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63.美人局とかねえ

「クーディさん。持っていて下さい。我々は物価も分かりません」

「いや、それは」

「どうせしばらく一緒に行動するのですから」

「……分かった。預かっておくだけだぞ」


 その様子にギルド長は半ば安心、半ば残念な気持ちになった。

 クーディ達は冒険者にしては信用できる者たちだ。先の報告でも三匹とも自分達の手柄でない事を包み隠さず話していた。正直すぎるのだ。

 ただそのお陰か、ユーリ達もクーディ達の事を信用しているらしい。

 残念なのは直接受け取らなかった事だ。報酬と言う名目でも受け取ってしまえば、それはしがらみとなる。貸しとまでは言えないが恩には思うだろう。

 明確な拒否では無い。だがクーディに対価代わりに何かを差し出すことで、貸し借り無しとする気だろう。


 そして話を終えたクーディ達とユーリ達は退出した。

 さすがにこの時間は忙しいのだろう。長々と情報収集できる雰囲気ではない。

 一階ではいまだに冒険者たちが並んでいた。

 クーディによるとこの季節のピークは、二ランク以下の冒険者たちの夕一刻と、それ以上のランクの者達による夕二刻に分かれているらしい。

 今並んでいるのは夕二刻の組だった。


 ランクについて尋ねると、二ランクまでは見習い、三ランク以上で冒険者を名乗れるそうだ。

 二ランクまでは農繁期は外の村に行く事もあるが、基本は街内作業らしい。子守りや清掃、荷運びや農作業など必要だが難しくない仕事だ。

 ユーリが「冒険者の仕事ではなかろう」と訊くと、若年者登録のあるギルドでは十五歳未満は二ランクまでしか上がれないそうだ。どんなに腕が立ってもだ。

 若年者登録の無い街ではそもそも十五歳までは登録すら出来ない。この辺りでは周辺国も含めて同じような制度を取っているらしい。

 三男坊や孤児を集めるこの街では、若い者が飢える事無く暮らすための救済措置を兼ねている。そして未成年の内に死ぬ事が無いようにと。

 この世界では十歳やそこらの転生者による俺TUEEEEは出来ないようだ。


 クーディ達は四ランクに上がったばかりだそうだ。中堅と言われるランクで、普通のランクアップ速度のようだ。五ランクでベテラン、六ランクだと英雄とも称されるレベルらしい。

 十年以内に五ランクになれればな、とクーディは言っていた。


 異世界物のように細分化されてはいないようだ。

 アルファベットを使わずに数字で、しかも上のランクの方が値が大きくなっている。

 当然だ。言語が変われば文字も異なるだろう。他国でも分かるようにするには、数字を使う方が便利な筈だ。

 イ級、ロ級、ハ級とか甲乙丙丁などと区別されていたら日本人でも戸惑うに違いない。外国人なら尚更だ。

 アルファベットを用いて、しかも下限がZならばともかく、半端にFやGから始めるなど意味が分からない。更にAの上がS? どんな並びの基準なのだ。

 まさか地球出身の転移転生者が理解し易いように区分けしているのだろうか。


 ただ零ランクがあるのは驚きだ。この世界は既にゼロの発見が行われている。

 自分達は五くらいか、いやエイティの魔術やドーリとゴローの範囲攻撃、自分の治癒も考えると六かなとユーリは考えていた。六以上は無いそうなので、良くある異世界物だとSSS+++とかになるのかもねと。


 ギルドカードは存在するようだ。

 もちろん個人識別が可能な訳では無いし、各人のステータスが表示される事も無い。偽造防止の魔法も掛かってなければ、読み取り機がある事も無い。

 鉄板に名前とランク、識別用の記号が刻印されただけの物らしい。ドッグタグ、認識票のような物だろう。

 ランクが上がっても銀製や金製になる事も無いそうだ。当然だ。金銀銅のような柔らかい貴金属を使う筈があるまい。


 もちろん冒険者が個人で口座を持てる事も無い。

 近代的な銀行がある訳では無い。為替業務を一個人の為に行う筈も無い。そんな物は大金を扱う商人や貴族にしか適用されない。

 冒険者や農民、平民にどんな信用があるというのだ。


 とりあえずは宿の手配だが、クーディ達が自分達と一緒の宿でどうかと提案してきた。別に構わないとユーリが答えると、クーディもほっとした様に歩き出す。

 さすがに宿を取るには遅すぎる時間だ。連れ込み宿ならともかく、夜になってから急に宿を取る客など怪しい者だと自己紹介してるようなものだ。


 夕食は屋台で適当に買って、歩きながらと言う事になった。

 塩を薄く振っただけの串焼肉だ。

 ユーリ達四人の口には合わない。薄味というより、何の味付けもしてない肉を焼いただけのように感じる。

 普通の料理屋での食事でないため、街全体の味付けが同じとは限らない。だがクーディ達が普通に買っている屋台の味がこれなら期待は持てないだろう。

 この街ではこの先もこんな食事になるのか、と四人は肩を落としていた。


 ギルドと街に入ってきた時の城門の中間辺り、裏通りを三本ほど渡った先に宿屋があった。素泊まりの宿屋のようだ。クーディ達は四人部屋を借りて三人で泊まっているそうだ。

 空き部屋もあり四人部屋を一旬の契約で借りる事とした。

 もう日が落ちている時間だが、クーディ達は信用されているのだろう。宿の主人も時間外の一見客を受け入れてくれるようだ。

 クーディ達はしきりに「安宿ですまない」と謝っていたが、それは宿の主人の前で言うべきことでは無いだろう。

 「安宿で悪かったな! お前等いつ出てっても良いんだぞ!」と宿の主人に怒鳴られて、平身低頭謝っていたのには「正直なのにも程があるだろう」とユーリは苦笑していた。


 クーディ達が翌朝近所の飯屋が開く頃に迎えに来る事を確認して、彼等四人は階段を昇って割り当てられた部屋に入った。

 荷物を降ろして一息吐いた所で、ユーリが今までの会話の内容を伝えた。


「へえ。なかなか上手く対応したんじゃねえか」

「ああ。借りも作らず、無料の案内人付きだしな」

「一応現地の貨幣も手に入ったしねえ」

「そう言って貰えると嬉しいね。まあ、相手の言動には全て裏がある、と考えての対応は出来たと思うよ」

「TRPGの経験も全くの無駄じゃねえってこったな」

「井上のシナリオに出てくるNPCは真っ黒な奴ばかりだったからな。宿の主人が怪しげな行動をしていたのに事件と全く関係ないとかな」

「ヒロインの女の子が黒幕かと思わせて、美人局とかねえ。裏の裏まで読まなきゃならなかったしさあ。井上に感謝する気は起きないけどねえ」


 どうやらゲーム仲間の井上と言う男は、相当根性が曲がっていたようだ。

 彼等はひとしきり井上への愚痴を零してから、明日以降の相談を始めた。


「タルフニ村の転移転生者を追うのは……無理だろうな」

「あの時点で十五年前、さらに三十二年だからさあ。下手すると亡くなっているかもねえ。戻れていたとしても痕跡は残ってないよねえ。今も居るならほぼ五十年経っても戻れなかったか、戻るつもりが無かったって事だしさあ」

「やっぱ召喚魔法とか時空魔法とか調べるしかねえってか」

「エルイの話ではどちらも無さそうだと思うけど」

「エルイのような事情通の商人や、他国の軍人ですら知らなかった魔物隷属か使役の魔法が存在したんだ。特殊な魔法が皆無ではあるまい。転移転生者も他に居るかもしれないしな。結局やる事は変わらない。俺達みたいな者を探すか、特殊魔法を探すかだな」

「神様みたいな誰かさんは還してくれそうに無いからねえ」

「神様か。宗教関係は……調べても意味ねえか」

「本当に神様が実在しているなら、宗教なんて世界に一つだと思うしね」


 この世界には複数の宗教が存在していた。

 エルイからも一神教を信じる国では暦が異なると聞いたのだ。

 神が実在して姿を現しているなら、宗教はその神を崇める一つしかあるまい。


 異世界物で宗教が世界に一つしかなく、その宗教が大きな権威や権力を持っていたりする物がある。転移や転生を司った神を信じる宗教だ。

 そんな筈は無いのだ。

 神が実在している世界では、教皇も神主もカリフも、大司教や枢機卿や大僧正にも意味が無い。神の代行者など必要ないのだから。

 破門も異端認定も無意味だ。実在する神の宣告でない限り何の効力も無い。

 従って教会に媚びる必要がなくなる。そんな組織が権力を持てるだろうか。

 そもそも全知全能で完全なる存在である神が、なぜ世界を創造する必要があるのだ。己が一柱だけで完結できる存在が、そんな無意味な事をするだろうか。

 だから創造主では無く管理者、と描かれる異世界物も多いのだろう。


 話そのものはすぐに終わった。

 状況は大して変わっていないのだ。だからやる事も変わらない。ほとんど実りの無い相談になったのは仕方がない事だろう。

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