71.早かったな
クーディ達との話を終えると、ギルド長は改めてユーリ達に向き直る。
少し躊躇ってからユーリに話しかけた。
「それで君達に頼みがあるのだが……明日領主に会って貰えないだろうか」
「は? 何を言ってるんですか?」
「どうもラゴギョノテ三匹を倒せる冒険者に会ってみたいと仰られて」
「分かってますか? 我々は異国人ですよ。この国の常識も知りませんよ」
「ああ、その辺は問わないと言う事だそうだ」
「……我々は家臣でも領民でもない。それも分かってますか」
ユーリの言葉は半分脅しである。無理に従えようとしたり、馬鹿な事を言われたら反抗すると言っているのだ。
噂に聞く限り領主は賢侯だ。だが周りに居る者達が全て同じだとは限らない。勘違いした馬鹿が権力を振りかざすのは異世界物ではお約束だ。
ギルド長は即座に答えられなかった。
「申し訳ないですが、お断りさせて頂きましょう。武具を預ける気もありません。さすがに武装した異国人が謁見と言う訳にはいかないでしょう」
彼等にとっては貴族や権力者に会うのは最後なのだ。それは世界の敵として姿を現す時だ。
街での情報収集の結果、王族や貴族のみが何かを知っていそうだと結論が出た場合に取るべき手段だ。
見ず知らずの異国人の平民の冒険者に、全てを包み隠さずに話す貴族が居る筈も無い。それが賢侯と呼ばれている者でもだ。
彼等が取る手段は褒められる物では無いだろう。領主の館に忍び込んで資料を漁る。領主を拷問するか、人質を取って脅す。どう見てもテロリストだ。
そして彼等はその行為を忌避するつもりは全く無いのだ。
「待ってくれ。全ての責任は私と領主で取る。何をしても君達に責任は問うことはない」
「分かりませんね。なぜそこまでして会いたいと。我々には目的があります。取り込まれるつもりはありませんよ。放っておけば何もせずに消えていく迷い人で済むでしょうに」
ユーリには疑問だった。
なぜそこまでして彼等に会いたいと思うのか。
確かに彼等は強力な冒険者だろう。だがこの国に属している訳では無い。何をしたところで言う事を聞かせられる筈が無いのだ。
彼等は実際にはこの街で情報が手に入るとは思っていなかった。たぶん王都か副都と呼ばれる場所でなければ、有益な情報は無いだろうと推測していた。
ネカハの村の転移転生者の件も、エルイの住むバワの街では手がかり程度の情報が関の山だ。詳しい足跡はやはり王都にでも行かないと分からなかっただろう。さすがに五十年近く前ともなると今更向かっても無駄だろうが。
だから領主に関わるつもりなど更々無かったのだ。
「事情があるが言えん。領主が話してくれるだろう」
「言っておきますよ。武具を手放せとか、跪けとか言われたら即刻帰ります。剣を向けられたら、その相手は確実に潰します。それでも良いんですね」
「……ああ、構わん」
それを聞いてユーリは今までの会話内容を三人に翻訳する。
三人も首を捻るだけだ。なぜそうまでして会いたいのかと。
彼等を危険と見て処分したいのなら、わざわざ招く必要も無いだろう。
もしかして武装解除を拒んだら、テロリスト扱いで倒す算段かも知れない。だがリスクが高すぎる。領主の館の前でそんな事をして彼等が抵抗したなら、被害は貴族街全体に及ぶ可能性が高い。
館に入ってからの不意打ちだと、領主や家族に被害が出る可能性もある。
宿屋に押し入って街に被害を出したくないだけかも知れないが、貴族街に被害があれば意味が無いのだ。
ギルド長の最後の言葉の前のほんの少しの躊躇いに、ああ確実に死人が出るなと四人は思っていた。
クーディ達はその話を聞いていて愕然としていた。
領主が一介の冒険者に会いたい?
それに領主は良い御方だが、組下の貴族の中には馬鹿な者も居る。絶対に絡んでくる。彼等はその相手を討つと宣言しているのだ。
それでも構わないとギルド長が断言している。有り得る話ではない。
さすがに不味い事態だと思ったのか、クーディがギルド長に訊ねた
「ならば明日は彼等の案内と護衛は無しですよね」
「いや続けてもらう。……逃げるならこの領、この国から去るつもりでやれよ」
逃げたら追っ手を差し向ける。国外逃亡しか手段が無いと言っているのだ。
クーディ達は肩を落とした。
その後ユーリはギルド長に彼等のような者の事を尋ねた。
最近訪れた言葉も分からない者、変わった出で立ちや容姿の者、そんな者が来た事があるかを。
異国人とは限らない。エイティ以外の三人は、この国の民と言っても問題ない容姿なのだから。
ギルド長も副長も知らないようだった。エイティとゴローに確認を取ると嘘は吐いていないらしい。
情報屋については尋ねる事はしなかった。商人組合の時点で近隣の街を探っても無駄な事は分かっていたからだ。特殊魔法に関しては、それこそ王都の魔法大学か研究所のような場所を当たらなければ無理だろう。
正直な所、彼等はこの街に残る必要は感じられないのだ。
明日にでも王都か副都にでも出立したいのだ。
だが明日の謁見だけは受けるつもりだった。問題を起こしそうな事を承知で会いたいと言っているのだ。用件も気になるし、無視するのも面倒事になりそうだ。
明日の朝三刻にギルド長自らが宿に迎えに行くといって話は終わった。
ギルド長はクーディ達に残るように言って、ユーリ達四人は先に部屋を出た。
今日の彼等の動きの報告を求めるのだろう。
少し経ってクーディ達は疲れ果てた様子で降りてきた。原因は間違いなく明日の謁見の話だろう。
明日もクーディ達は三人揃っての護衛にするしかあるまい。
ギルド長も降りてきている。またすぐに領主の屋敷に向かうのだ。明日なるべく人死にを出さない為に、報告と連絡と相談に行くのだろう。
ギルド長とクーディ達の様子に気付いた彼等は真っ直ぐ宿に戻る事にした。この後に酒場で情報収集を考えていたが、今夜は付き合わせるのも忍びない。
それに明日に向けての相談も必要だ。
宿に戻った彼等は主人に軽い挨拶を行うと、すぐに階段を上り部屋に入った。
クーディ達は気疲れのためか早々に休むようだ。
ユーリ達は相談と言う名目で、逃げ出す算段を話し合っていた。どちらにせよ、この街に居られなくなると考えているからだ。
「早かったな。やはりギルドに顔を出すと上に筒抜けか」
「ろくにスキルも見せてないのにねえ」
「取り込みかな。あんな条件飲むのなら排除じゃないと思うけど」
「どうだかな。館の前に領兵が数百人出張ってるかもしれねえぞ」
「エイティには城門壊すためのSPは残しておいて欲しいしさあ。僕等が頑張らないと駄目だろうねえ」
「どちらにしろ明日この街を出立だな。次も良い領主が派遣される事を祈ろう」
「……やっぱりお前黒いわ」
エイティの中では現領主一家が明日いなくなる事は決定事項のようだ。
排除にしろ、取り込みを拒否して襲われるにしろ、首謀者である領主を許すつもりは無いのだろう。
他の三人も否定はしない。結局は同じ考えなのだ。




