69.街中で狩りはしませんよ
そして声を掛けてきた男はクーディ達が一緒に居る事に気付く。
彼等は一流のベテラン冒険者という訳では無い。だがその性格からも顔が広く信用している者も多い。
それに便利な存在だった。武に偏ってもなく、文に偏ってもいない。依頼の意味をしっかり理解して達成出来る。中堅と言えるレベルなのに簡単な採取依頼でも引き受ける。将来は商人組合の専属として雇いたいくらいだ。
そんな彼等が一緒に連れて来たのだ。
「お話など出来るだけで光栄ですから」
「済まないが情報を売る気も無いのでな」
「いえいえ、この街のことをお話したいだけなので」
このまま逃がしては問題だ。
近隣の街から彼等のような者達の報告は来ていない。どうやってこの国に来たのか別の街に行ってから伝えられたり商売でもされれば。
この街の商人は何をしていたのかと馬鹿にされるだろう。
男は必死にユーリを勧誘し続けていた。
ユーリは他の三人に相談する。
エイティが肯くのを見て「なら休憩だけだ」と男に答えた。
男はそれを聞いてホッとしたようだ。
それでいながらエイティが決定権を持っていそうなことを確認していた。
この黒髪の男は冒険者パーティの一員ではない。リーダー格に違いない。
彼等四人とクーディ達三人は男の後に続いて商人組合に入る。
今度は門衛達も止める様子は無い。
ユーリ達は周りの様子を窺った。
ギルドのように幾つもの受付が並んでいる。そこに並ぶほとんどの商人らしき者は胸を撫で下ろしていた。だが一部にギラギラした目でこちらを見ている者もいるようだった。
男に案内されて彼等一行は二階にある応接室に入った。
高級そうなソファが置いてある。ギルド長の部屋にあったのと大違いだ。
男は彼等に座るように薦めると、お茶を用意させるためか出て行った。
ユーリ達四人は座り込むが、クーディ達はソファの背後で立ったままだった。
ギルド長の依頼通り彼等四人の案内と「護衛」のつもりだからだ。高級なソファに座ることに気が引けたのではないだろう。
しばらくして男は戻ってきた。もう一人別の女性と共に。
男と女性は八人分のお茶と軽く摘まむ物を運んできたようだ。男はクーディ達がソファの背後で立っているのに驚いているようだった。
女性はソファに座るユーリ達の前にお茶を配っている。やはりハーブティーのようだ。やはり茶葉はまだ伝わっていないのだろう。
男は対面のソファの前にお茶を置きながら、クーディ達に声を掛けた。
「あなた方も座ってください。お茶を用意しましたから」
「いえ、我々はギルド長に依頼された護衛です。気を使う必要はありません」
男はその言葉にギクッとしたようだが、態度には出さずに「そうですか」とだけ告げた。
彼等四人がギルドに寄った事は報告に受けていた。だがギルド長が直々に依頼した護衛とは。この四人の事は領主にまで伝わっているのかもしれない。
下手なちょっかいは身を滅ぼす事になる。いくら商人組合に力があるといっても、領主が本気になれば蟷螂の斧であろう。
男は彼等四人の対面に座る。女性は男の背後に立ったままだ。
「私はこの商人組合の代表をしているトネリと言います。彼女は私の秘書のような仕事をしています」
「そうですか」
ユーリはそう答えた後は黙ったままだ。
他の三人も興味無さげにお茶を口に運んでいる。毒の心配はしてないようだ。
後ろに立つクーディ達は呆れたような顔をしていた。
男は焦れた様にユーリに話し掛ける。
「お名前をうかがっても」
「あなたは喫茶店で店員にわざわざ名乗りますか」
男は一瞬むっとしたようだ。
自分は名乗ったのだ。しかも商人組合の代表という立場は、ギルドの長と並んで街の重要人物と言って良い。領主への面会権すらあるのだ。
だがそれを表に出す事はせずに話し続ける。
「これは手厳しい。そうでしたね。まずは非礼をお詫びします。あの者達は馘首にいたします」
「いや、彼等は自分の職務を忠実に行っただけです。ただ相手を見る目を養わせた方が良いでしょうけどね」
ユーリはそこでようやく笑って告げた。
本気で怒ってた訳ではないのだ。
ただ初めから下に見られる訳にはいかない。上に立つか少なくとも対等の立場でなければ、相手にする事は出来ないのだ。
トネリと名乗った男もようやくそれに気付いたようだ。
だが喜べる事ではない。普通に入れて用件を聞いていれば、こちらの方が上に立てたはずだ。少なくとも対等な立場で居られた筈だった。
だが今となっては遅い。
「私はユーリと言います。仲間は順にエイティ、ドーリ、ゴローです。クーディ達の紹介は不要ですね。残念ながらこの国の言葉は私しか分かりません。通訳の為に話が途切れるかもしれませんが勘弁願います」
先程までとは異なり丁寧な言葉遣いであった。
少なくとも上から抑え付けるつもりはないようだとトネリは感じていた。
ならば話は出来るだろう。
「ご出身は南方ですか」
「ここには休憩に来ただけです。情報の安売りをする気はありませんよ」
彼等四人の用は既に終わっていたのだ。
門衛の様子から直近に彼等のような見知らぬ異国人が来ていない事も、慌てて追って来たトネリの様子から近隣の街にも居ない事も、それらが推測できたのだ。
今ここに居るのは、敵対する気が無いことを伝えるためだけでしかない。
ユーリはかわすように答えていた。
トネリもやっと理解したのだ。
彼等を冒険者と見るのが間違いだったと。同等以上の商人を相手にする気でなければいけないことに。
そして相手が商人だと思うと肩の力が抜けた。普段通りの対応をすれば良いのだから。探りを入れたければ直接的な言葉を使ってはいけないのだ。
「ふふふ。改めてお詫びします。冒険者に対する態度で接した事を」
「我々のところではハンター、狩人と呼ばれてますよ」
「狩人ですか。さぞ商人は美味しい獲物に見えるのでしょうね」
「街中で狩りはしませんよ。相手が『人間』である限りはね」
「ならば誠意を込めたお付き合いをするしかないですね」
トネリは簡単に情報を出されたことに満足する。それが単に冒険者の呼び方の違いだけであっても。
そして改めて警戒も必要だと感じる。彼等が「人間」扱いしないのはどんな相手だろうか。
「ところで商人組合にどのような用件で」
「いえ、もう用はなくなりましたよ。我々が欲しい物は手に入らなそうなので」
「それは残念です。ですが、もっと探した方が良いかもしれないですよ」
「その時はギルドに依頼でも出しますよ」
トネリは諦めきれない。
たぶん彼等が欲するのは情報なのだろう。この領都なら物品であれば大抵のものは入手可能なのだ。
自分達はミスを犯したのだ。彼等を単なる冒険者だと考えてしまった。
こうして話していれば分かる。高度な教育を受けたであろう事が。南方の貴重な品を持っていても投げ売りするような事はないだろう。




