行ってるでしょ」
「単独犯じゃ無かったと言う事か。貴族の黒幕でも居そうだな」
「この街や国の権威が、僕等に効くとでも思ってるのかねえ」
彼等は近付いてくる者の目当てが自分達だ、と分かっているようだった。
領兵が出張っていることを知らないなら、ただの間抜けだ。知っているなら相応の権力を持つ者がバックに居るのだろう。
商人組合の代表は、他の商人に警告を発しなかったのだろうか。
近付いてきた男は商人のようだ。彼等の前に立つと一方的に告げた
「お前等には、とある商人とその家族の殺害容疑がある。大人しく着いて来い」
ユーリが翻訳して伝えると、他の三人は一斉に笑い声を上げた。
どう見ても治安組織に属しているように見えない奴が何を言っているのだと。まさか十人程度の私兵で自分達をどうこう出来ると思ってるかと。
ユーリも可笑しそうに笑いながら、その男に答えた。
「あんたは馬鹿か。あんたに捕らえる権利があるとでも思ってるのかよ」
「な!?」
その男は驚きの声を上げる。黙って着いて来ると思っていたのだ。
異国人風情がと、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
「私は商人組合から派遣された正式な者だ。黙って従え」
「おいおい、この街では商人が治安維持を担当してるとでも言うつもりか?」
ユーリは変わらずに小馬鹿にしたような笑みを浮かべつつ言い返す。
エイティ達に言葉は分からない。だがどうやらユーリが、からかって面白がっていることに気付いたようだ。
いや、何らかの言質を取ろうと考えているのかもしれない。
男と私兵達を追い返すのは簡単だ。
正当な治安組織の者、領兵が宿の中の入口付近で朝食を取っている。彼等を呼び出せばすぐに片が付く事なのだ。
辺りに居た通行人も何事かと見物に集まって来ているようだ。
「うるさい。我々にはお前等を捕らえる権利があるのだ」
「だったら、その権利を証明してくれよ。あんたの後ろに居る連中は、どう見ても領兵に見えないんだがな」
男は集まってきている見物客に焦りを覚えているようだ。
引っ切り無しに左右に目を向けながら、ユーリに怒鳴りつけている。
その様子にユーリは笑みを深めている。
コイツは何か勘違いしているようだ。
辺境の街だ。外部から様々な資材を運んでくる商人は、ある程度の力があるのかもしれない。商人組合はこの街では結構な立場にあるのだろう。
だが異国、いや他の街の者にすら通用するとでも考えているのだろうか。




