41.もいっこ感!
ゴローが少し声を落として話しかける。
「エイティ。僕の指差す方向を探知して貰えるかなあ」
肯いたエイティが魔術を発動する。
フィルヴィの盗賊団の際にも使用した熱源と金属の探知魔術だった。危険時の探知として最も便利なのだろう。
少し経ってエイティが結果を報告する。
「ゴローの指す方向およそ三百メートルの位置。熱源は十、金属反応なし。五メートルくらいの範囲に密集。少しずつ近付いて来ている」
「見える範囲なら三百メートルも察知できるの? 凄いね。で、金属反応無しってことは獣なのかな」
「柵の上からでも目視出来ないのは、相手が草に隠れられる大きさだからだろうねえ。でも集団で狩りをする獣が密集なんてするのかねえ」
ゴローは柵から飛び降りて、同じように背負った弓を手にしながら目視出来ないことを告げた。
ユーリは背負っていた小楯と短槍を装着しつつ、ゴローの察知を褒めている。
ドーリも背負った大盾を構えながら、ネカハに問いかけた。
「この先に村の方は来られていますか。十人ほどの方ですが」
普通に立って歩いている村人が目視できない筈が無い。
腰まで伸びた雑草より身長の低い子供達が、あんな所に多数居る筈も無い。
それでも一応確認は取っておくべきだろう。
ネカハはまだ状況が分かっていないのかキョトンとした表情で答える。
「いえ? エルイさんがお店を開いてくれるんですよ。今日はお休みみたいなものです。子供達だって大喜びで待ってます。もちろん農作業に何人かは出てます。でも十人もの人が、まだ実りのない果樹園の外になんて行きませんよ」
その訳を聞いたエイティが指示を出す。
「果樹園の所まで下がる。ドーリはタンク……いや済まない、ユーリがタンクをしてくれ。俺とゴローで先制する。姿が見えたら即座に叩き込む。ドーリは果樹園ギリギリの所でネカハさんを守ってくれ」
その指示に従い全員が柵から十メートルほどの果樹園の縁まで後退する。
ドーリは大盾を据えて後ろにネカハを匿っている。ドーリしか言葉が分からないのだ。彼女の傍に居るべきだろう。エイティも普段のフォーメーションから指示を変更したのもそのためだ。
その五メートルくらい前にラウンドシールドを構えたユーリが立っている。
エイティとゴローは、ユーリとドーリの中間くらいだが各々左右に五メートルは離れている。ユーリの真後ろでは状況が見辛いし、直線的な攻撃魔法や矢ではフレンドリーファイヤの恐れがあるからだろう。
ドーリは背後のネカハに簡単な状況を話している。
ユーリは他の三人に注意を促した。
「んー。僕の挑発じゃ取り逃しが出るかも知れないから、その時はお願いね」
数分後、柵の端から人型の何かが姿を現した。
身長は一メートルにも満たない赤茶色の鱗の肌を持つ人型の何か。醜悪な顔とまるで羽のような大きな耳をしている。一糸纏わぬ姿だが生殖器らしき物は見当たらない。腕は地面に届くほど長く、木の棍棒や木の先を削っただけの槍などを構えていた。
それらの言葉なのかギイギイと口々に騒ぎ立てている。
「メギョアがあんなに!?」
ネカハが悲鳴を上げた。
その怯えた声から、どうやら敵性のモンスターで間違いないようだ。
そしてその瞬間、前面に立っていた四匹の腹に横一線に赤い線のような物が走っていく。そして内臓をぶちまけながら倒れていった。
その後ろにいた一匹は、目に突き立った矢によって脳が破壊されたのか蹲る様に膝を付いていた。
最後方でドーリの大盾に守られたネカハの目には、右手を指鉄砲の形にして左から右にサッと滑らせたエイティと、既に次の矢をつがえて構えたゴローの姿が写っていた。
半分削られたのを確認したユーリが「ウォォォ!」と大声を上げる。
その声には何かが宿っているのだろう、残った五匹のうちの四匹が惹き付けられた様にユーリに向かってくる。
一匹だけユーリを無視してエイティに向かって真っ直ぐ突っ込んで行った。
ユーリが叫ぶ。
「ごめん。一匹だけ挑発掛からなかったみたい。ドーリお願い」
「おう。こっちだ、来い!」
ドーリの怒声にエイティに向かっていた一匹が、急に方向を変えてドーリに向かって駆け出す。挑発に引っ掛かったのだろう。
それを見たエイティとゴローは、ユーリと一直線になるように駆け出した。
ユーリは左手の盾と右手の短槍で、メギョアと言う名の人型の魔物と思われる者の棍棒や槍の攻撃を捌いている。いくら彼等の知るゴブリン並みの低級の魔物でも、四匹もの攻撃を受けながらの反撃は出来ないようだ。
それでも四匹の攻撃を、たいした傷も受けず捌き続けるユーリはサブタンクとして優秀と言えるだろう。
ドーリは向かって来た一匹の棍棒を大盾で弾くと、ハンマーを横薙ぎする。頭が潰れたそれが数メートル転がっていった。既にピクリともしない。
エイティとゴローはユーリの真横から攻撃を行った。
エイティは指鉄砲の先から火の玉を発し、ゴローは矢を放つ。
二人の放った一撃で二匹が倒れる。残りは二匹しか居ない。
残り二匹ならユーリも攻撃が可能だ。一匹の胸の辺りに短槍を突き刺す。
盗賊、つまり人間ですら気にせずに倒せる彼等だ。魔物相手に躊躇することも無いようだった。
次の瞬間ゴローが森の方を向いた。何かを探るように見つめて声を上げる。
「感あり!」
エイティが無言で森の方に意識を向ける。しばらくして叫んだ。
「三百メートル先、同数。金属反応なし。同じ奴等だろう」
その時には既に残りの一匹もユーリによって止めを刺されていた。
ドーリはネカハにその場を動かないように促して、ユーリの傍に寄っていく。
ユーリの前で倒れている四匹を順に柵付近、初めに倒した五匹の所に集めている。二十キロはありそうなそれらを軽々と投げながら。
次に来る一団の障害物程度には役立つだろう。
そして三人に問いかける。
「連戦かよ。HPは問題ねえだろうがSPは大丈夫か? 俺は挑発だけなのでほぼフルだけどよ」
「僕も挑発だけだから問題ないと思うよ」
「僕も命中くらいだしねえ」
「俺がネックか。探知も二度四回使ったが、まだ八割は残っている。問題ない」
「同じ相手なら今のままで問題ねえな。頼むぜ、ユーリ」
そう言ってゴローはネカハの元に戻っていった。もう一団の襲来を伝えているのだろう。
残りの三人もフォーメーションを戻して、草原との境を見つめていた。
メギョアが数秒後に現れるかもといったタイミングでゴローが叫ぶ。
「別の感!」
「え!?」
ユーリとエイティが同時に驚きの声を上げた。もう一グループいるのかと。
しかし、その後再びゴローが叫ぶ。
「もいっこ感!」
ドーリはネカハへの話を切り上げて、ユーリの方に向かって駆けながら大声で呼びかけた。
「ユーリ、交代だ。俺がメインタンクを張る。彼女の護衛に廻ってくれ」
「了解」
ユーリは答えると、ドーリと入れ替わりにネカハの前で盾を構える。
ゴローの台詞はショートカットの可愛い嶺上使いしか言っちゃダメなんじゃないかなと心の中で突っ込みながら。




