73.落とし前はつけて貰わねえとな
ドーリがまた別の男を引きずり出してくる。後ろ手に縛って。
そしてユーリが口を開く。
「お前等は何だ」
先に尋問を受けた男二人は、もし正直に喋っても人としては終わっていた。両脚の無くなった者が碌な仕事に就ける筈が無い。残りの人生をベッドの上で過ごす事になるだろう。
いや、彼等の面倒を見てくれる者も居る筈が無い。野垂れ死にだ。この件の雇い主も見放すだろう。
同じような嘘を吐いても先の男達と同じになる。そしてそれを見た残りの者は正直に話すだろう。
残りの四人は正直に答えていった。だが全員の右膝と右肩はドーリのハンマーで砕かれている。
ベッドの上段にいる男達と違い、生きる事は出来るだろう。ただし一生足を引き摺り、利き腕でない片腕で過ごす事になるだろうが。
その男達に猿轡を噛ませて四人は相談を始める。
「商人に雇われた元冒険者だったよ。と言っても、軍人になる力量も、真っ当なところに雇われる信用も、どちらも無いような三下レベルのね」
「商人とはねえ。組合での態度で反感持ったのかなあ」
「どうかな。欲の皮の突っ張った一部の跳ね返りかもしれない」
「その商人の名前と店、住んでる所は聞き出せたんだろ。落とし前はつけて貰わねえとな」
「ユーリは残って後始末を頼む。クーディ達を起こしてギルドと領兵への連絡、それと向かいの建物の下に転がっている奴の処分だな」
「こういう時は言葉が分かるのも良い事ばかりじゃないと思うよ」
ユーリが肩を竦めて呟く。そして他の三人に襲撃者の雇い主の商人の情報を伝えていった。
聞き終わると同時に、ユーリを除く三人は立ち上がって部屋から出て行く。
ユーリはそのまま壊された窓の近くに佇んで様子を窺っていた。
三十分くらい経った頃だろうか。貴族街に近いところで赤い色が上がっているのが見える。火事でも起きたようだ。
それを確認してユーリは部屋を出て、クーディ達を起こしにいった。
部屋のドアを強く叩き続けると、ようやく中からクーディの声が聞こえた。
「こんな時間に誰だよ」
「すまないな、ユーリだ。襲撃を受けてな」
「な!? 無事なのか」
「ああ。後始末を頼みたくてな」
「分かった。身なりを整えたらすぐ向かう。待っていてくれ」
部屋の中からドタバタと慌てるような音が聞こえてくる。
だが、さすがは中堅レベルの冒険者なのだろう。数分もせずに支度を終えて扉から出てきた。もちろん武具も手にしている。
ユーリは先頭に立って彼等を泊まっていた部屋に招いた。
クーディ達は壊された扉を見て驚いていた。いくら寝ていたとは言え、こんな壊され方をしたらその音で起きただろうと。
そして部屋に入り再び驚く。窓も壊されているのだ。いくら自分達が間抜けでも、扉と窓の両方が壊された音に気付けない筈が無い。
最後に傍らのベッドに転がった者達に驚く。四人の男が後ろ手に、足首も縛られて乱雑に放り出されている。猿轡もされておりうーうーと呻り声を上げていた。
そしてユーリがクーディ達に声を掛ける。
「すまないがギルドと領兵の詰め所に連絡を頼む。それと向かいの建物の傍に、こいつ等の仲間の遺体が二つ転がってる筈だ。宿の方に寄せておいてくれ。ああ、ついでに宿の主人にも連絡をして置いてほしい」
それを聞いたクーディ達三人は相談を始める。
一人がギルドと領兵詰め所への連絡、もう一人が外に転がる襲撃者の遺体処理と宿の主人への連絡を行い、クーディが残って詳しい状況を聞くことになった。
クーディ達にとっては忸怩たる思いだった。
彼等四人に護衛が不要なのは確かだった。だが、それでも表向きの依頼内容は案内と護衛なのだ。なのに全てが終わるまで気が付かなかったのだから。
何か聞きたそうなクーディを制して、ユーリが壊れた窓から外を眺める。
しばらくすると、街の中心近くからも赤い色が見えた。そちらでも火事が起こっているのかもしれない。
それを確認したユーリは改めてクーディに向き直る。そしてようやく何が起きたのかを話し始めた。
クーディは十一人の襲撃と聞いて、更に驚きの表情となる。
だが目に入るのは縛られた四人と、ユーリの指示で仲間が片付けに行った二人しか知らない。他の者はどうなったかと尋ねた。
ユーリは肩を竦めて片側の二段ベッドの上段を指差す。覗こうとするクーディに「見るなら覚悟しとけよ」と声を掛けながら。
それを聞いたクーディは少し躊躇いながらも、備え付けの梯子に足を掛けて上段ベッドを覗き込んだ。
そして即座に目を背けて降りてくる。
見たのは一瞬でしかないが、それでも十分だ。頭が潰れた者が幾人かと切り離された四肢、そして虫の息ながらも生きている二体の「何か」。
えずきそうになる気持ちを抑えてクーディはユーリに問いかける。
「あれは何なんだ」
「仲間やボスを聞き出そうとしただけさ。あの二人の様子を見たら残った四人は素直に話してくれたよ」
クーディは化け物を見るような目をしてから、ユーリから目を逸らす。
改めて、いや初めて心の底から恐ろしい連中だと感じたのだ。
彼等は敵対した者には容赦はしない。殺して楽にしてやるつもりすらない。
上段ベッドに転がる二人は絶対に助からない。後悔しながら苦しみながら、ゆるゆると死にゆくのを待つのだ。
「なら……他の三人はアジトに向かったのか」
「火種はきちんと始末しないと燃え広がる恐れがあるしな」
「こいつ等は何だったんだ」
「どこかの盗賊だろうさ」
そこでクーディはユーリの背後、壊れた窓から見える街の様子に気付いた。
暗闇に赤い色が二つ灯っている。一つは街の中心近く、もう一つは貴族街に近い富裕な平民の住む所のようだ。
恐る恐るユーリに訊ねる。
「火事が起きているようだが……」
「降りかかった火の粉を払ったら、火の元に戻ったんじゃないかな」
それを聞いたクーディはもう何も聞けなかった。
たぶん、ただの盗賊じゃない。十人を越える襲撃者なのだ。街の誰か、恐らく異国の品を欲した商人辺りが襲おうとしたのだ。
少し経ってクーディの仲間の一人が、襲撃者の仲間二人の始末と宿の主人への連絡を終えて戻ってきた。宿の主人も連れて来ている。
ユーリは宿の主人に頭を下げて、用意していた布袋を差し出す。
「申し訳ありません。部屋を一つ駄目にしてしまいました。これはお詫びと修繕費としてお受け取りください」
宿の主人はその言葉に驚いたようでクーディに目を向ける。
クーディが肯くのを見て宿の主人は布袋を覗きこんだ。中には金貨が詰まっている。どう見積もっても四千エノツはある。宿の全ての部屋の窓と扉とベッドを新調出来る。この部屋どころか全部屋の内装を取り換えても、十分なお釣りが出るだろう。
さすがに宿の主人もこんなに要らないと返そうとするが、ユーリはそのまま押し付けて言った。
「この件にクーディ達は無関係です。今後も彼等の宿泊は許してやって下さい。一旬の契約でしたが、我々は朝に出立します。前払い分の残りはクーディ達に回して下さい」




