72.手早く済ませよう
彼等は昨日と同じ見張り順で休む事とした。
エイティが見張りを始めて一刻くらいだろうか。何かを探知したエイティが三人をそっと起こした。
起こされた三人は何も言わずに装備を身に着ける。そして荷物を中心に置いて、窓と扉の方に注意を向けた。
窓の方はドーリが前に立ちゴローが弓を構える。扉の方はユーリが盾をかざしてエイティが後ろに立つ。ベッドの間の狭い空間に一列で控えていた。
「明日と安心させておいて、今晩中にってか」
「いや、合わせても十人くらいしか居ないのだがな」
「ゴロー、相手はどの程度と思う?」
「んー、クーディ達レベルかなあ。甘く見られてる気がするねえ」
「ったく別口かよ。異国の品を狙った盗賊ってとこか」
領主ならギルド長から、彼等が高ランク冒険者である事は聞いているだろう。
それこそ最精鋭でもないと少人数で彼等を倒せない事は分かっている筈だ。
ならば彼等の実力を知らない者達に違いない。
エイティによると、宿の屋根に三人と向かいの屋根に弓持ち二人、一階入口前に六人ほどが居るらしい。
突然、窓が蹴破られて一人の男が侵入してくる。
だがドーリの振るったハンマーに頭を潰されてベッドの上を跳ねていった。
本来は窓が壊れた音に驚いた者に、剣を向けて脅すつもりだったのだろう。だが音が全くしなかった事にその男は気付けたのだろうか。
二人目が窓から入ってくる前に、ゴローが矢を放つ。
向かいの屋根に居た一人が、喉を掻き毟りながら落ちていくのが目に入った。
屋根に居たもう一人が慌てたように矢を放った。しかしドーリの盾に遮られているのを見た瞬間、何かが目の前にあるのに気付く。それが矢であることを知る事も無く、目から脳まで貫かれて屋根から滑り落ちていった。
背後で起こっている事に気付かず、残りの男達が窓から入り込んでくる。だがドーリのハンマーで順に頭を潰されていった。
窓が蹴破られるのに少し遅れて、扉が開き二人の男が転がり込む。
閂が掛けられた扉を、全力で肩から打ち破るつもりだったのだろう。だが閂はされておらず体勢が崩れたのだ。扉が壊れる音もしていない。
ユーリが短槍を横に薙ぐように振るう。二人の男は膝に受けた傷のせいで起き上がれないようだった。
背後にいた別の四人の男は部屋に乗り込もうとしたが、目の前で倒れたままの仲間に阻まれ入っていけない。
エイティがすっと彼等に指鉄砲を向ける。途端にその四人は身体中の力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。先に倒れていた二人も動けないようだ。
「こっちは全員始末したぜ」
「窓側の連中は仕方がないよねえ」
「こちら側の六人から話を聞けば良いと思うよ」
「窓付近も扉付近も一応は音を消したが、いつ人が来るかも分からない。手早く済ませよう」
ドーリが窓からの侵入者三体の遺体を、片側の二段ベッドの上段に放り投げていく。ゴローとユーリは壊れた扉付近で倒れている六人の侵入者を、二段ベッドの下段に押し込んでいった。
侵入者の武具は全て奪い、エイティがもう一方の二段ベッドの上段に投げ上げていった。
下段に押し込んだ内の一人を引きずり出して、ベッドの間の空間に立たせる。後ろ手に縛った状態で。麻痺状態は解除されているようだ。
ユーリが短槍を携えたまま前に立ち、エイティとゴローがその背後に立つ。ドーリはエイティから受け取った短剣を残りの捕虜に向けていた。
そしてユーリが口を開く。
「それでお前等は何だ」
「うるせえ。俺達にこんな真似してただで済むと思ってんのか」
「聞かれたことだけ答えろ」
そう言ってユーリは短槍を突き出した。
何らかのスキルが乗っていたのだろう。口汚く喚いた男の左膝から先が勝手に倒れていった。
一瞬何が起こったのか分からない様子の男だった。だが、ゴンという音と共に自分の真下に落ちた物に目を向けて、それが何か気付く。と同時に激痛と共に自身の体も倒れていく。その男は大声で叫んだ。
「あああ。脚が。お、俺の脚があああ」
「黙れ。聞かれたことだけ答えろ」
ユーリは再び倒れた男に短槍を繰り出す。
右膝から先も千切れたように、その場に転がっていった。
男は再び絶叫しかけるが、ユーリの目を見てその声を途切らせていく。
「さっさと答えろ」
「な、何を」
「人の質問を聞いてなかったのか」
男は急に自分の右手が動く事に気付いた。だがなぜか重く感じた。
恐る恐る目を向けると左肘の先が見えない。右手首には縛られた感触は残っている。ユーリの短槍が動くのすら見えなかったのに。
男は再び悲鳴を上げた。
「もういい」
男は右腕の感覚がなくなると同時に強烈な痛みを感じる。
悲鳴を上げようとするが、なぜか顔面の下部からも痛みが襲う。そのため悲鳴も上げられないのだ。
ユーリはその男の胸倉を掴むとベッドの上段に投げる。そこには窓から侵入して頭を潰された男たちが転がっていた。
続けて床に転がる腕や脚も同様に放り投げていった。
その男は運良く、いや悪くだろうか仰向けの状態だった。続いて振ってくる己の体の一部が見えた。
横を向くと頭がぐしゃぐしゃで、誰かすら判別出来ない仲間だった男達が目に入る。悲鳴を上げようとするが、アーとかウーとしか言えない。
ベッドの下段に身体が麻痺状態のまま、それを見ていた男達は青ざめていた。
尋問されていた男の四肢が無くなっていくのを、最後には下顎も砕かれているのも見ていたのだ。
短槍の男、いやその仲間達にとっても、もうあの男は生きていても死んだ者と同じ扱いなのだ。止めを刺して楽にしてやる気すらないのだ。
ドーリがその内の一人を引っ張り出す。後ろ手に縛り前の男と同じ位置に立たせる。
そしてユーリが問いかける。
「お前等は何だ」
「た、ただの盗賊だ。異国人だと思って襲うとしたんだ。本当だ」
「ネガティブ」
「ネガティブ」
ユーリがそれを聞いて短槍を薙いだ。
尋問されていた男の両膝が切断され、悲鳴を上げながらうつ伏せに倒れる。
ユーリは男の身体を蹴り上げて仰向けにすると、再び訊ねる
「お前等は何だ」
悲鳴を上げていた男がユーリの目を見て黙る。
そしてどう言い訳をすればと考えていて気付いた。あれだけの悲鳴を上げているのに誰も来ないことに。
別の部屋にクーディ達が泊まっているのは分かっている。なぜ彼等は来ないのだ。宿の主人もやってこない。
そして扉を破壊した音や、窓を壊した音すら聞こえなかった事を思い出す。そしてフードの男が指を向けただけで自分達が動けなくなった事も。
あのフードの男は魔法士だ。しかも室内の音を遮断する腕を持つ魔法士だ。
短槍の男も凄腕だ。
槍は斬る武器では無い。突き刺す武器なのだ。そんな武器で己の両膝をまとめて斬ったのだ。叩き切ったのではない、斬り裂いたのだ。
「わ、分かった。正直に話す。た、助けてくれ」
「何を勘違いしている。条件を付けられる立場だと思っているのか」
ユーリは短槍を繰り出した。
男は両腕から熱さと激痛を感じて叫び声を上げた。だが次の瞬間には声を上げられなくなる。前の男と同様に下顎が砕かれたのだ。
ユーリは先と同様に男自身と、その男の転がった身体の部分を二段ベッドの上段に放り上げた。




