偽物のフロンティア7
「う……うん?」
俺は体中の痛みで目を覚ます。えっと、何をしてたんだっけ? たしかキースを助けに来て、そのあとは……あー《自由奔放》を倒したんだっけか。マジで苦戦したなぁ、流石に今回ばかりは死ぬかと思ったぜ。
「やっと起きたね」
俺の横には、キースか? いや、雰囲気が違う。多分こいつはギースか。
「ああ、おはよう。どうしてお前がここに?」
「どうしてって、ここは僕の家だしねぇ」
周りを見渡すと、豪華な部屋の、でかいベッドに俺は寝ていた。
「そうか俺、気絶していたのか」
「うん、でも三時間ぐらいだから、気にしなくていいよ」
三時間、そんなに眠っていたのか。そういえばキースはどうなったのだ? まぁ、あの二人がついているからには、万が一なんてことはないだろうけど。
「キースが心配かい? 大丈夫だよ。今は安全な場所に避難させている」
「よかった。でもお前はいいのか? だってキースを殺すのが目的じゃなかったのか?」
キースが生きているとめんどくさいことになるのはこいつらの方じゃないのか?
「いいよ、あんな奴。それに僕はあまりこの制度に、積極的じゃないんだよね」
「どういう事だ?」
親や、祖父は、積極的に殺そうとしていたのに。
「こんな制度おかしいと思わない? それに非効率的だよ。無駄が多すぎて、バカとしか言いようがないよ」
「でも、伝統だったんだろ?」
「それがそもそも馬鹿馬鹿しいんだよね。だって、こんな方法でうまくいくはずないじゃん。羨ましいから頑張れ? あんな風になりたくなければ頑張れ? 無理無理、そんなの頑張る理由にはならないさ。そんな理由で頑張る人間に当主の資格があるとは思えないね」
まぁそれはそうだと思うのだが。
「お前のお父さんはそういってたぞ」
「そうだね、父様には当主の資格がないってことだよ」
はっきり言う子供だ。まだ十五歳だというのにかなりしっかりしている。これが本当の貴族というやつなのかもしれない。
「じゃあ、あいつは生きていてもいいのか?」
「ああ、いいよ。わざわざそのために君の前にキースを差し出したんだし」
そうか、何か出来過ぎていると思ったが、こいつがすべて裏で手を率いていたというのか。
「だから、彼は生きていていいよ。さすがにグイン家を名乗られるのは困るけど、キースとしてなら生きていていいと思うよ」
「よかった」
ほっと、胸をなでおろす。よかった、キースは狙われ続ける人生を送らないで済みそうだ。
「うん、改めて思ったよ。君たち王と、英雄は化け物だね。まぁそれを見越して、わざわざ偽家の方で戦わせたんだけど」
「偽家?」
「あー、君たちが戦ってた屋敷だよ。最初に君たちが来た屋敷とは細部が違ってただろう? あそこは偽物専用のお屋敷。本家とは似て非なるものさ」
そうか、だからいろいろ逆になっていたりしたのか。しかし、偽物のために屋敷一個立てるとは半端ないな。
「そういえば、おっさんとかはどうしている?」
「ああ、あの人は大丈夫だったから、キースと一緒に居るよ。でももう一人、《鉄壁》の方はそこそこ怪我していたからね、一応治療を受けてもらってるよ」
「なんか、すまないな」
「別にいいさ。怪我させた方は僕の方だし。一応口実を作るために、そこそこの敵をたてなくちゃいけなかったから。そこについては謝らせてもらうよ」
「いいさ、それは別に。俺も戦えて面白かったし」
実際、奴との戦いは、得るものも大きかった。三個目の奥義も実践で使えたし、それにあの、称号。あれはなんなんだ? 突然聞こえてきたあの声、何か懐かしいような、そんな気もした。
「そういってもらえるとうれしいですね」
「で、お前は俺と仲良くしてていいのか?」
「どういう意味ですか?」
「お前の親父さんは、俺のことをかなり嫌っていたようだが」
殺すとまで言われたからな、それにおじいさんの方もあまり好意的じゃなかったしな。
「ああ、別にいいですよ。もう少しで僕が当主です。そうしたら、何も言わせませんから」
恐ろしいな。この子は、齢十五にして、自分の目標をしっかり決めている。そして、その目標をなしえるだけの力を持っている。
「それに、あなたを敵に回すのはよくないようです。それは今回の件で、しっかりと理解しました」
「そりゃあ、よかった。俺もあんまりお前とは戦いたくない」
キースに似ているこいつとは、あまり戦いたくないしな。
「ヒロノキアの王、トウドウ・リュウマよ」
「おいおい、いきなり改まってどうしたんだよ」
急に仰々しく、膝を折るギース。その姿は、優雅で、綺麗だった。
「我、ギース・ヒロノキア・グインはヒロノキアの王へ、永遠の忠誠を誓うことをここに宣言いたします」
おいおい、これはどういう事だよ? 永遠? 忠誠? どういう事? いきなりすぎて話についていけねぇ。でも、これは大事なことだよな。
「ああ、分かった。お前の言葉、信じよう」
「ありがたく、その言葉、頂戴いたします。ここに契約はなされた。この契約は血よりも重く、我の命よりも重い。我の命をあなた様にささげることを、お許しいただき、感謝いたします」
そういって、深く頭を垂れるギース。
「いきなりなんだよ?」
「いえ、僕としても、あなたと仲良くしておきたいですからね。お父様たちはバカですよ。英雄と王を敵に回して、グイン家が無事であるはずはない。そこらへんも未熟なんですよね」
「まぁ、別に俺は仲良くする分には構わねぇよ。敵は少ない方がありがたい」
「そうですか、これからも末永くよろしくお願いしますよ」
「その言い回しはなんか嫌だな。だが、まぁよろしくな」
「はい、よろしくお願いしますよ」
「うんじゃあ、キースは何処に居るんだ? あっておきたいしな」
「ああ、じゃあ案内しますよ」
俺はギースに連れられ、屋敷を後にする。
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「遅いじゃないか、僕を待たせるとはいい身分だな」
さっきまで話していた屋敷とは、違った屋敷の部屋の一室に来ていた。そこには、キースとおっさんの姿があった。というかどんだけ屋敷があるんだよ。ここはどんだけ広いんだ? 東○ドーム何個分だよ?
「はいはい、そりゃあ、すまんかったね。で、大丈夫か?」
「ふっ、僕は無敵だ、そんな心配は無用さ」
いつものようにふるまい続けるキース。
「そうか、無理はすんなよ」
そしてその姿は、いつも通りで、とても痛々しかった。
「無理なんてしてない! 僕は……」
「つらかったら辛いって言えよ。お前はもう、ただのキースなんだから」
「僕はっ! 僕は……誰なんだろう? なぁ、僕は誰なんだ? 僕は誰であればいいんだ?」
「っ……」
グインとして生きてきたキース、その生き方しか知らなかったキース。故にその生を自体を否定されたキースは、今や何物でもないのかもしれない。
「お前は、キースじゃダメなのか?」
「分からないんだ。キースって何なんだ? 僕はグインじゃないんだ、だったら僕はなんなんだ?」
「お前は、何もないわけじゃないだろう?」
「あるさ、でもそれはキース・グインにとってのものだ。ただのキースには何もない」
これは完全にダメになっちまってるな。まぁ、こんな境遇じゃあしょうがないのかもしれない。
「僕には、何もないんだ。これまで何もしてこなかった。だって僕はグイン家でいたから。しかし唯一誇りだったものは偽物だと言われ、誇りも、自分も無くなってしまった。そんな僕はどうすればいいんだ!?」
「それはっ」
俺には何も言えない。何も知らない俺には、何も言える資格はない。何を言っても、キースには多分届かない。
「ほら、君には何も分からないんだ!」
「甘えるな」
今まで黙っていたおっさんが口を開く。その声は、重く、深く、響くような感じだった。
「甘えてない!」
「お前は、お前にしか分からない。だから分かってもらおうだなんて思うな」
「じゃあどうすればッ!? 僕は、何をすればいいんだ」
「作れ、自分を」
「自分を作る?」
「何もないんだろ? だったら作ればいい。自分は自分だ、それ以外の何物にもなれない。だったら自分を作れ、そして見つけろ。本当の自分というものを」
「僕はやり直せるのかなぁ?」
「やれると思え、やれないはずはないとな。ならばできないことはない」
さすがおっさんだ、いいこと言うな。
「ああ、僕少し頑張ってみようかな」
「ああ、それがいい。お前が頑張るというなら、私は力を貸すぞ」
「俺だって、いくらでも権力を使ってやるよ。なんせ王様だしな」
「ああ、ありがとう。僕、やってみるよ」
その瞳から落ちた涙を、俺は忘れることはないだろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから一週間、俺は城のベッドで、いまだ治療を受けていた。
「おい、なんでシロナはそんなに元気なんだよ!? お前、俺と同じくらいボロボロだったじゃないか!」
俺はまだ、体中の包帯が取れないというのに、シロナのやつはもうピンピンと動き回っていた。
「鍛え方が違う」
「おいおい、そんな言葉で説明しきれないだろう」
「実際元気」
なんだよ、英雄は何か体のつくりが違うとでもいうのか? まぁ、俺の方もこっちの世界に来て、基礎能力は上がっている。しかし、あいつらには勝てる気がしない。
「主、貧弱」
「うるせー。お前らが異常なんだよ」
「主はもっと頑張るべき」
「おい、にやけながら言うんじゃない。バカにされてるみたいじゃねーか」
「みたい?」
「はいはい、バカにしてるんですね!」
「そうそう、主はもっと強くならなきゃダメ」
「そうだな、流石に今回で分かったよ。俺はもっと努力しなきゃだめだなぁ」
あの中で一番弱いはずのあいつですら、あの強さだ。これから出てくる敵は多分比べ物にならない奴ばっかりだろう。それに《道化師》のような、あんな存在が出てきたら、俺たちはひとたまりもないからな。
「それで、シロナはどうしてここに来たんだ?」
「忘れてた、報告。《自由奔放》リジェット・ウルクが死んだ。多分殺された」
「殺された?」
一応、ヒロノキアの檻だぞ? 国一番の檻で、殺された? 自殺なら分かる。しかし、殺されたとなるとそれは不可能に近い。だって、わざわざ檻の中に入って、殺したという事だろう? しかも称号持ちのやつを。
「うん、ナイフのようなもので、一刺し。誰も目撃してなかった」
「どういう事だよそりゃあ、見張りはかなりいただろう?」
「百人近くいた。でも誰も見てなかった」
相手は、普通の人間が百人居ても、視認できないほどの人間という事か。
「じゃあ多分やったのは」
「『天秤』」
「だろうなぁ、口封じか」
わざわざ口封じに、こんだけ困難な場所に来るとは、それほど自分たちの情報を知られたくないという事か。それとも、こんな場所に忍び込むのは、別に造作もないという事か。まぁどちらにしても、『天秤』にはそれほどの実力者が居るという事か。
「ごめんね」
「お前が謝ることはない。別にいいさ、多分いずれ、分かることさ」
多分、俺たちの前に何度でも奴らは現れるだろう。そんな予感、いや確信がある。
「そだね。出てきても倒す」
「おう、そうだ。何度出てきても、ぶっ倒せばいい。だから、今は休ませてくれ」
治りつつあるが、まだ流石につらい。結構怪我をしたからな。
「はい、お休みなさい。我が主」
「ああ、お休み」
俺は、暖かい日差しの中、銀色の光に身を包みながら、目を閉じるのだった




