42.四十八時間耐久両親お薦め前世紀映画鑑賞会ホラー編で見たあれ
エイティも三人に聞こえるように大声を上げる。
「俺は広範囲の探知を行う。だが少し時間が掛かる。次のグループへの初撃は無理だ。ゴロー頼む。そして後どれだけ居るのか不明だ。皆SPは控えてくれ」
エイティは状況把握を優先していた。
十匹の一団なら自分が抜けても何とかなるだろう。だがほぼ同時に別の二グループの存在が感知されたのだ。もっと遠い範囲、ゴローの察知範囲外に居る可能性もある。
もし他のグループも居るなら戦闘時のスキルポイント配分を気にする必要が出てくる。特に魔術師のエイティにとっては重要だ。
スキルポイント切れでの剣を使った近接戦闘も出来なくはない。だがそれはあくまで最低限の技術であり、その時は剣技スキルも使用できなくなっているのだ。
そしてよく知られているように音速は秒速約三百四十メートルだ。
三百メートル先の存在を音波で探知しようとすると、発信から相手までの一秒と相手からの反応が戻ってくるまでの一秒、計二秒近く必要だ。それに処理時間を加えると五秒近く掛かることになる。
五秒あれば短距離走者なら五十メートル、足が遅くても二十メートル離れた場所から走って来れる。目の前に居るなら数回攻撃も出来るだろう。
エイティの探知はそこまで時間が掛からない。光速レベルかもしれない。
しかし人間の脳内での処理時間はそれほど変わらないだろう。
ゴローが方角を示し察知範囲も分かっていれば数秒程度だ。しかし半径一キロ近い範囲を無差別に捜索をするなら十秒以上掛かるかもしれない。
「おーけー」
ゴローの少し気が抜けたような返事が聞こえた。だがその姿は弓を構えて万全の状態だった。
草原の境からメギョアが飛び出してくる。だが転がっている第一陣の死体に足を取られたのか三体ほどが並んだ状態だ。
そこにゴローの放つ矢が飛んでいく。範囲スキルを使用したのか一つの矢が分裂して三体全てに突き刺さっていく。
それを見たドーリが「ウオォォォ!!」と大声を上げる。
ユーリより遥かに強い挑発が乗った怒声だった。残った七匹が、ゴローの矢で倒れた三匹を踏みつけてドーリに襲い掛かる。他の者に向かわないのはユーリより本職だからだろう。
だがさすがに七匹も居ると背後に回り込もうとする者もいる。
それをシールドバッシュ、大盾の面で弾き飛ばして空間を作り、ハンマーで弾き返して前面に留めている。ある意味理想的なタンクの振る舞いだ。
そこにゴローが矢を撃ち込んでいった。一射毎に確実に一匹が倒れていく。
ユーリは後方で盾を構えているだけで何もしていない。いや、ネカハを守っているのだ。仕方あるまい。
残り三匹となった所にエイティの報告の声が聞こえた。
「三……いや既に二百五十メートル。メギョアが各十匹の二グループだけだ。互いに三十メートルほど離れている。他の反応は近場には無い」
ドーリはハンマーを振るいながら、ゴローは矢を放ちながら、ホッと一息入れる。そこにエイティも火の玉を撃ち込む。
もちろん残った三体は倒れ伏している。
エイティが再び声をかける。
「片方は五十メートルの位置で拘束する。十匹ずつのグループの各個撃破を二回だ。いけるな?」
ドーリとゴローが肯く。背後のユーリも肯いているようだ。
次のグループまで三十秒ほど時間が取れるだろう。
ユーリは矢を引き抜いて、使えそうな物は手元に残している。ドーリはまた死体を投げて防波堤を作っていた。
三十秒くらい経ったところでエイティが魔術を使用する。初日に海辺で行った範囲拘束を行っているのだ。さすがにスキルポイントを二割も使う絶対零度の魔術ではないだろうが。
拘束されていないグループのメギョア達が現れる。
既に倒された仲間の死体を気にもせずに乗り越えようとしている。そこにエイティの魔術とゴローの弓が襲い掛かり、前面の二匹が倒れる。
エイティはスキルポイント節約のためか単体攻撃だ。ゴローも同じく範囲攻撃を止めて単射を行っていた。
残った八体は挑発に掛かったのだろう。ドーリに襲い掛かる。
ドーリは軽く捌きながらも、後ろに通そうとはしない。
エイティの放つ火の玉、ゴローの急所を一撃する矢で一匹ずつ倒れていく。数が減ってくるとドーリのハンマーも加わる。それを繰り返すとメギョア達が全滅していた。
矢を回収し、死体を柵代わりに放り投げ、そして拘束を解除する。
その後の流れは先と変わらない。
最後のグループも全滅していた。
「俺達は後続が無いかを確認するため、ここでしばらく待機する。ドーリはネカハさんを連れて村に戻り、村長とエルイに報告を頼む」
エイティの指示にドーリは何か言いたそうにしていた。ユーリのタンク役はやはり心配なのだろう。
しかし言葉が分かるのは自分だけだ。諦めてネカハを連れて去っていった。
「メギョアだったか。俺達の考えるゴブリンと同じようなモノか。見たことのある姿な気もするのだが」
「あれじゃない? 四十八時間耐久両親お薦め前世紀映画鑑賞会ホラー編で見たあれ。あれに似てると思うんだけど」
「水に濡らしたり真夜中に餌を与えたらダメで、太陽光に弱い奴だよねえ」
エイティ達は自分達が倒した魔物を眺めながら話し合っていた。
かつて若気の至りで行った企画で鑑賞した、ホラー映画に出てきたモンスターを思い起こしているようだ。
彼等は今でも十分若者と言える年齢なのだが。
ホラー編と言うことはSF編やコメディ編など他にも色々行ったのだろう。
「だが、おかしいと思わないか。全く逃げようとする気配も無かったのは」
「だよねえ。いくら獣でも、獣だからこそ全く勝ち目が無いと分かれば逃げるだろうにさあ。全滅するまで闘うなんてねえ」
「しかも全グループが十体一組だった。いくらなんでも揃いすぎだろう」
「でもさ。獣じゃなくて魔物だよ。本能が違うんじゃない? 連携も取らずに各個撃破だったし、戦力の逐次投入って一番避けなきゃ駄目な事だと思うんだけど」
「そう言えばそうだな。そんな知恵は無いのか。なら全て偶然なのか」
「棍棒を扱えるような連中なのに、そこまで知能が低いのかねえ」
エイティはメギョア達の行動にも疑問を感じていたようだ。
ゲームなら敵対行動に走った相手は逃げることは無い。どちらがが全滅するまで戦い続けるだろう。
だが現実の世界では。
実際に盗賊団との戦いで逃げ出そうとした男がいた。盗賊団のアジトでも逃げようとした女がいた。結局どちらも逃がさなかったが。
獣や魔物もその可能性は高い。だが計四十匹の内逃げようとするメギョアは一匹もいなかったのだ。それが気になっているのだろう。
ゴローも同意見のようだが、ユーリは反論していた。
メギョア達が同一意志の元で襲ってきたのなら、纏まってくる筈だと。
四十匹で一斉に襲われたなら、もしくは背後は果樹園があったがそれでも三方向から同時に来られたら。彼等は倒せたとしても無傷では済まなかっただろう。
ドーリが前にエルイに告げていたではないか。数の暴力には敵わないと。
彼等はメギョアの生態を知らないのだ。
十匹一グループで行動するのも、各々のグループは独立していて連携しないのも、それが普通な事かもしれない。
彼等には判断できない。村長かエルイ、護衛達に確認するしかないのだ。
話し合いながらも時々エイティは探知魔術を発動していた。しかし、どうやら他の獣や魔物はいないようだった。




