62.彼等の案内と護衛だ
そしてギルド長はユーリ達のほうに向き直って言った。
「それで君達が手助けをしたんだな。異国の迷い人という話だそうだが」
「ええ。かろうじて私だけ、この国の言葉が分かりますが」
「クスマナエの言葉が分かる者もいると聞いたが」
「流れ着いた冒険商人の孫なので。各々の祖父に習ったんですよ」
少し考えたギルド長は横に立っている副長に声を掛けた。
副長は四人に向かって話し掛けるが、四人には意味が分からない言葉だった。
彼等は設定上では十二ヶ国語が分かる筈だった。
井上が各言語の単語や文法まで設定しているとも思えない。なのに通じるのは、神の如き者が勝手に当て嵌めていると考えていたのだ。
副長が話すからには近隣諸国の言葉の筈だ。なのにそれを誰も理解できない。
もしかしたら井上設定に関係ないのかもしれない。神の如き者が、彼等の内の一人だけに言葉を理解できるようにしているのかもしれない。
続けて別の言葉で話し掛けられた。それにドーリが反応した。
「クスマナエの『王』の名前を言ってくれ」
「すまんが、聞き取れない。もう一度言ってくれ」
「『王』の名前だ」
「何の名前だと?」
「王の名前だ」
「王って言ってたのか。言葉を習ったのは祖父だ。現王の名など知らないな」
それを聞いた副長がギルド長に告げた。
「本当のようですな。南の国の言葉は理解できていない。クスマナエの言葉も王の単語だけを別の言葉に換えて尋ねてみましたが、そこだけは理解できないようでしたから」
「そうか。すまなかった。ギルドの長なんて疑うのが仕事みたいな物でな。そこの彼もフードを脱いで貰えないだろうか」
エイティはきょとんとしていたが、ユーリの翻訳を聞いてフードを下ろした。
その髪と眼の色を見てギルド長が溜息を吐いた。そしてユーリに告げる。
「別にこの街では隠す必要は無いぞ。聞いたかも知れんが、他領の三男坊や孤児なんかを引き取ってる街だ。異国人だからといって差別する事はしない」
その言葉の翻訳を聞いたエイティは、被り直そうとしたフードを下ろしたままにする。
ギルド長も副長もその様子を見て安堵したようだ。
どう見ても間諜や工作員ではないだろう。言葉も分からなければ、一目で異国人と分かる風貌も晒し続ける。演技なら相当な物だが、それでは意味が無い。
そもそも王都ならともかく魔の森に近いこんな辺境の街に、遠く離れた異国の者が何をスパイしに来ると言うのだ。
「クーディの話だとギルドに用があるって事だが何だ。登録でもするのか」
「私達は本来自分達が居た場所に帰りたいと思っています。ですが、どうすれば戻れるのか分かりません。この街でも情報を集めたいと思ってますが、他の街や王都まで行く必要があるかもしれません」
「その許可をくれと?」
「許可が欲しいとは言いません。我々は自由に動きます。挨拶に伺っただけです。さすがに領主に話を通すのは無理でしょう。だからギルドに来ただけです」
ユーリがあえてジパングではなく「本来自分達が居た場所」と言った事には気が付いていないようだ。
まあ、それがこの世界でない別の世界だと想像できる者も居ないだろうが。
ユーリの言葉にギルド長は険しい顔をする。
彼等は単に異国人であることを明らかにするために、街の者が不審に思わないように告げに来たのだ。しかもこの街で自由にすると言っているだけだ。
さすがに罪を犯すつもりは無いのだろう。だが異国の常識で動かれては、何が起こってもおかしくない。
確かにギルドは街に関して大きな権限を持っている。だがそれも無制限という訳では無いのだ。
もしかしたら上の方に、領主に伝えるべき案件かもしれない。
ラゴギョノテ三匹を倒せるなら五ランク、いや瞬殺の上に手加減までしたとなると六ランク以上のパーティかもしれない。そんな者達を自由にさせて良いのか、ギルドだけで判断出来る筈が無い。
拘束することも出来ない。別に犯罪者という訳では無い、それどころか危険な魔物の排除を手伝ってくれている。
ローブの男は剣を提げているのが見えるが、たぶん魔法士だ。五ランク以上のパーティに属する魔法士が、指先に火を灯す程度な筈も無い。
下手に手を出して敵対すると、どうなるか分からない。
一息吐いたギルド長はクーディの方に向き直る。
「お前たちに緊急依頼だ。内容は彼等の案内と護衛だ。期間はとりあえず一旬。日に六十エノツ出す。拒否は認めない」
その言葉にクーディ達は息を呑んだ。
そんな大事になるとは思っても居なかったのだ。手助けしてくれた凄腕の冒険者達に、依頼の誤りの補強をして貰うだけのつもりだったのだ。
恐る恐るクーディが問いかける。
「それは三人で付きっ切りでいろと」
「いや、二人ずつの日替わりで構わない。だが他の冒険者に代わったりする事は許さん。漏らす事もだ」
ローテーションを組めば三日に一日の休みが取れる。それに一旬で一人当たり二百エノツだ。破格とは言えないが十分高額だ。
彼等に護衛が必要だとも思えない。とどのつまり監視なのだろう。
二刻程度の付き合いだが悪い者とも思えない。助けてもらった恩もある。クーディは他の二人が肯くのを見て引き受ける事にした。
そしてギルド長は改めてユーリに向き直った。
頭を下げながら言葉を発する。
「すまない。君達を信用しない訳では無いが、放って置く事も出来ない。彼等は立派な冒険者だ。好きに使ってくれて構わない。一緒に居てやって欲しい」
「頭を上げてください。案内を付けてくれるなら幸いです。我々は只の迷子です。保護者が居てもおかしくないでしょう」
言いながらユーリは心の中で苦笑していた。
どれだけ恐れられてるのだと。
さすがにギルドの長だけの事はある。たぶん見抜いているのだろう。エイティが魔術師である事も、彼等の本質も。
彼等が目的のためには手段を選ばない連中である事をだ。
仮に拘束軟禁しようとでもすれば、彼等は建物ごと破壊して逃げ出すだろう。周りの被害も気にせずに、広範囲魔法を撃ち込んで。
その後に領主の館に押し入る事も厭わないだろう。領主を拷問して情報を聞き出す事すらやりかねない。
彼等は決して善人などでは無いのだ。
「とりあえず前提報酬分は渡しておく。明日か明後日までには追加分の交渉を行うから、明日の晩に一度確認に来てくれ。それと同額を別口で渡す。彼等四人の当面の費用だ」
そう言ってギルド長は副長から受け取った袋を二つ差し出した。
さすがにユーリもそこまでされるつもりも、借りを作る気も無い。
「不要です。多少なら売れる物もあります。換金出来る場所を教えて頂ければ」
「貸しにする気は無い。ラゴギョノテを倒した報酬だ。君達なら香辛料なんかを持っているかもしれん。だが、そんな物をばら撒かれる方が困るのだ」
ユーリは肩を竦めた。
南方の出と思われる事は想定済みだが、香辛料の所持まで考えているとは。エルイのような商人並みの嗅覚の持ち主だ。
少し考えてユーリは片方の袋をクーディに差し出した。




