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始業のフロンティア

 大勢の人ごみの中、俺は、その波にもまれるように、あっちへこっちへと、流されていた。

 大きな体育館のようなものの中には、大勢の人々が、ぎゅうぎゅう詰めになっていた。


「おい、これはマジでなんなんだよ!?」


 そう叫ぶが、その叫びは雑踏の中に消えてしまう。どうしてこうなったんだ。

  これもすべてアイリが悪い。というか、いきなりすぎるんだよ。どうして俺が、俺が、学校になんて行かなくちゃいけないんだ?





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 

 キースの一件から、一か月の時が経っていた。俺の傷はすっかりと癒え、今日も仕事に励んでいるのだった。


「貴族軍の国軍化はどうしましょう?」


 クラウザーと一緒に、俺は国の案件を次々に決めていく。国会で上がった議題などを中心に決定を下していた。


「あー、国の収支って今どうなってる?」


「さすがに、貴族軍を養うほどの資金はないですね。しかし、貴族の没落も始まっています。その貴族が持っていた軍が野盗化しているという案件も上がってきています」


「そうなんだよなぁ、マジでどうするか?」


「今のところはどうしようもないとしか言えませんね」


 あー、どうするかなぁ。問題だらけなんだよなぁ、今の国。外交関係は、グイン家の方に任せてるから、少しは楽になった。しかし、国の内情はいまだに、ぐちゃぐちゃだ。

 軍関係は、再編成の必要がある。今のところは、英雄という、協力なリーダーがいることによって、何とかなっているが。王国軍をしっかりと、編成しなくてはいけない。王国軍だけなら問題はない。しかし、そこに貴族の軍を入れるとなると、色々な問題が出てくる。


「今はとりあえず保留」


「では、野盗を放っておくと?」


「あーじゃあ、そいつらは開拓でもさせとけ」


「開拓? どういう事です?」


「俺の世界でいう、屯田兵とかいうやつだ。平時は、農業。戦時には兵として活躍させる」


 ここは、日本のように、土地が狭いわけではない。どこらかしこにも、土地が有り余ってる。だったら、そこを開拓して、農業をした方がいいだろう。この国の食糧自給率はあまり高い方ではないし、それに今は、人が余ってる状況だしな。


「それはいいですね。では、一応そのように議会に提出しておきます」


「ああ、任せた」


「では、次に、各種省庁についてです。今度会談があるので、記憶に留めておいてください。今回は顔合わせみたいなものなので、そこまで緊張しなくても大丈夫です」


「ああ、そんなのもあったな」


 この世界には、『議会』のほかに、省と庁と呼ばれるものがある。まぁ、ここらへんも日本と同じような感じだが。違うのは、議員から選ばれるのではなく、その役職にもっとも見合ったと思われる人間がつくという事だ。貴族だったり、平民だったり、どっかの商人だったりと、バリエーション豊かだ。『議会』が国民の意思だとすると、省庁は、国を強くする意思。あらゆる手段をもって、国を強くするための存在という事だ。まぁ、これは戦乱の世の中においては仕方ないと言えるな。


「色々あったせいで、ぐちゃぐちゃになってしまったけれど、会っておいて損はないと思います」


「あー、俺そういうの苦手なんだよなぁ」


 こういうごちゃごちゃしてるのはめんどいんだよな。もっと気持ちよく、人付き合いはしたいものだ。


「まぁ、これも大事なことの一つなので、頑張ってください」


「お前も、今は、一議員じゃないんだから、一緒に行こうぜ?」


 俺一人めんどくさいのはなんかむかつくので、こいつも巻き込みたい。俺だけ苦労するのは、なんかむかつく。


「すいません、私は、今や王の補佐という役割についていますが、そこまでの権利はないのです。一議員が、省庁のお偉方と話すのは無理があります」


 クソ、ああいえばこういう。どうやったら、こいつを巻き込むことができるのだ!?


「そして、王は一人で行かなくちゃいけないんです。伝統ですから」


 伝統と言われればしょうがないな。いや、しょうがないのか?


「なんか、伝統と言われれば納得できそうになるなぁ」


「ええ、伝統ですから」


 あー、もうこれ以上言っても無駄だろうな。俺は口がうまい方じゃないから言いくるめられてしまいそうだ。というか、何回も言いくるめられているしな、諦めは肝心だな。


「ああ、そういえば王よ」


「ん? なんじゃい?」


「学校の手続きしておきましたから」


「は?」


「え?」


 二人で、唖然となる。え? 何? 学校? 初耳なんですけど? というかこの世界学校あるの?


「えっと、剣聖の方から聞いてないんですか?」


「え? 聞いてないよ?」


「えっと、剣聖の方からは、王が、学校に行きたいから手続きしておいてくれと言われたんですが」


 おいおい、いや、色々学ばなくちゃいけないとは言ったけど。学校に行くなんて言ってないんだけど?


「もう、手続しちゃったで、頑張ってください。来週には、入学式があるので頑張ってください」


 そういって、そそくさと部屋から出ていってしまうクラウザー。


「おい! クラウザー! 待て! おーい!」


 いきなり学校なんて、どうしろってんだよ? えー友達できるか?





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「ほら、しっかりしてください」


「俺はお前を怨むからな」


「何のことだかわかりません」


 なぜか俺は、スーツっぽいものに身をまとったアイリに引き連れられ、体育館の隅っこの椅子に座らされていた。どうやら、学校の入学式は、保護者同伴じゃないといけないらしい。

 俺は子供か!? いや、まぁ高校生なんて子供かもしれないが、しかしこれはないだろう。なんで俺がアイリに連れられないといけないんだ? 別に一人でもいいじゃないか? これでは、公開処刑だ。


「次は、入学生代表、キリシス・オルトメア」


 壇上に上がっていく一人の少女、俺も今着ている、俺の世界でいうブレザーみたいなものをに身をまとい、二―ハイのようなものま着ている。なんかここだけ見てると、元の世界に戻った気分だ。やはり、いいとこの学校のようで、制服もしっかりしている。

 代表という事は、一番優秀な人間という事か。やはり眼鏡をかけているのは優秀なのか。眼鏡は素晴らしいインテリアイテムだな。


「まぁ、文句は後で言うとして、ここはどんななんだ?」


「やっと諦めたんですね」


「もう、ここまで来たらやるしかないだろう」


「マスターのそういうところは好きですよ」


「はいはい」


「この学校は、貴族や、軍属の子供が通ったりする総合学校です。一般教養から、専門知識までを学ぶことのできる、学校です」


 なんかすごい学校ってことか。まぁ、いいとこの坊ちゃんぽい奴ばっかだもんな。


「次に校長先生の話です」


 あー、この世界でも、校長先生の話は長いのか? それともなんか強そうなやつが出てきて、一言言って終わりなのか?


「ふひょーほほい」


 出てきたのは、腰の折れたよぼよぼのおじいちゃんだった。


「ほほほうあーひひょい」


 この学校大丈夫なのか? 俺は不安の感じ得ないぞ。というか、あれは確実に入れ歯が必要だろう。


「ふひょおあー」


 あれ? 教師陣が拍手しながら涙してるぞ!? これはどういう事だ? ひひょーが何か泣けることがあったのか? なんだ? この学校謎すぎるぞ?


「あれはなんなんだ?」


「私に聞かないでください」


 そりゃあそうか、あんなのが分かるあっち側の人間がおかしいんだよな。


「とりあえず、私はここで帰りますね。あとはクラス等の発表と、説明があるだけですから」


「おう、まぁ、付き合ってもらって悪いな」


「あれ? 怨んでるんじゃないですか?」


「別に、驚いただけさ。学校に行くこと自体に、文句はない。だがな、こういう事は一応先に説明してくれないか?」


「いや、マスターなら反対するかなぁと思いまして」


「そんなに俺は、勉強嫌いそうに見えるか?」


「ええ」


「はぁ、まぁいいや。とりあえず、今度からは相談してくれよ」


「はい、分かりました」


 そういって、体育館から出て行ってしまうアイリ。まぁ、アイリは有名人だし、色々と騒ぎになる前に、去りたかったのだろう。来る時も少し騒ぎになってたし。


「では、新入生は、移動してください」


 俺は、新入生の波に身をゆだねるようにして、移動していく。

 やっとの思いで、体育館を出ると、人ごみの中、ぽっかりと空いた空間があった。


「ちょっと、あれ何?」


「怖いんだけど」


 なんだ? なんか、すごいこと言われてるぞ? というか、怖いようなものがあるのか?

俺は、その空いた空間に目を向ける。


「なんだ? あれは」


 そこには、筋肉隆々の、男が一人と、おろおろとする一人の少女が居た。それだけ聞けば、普通に聞こえるかもしれない。しかし、その恰好がおかしかった。明らかにおかしいのだ。なぜなら、ブルマと、体育着みたいなものを着ていたのだ。


「だから言ったでしょーそれは運動用だって! しかも、それ多分女用だよ?」


「マジでか! だって、俺の家に届いたのはこれだけだったぞ?」


「だから、学校が間違えたんでしょ」


「おいおい、道理で、学校来るまでに、誰もこの格好してないと思ったぜ」


「普通、おかしいと思うでしょう」


「いやー動きやすかったからつい」


「そりゃあ動きやすいよ、運動用だし」


 なんだ? 本当に変な人間だな。あんなのは一緒のクラスにはなりたくないな。


「さて、俺のクラスは……G組か」


 俺は張り出されているクラス分けの紙を見る。

 どういう分け方なのだろう? 俺も一応王様だ。多分なんか特別な理由で分けられたのだろうか? いや、意識し過ぎか。

 

 俺は、城並みに大きい校舎の中に入っていく。そりゃあ、国より、少し遠めの場所作ってあるとはいえ、こんなに大きなのよく作ったな。


「もう迷いそうだよ」


 確か、一年生は、三階だったか、俺はG組だから一番奥かな?


「お、あった、あった」


 俺は、ドアを勢いよく開け、中に入る。教室の中には、何人かの人々が居た。

さっき仲良くなったのだろうか、何人かは、もうおしゃべりを始めていた。


「さて、俺の席はっと」


 俺は、黒板の方に書いてある番号の席へと向かう。


「一番後ろか」


 俺の席は、左後ろの、窓際の席だ。良い場所だな、寝ていてもばれにくいし。ふむ、こんなことを考えていると、昔に戻った気分になる。


「しかし、すごい人だな」


 校庭の方には、まだたくさんの人がいた。こうやって見ると、ヒロノキアも大きな国だと、実感する。


「ふあ、なんか眠くなってきたな」


 昨日は、遅くまで仕事をしていたからな、まだ時間もあるようだし、少し寝ようか。

 俺は睡魔にすべてを任せることにした。





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 ん、騒がしいな。そろそろ、始まるのか?


「ふあああ、ん?」


 なんだろう? 俺の方に、視線が集まっている。さすがに、俺も有名になったのかな? まぁ色々やってるし、当然かな。

 そう思ったが、少し違うようだ。正確には、俺の隣に視線が集まっていた。


「なんだ?」


 俺は隣に視線を向けると、そこには、さっき見た変な人間が座っていた。


「ははは」


 乾いた笑いがこみあげてくる。


「ん? 起きたのか?」


 どうしよう、俺はどうすればいいんだ? こんな人間とどうやって接すればいいんだ?


「どうしたんだ? まだ寝てるのか?」


 やめろ、そのぴっちぴちの体操服と、ブルマでこっちを見ないでくれ。ダメだ、吹き出しそうになる。というか、微妙にイケメンなところも、俺の笑いをより一層誘う。


「やめなよ、ラー君。その恰好じゃ誰でも、警戒するよ」


 後ろから出てきたのは、さっきこの変態と一緒に居た女の子だ。セミロングの茶色の髪、どっちかというと抜けてるような顔をしている。俺の周りは、かわいいというより、綺麗な女の子が多いから、なんか新鮮だ。


「そうか、まぁそりゃあそうだよな」


「そうだよ、ごめんね、えっと?」


「ああ、俺はトウドウ・リュウマだ」


「ヒノモトの人?」


 最近は、あまり詳しくは知らない人間にはそうやって説明している。この世界みたいに、逆にしてもいいのだが、なんか自分の名前をいじるのは、なんか嫌な気分だったから、このままで通している。


「ああ、そんなもんだ。というか、これはなんなんだ?」


 俺はこんな変なものを見たことがない。これはこの世のものなのか?


「ああ、俺か? 俺は、ランス・マリアだ」


 おいおい、なんだ? これは俺はなるべく関わりたくないんだが。しかし、ここで無碍にするわけにはいかないだろう。


「ああ、よろしく。あの、一つ聞いておきたいのだが、お前は変態か?」


 これだけは、聞いておかなければいけない。この返答によっては今後の付き合い方を考えなければいけないな。


「ああ、俺はどちらかというと、変態だ!」


「じゃあな!」


 俺はその場から逃げようとする。


「おい、待て! 冗談だ」


「お前、その恰好で、その発言は洒落にならんぞ」


「いやーすまんな。まぁ、この格好は色々あったんだよ」


 何がどうあって、ブルマになるのか、俺は不思議でならない。


「別に引きはしないが、その恰好はぶっ飛び過ぎだろう」


「そうだよねぇ。あ、私はエル・グレースだよ」


「ああ、よろしくな」


 しかし、どうしようか。このまま、こいつと付き合っていたら、俺は変な人間の一人に数えられてしまう。どうにかしなければ。


「おーう、じゃあ始めるぞー」


 ドアを開け入ってきたのは、白衣を着たおっさんだった。たぶんこのタイミングで入ってくるということは、たぶんこのクラスの担任だろう。


「えっと、なんだっけ? 忘れた」


 おいおい、大丈夫かこの学校、俺の隣は変態、担任は、ボケ野郎。この学校本当にすごい学校なのか?


「ああ、そうか、えっと、あれだ。入学おめでとさん。今日は、早速授業があるから、帰るなよー」


 初日から授業とは、真面目なのか、不真面目なのか。まぁ、色々とクラスのことが分かっていいのかもしれないな。


「あーあと、そこの変態。明日からは、制服を着てこいよー」


「はい、わかりました!」


 笑い、というより苦笑だな。若干引き笑にも似た笑いが教室を包む。


「じゃあ、G組は体育館に集合なー」


 なんかすごい適当な先生だ。この学校本当に大丈夫なのだろうか?

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