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≪大力≫

 僕がそこで見たのはただの力だった。相手の赤髪のボスも凄い力だった。ここを支えている柱の一つを強引に剥ぎ取り、武器に使っていた。自分の身長の五倍はあろうかというでかさの代物をだ。あのおっさんが言っていた、家を玩具みたいに壊すという話しもこの状況を見れば、誰もが信じるだろう。いったいあんな細い体のどこにそんな力が隠されていたのだろう。


しかし、そんな力はおっさんの前では無力だった。おっさんはただの力ではない。力という言葉だけでは表せないほどの力だ。でもあえて言葉で表すなら、力よりもっと大きな力、そう大力だろう。


「あがああああああああああああ」


 赤髪のボスがその柱を振りぬく。その速さは一般人の僕から見れば、目にもとまらぬ速さだ。しかしおっさんはその柱を片手で受け止め、握りつぶす。さっきからこの繰り返しだ。そのせいで柱は、初めの長さの半分ほどになっていた。


「所詮力があると言えどこの程度か」


「化け物めっ!」


 ああ、相手のボスの言っていることも分かる。これは力の化け物だ。こんなの人間ではない。ただの村人がこんな力を持っているはずがない。


「この私《剛力》レドナ・クルスが負けるわけない!」


 何か名前を叫んでいる。剛力? 何のことだ? なにか大事なことなのか? 貴族の僕に分からないことがあるのか。


「所詮剛力と言えど、その程度だという事だ。大いなる力の前にはそんな力は無力だ」


「何が大いなる力だ! 俺の力が負けるわけがない!」


 柱を捨てて、おっさんを掴みにかかる相手のボス。相手のボスも自分の力に自信があるのだろう。そうでなければおっさんに掴みかかるなんていう、無謀なことをするはずがない。


「こんなことが、こんなことがあってたまるか!」


 おっさんと赤髪ががっしりと組み合う。双方の力がでかすぎるのか、地面が窪み始める。


「俺が強いんだ!」


 赤髪の表情は苦しそうだ。その反面おっさんは涼しい顔をしている。


「この程度か、中途半端に力を持つと、いかんな」


「俺が、俺が……」


 だんだんと押されていく赤髪、均衡に見えていた戦いはいつの間にかおっさんが優勢になっていた。


「これで終わりか?」


「クソッ! クソッ!」


「もう終わりのようだな」


 そういっておっさんは無理矢理相手の腕を引きちぎる。無理矢理にだ。吹き出す真っ赤な鮮血、飛び散る赤髪の右腕。


「うがあああああああああああああああああ」


「ほら、もう片方もだ」


 おっさんはそういうと、もう片方の腕も、引きちぎる。人間をこんなにも簡単に破壊するおっさんはいったいなんなんだ? これではもう、ただの化け物だ。


「あ、ああ、ああああ」


 自分の両腕があった場所を交互に見続ける赤髪。こうなってしまうと、いくら復讐とはいえ少し可哀そうになってくる。


「どうだ? 見ているか? これが復讐だ。己を動かすのはただの憎悪。残るのもただの憎悪だ」


「ああああああああああああ」


 抑揚のない言葉で話しかけてくるおっさん。確かに相手の姿を見て可哀そうだとは思った。しかし僕の中の憎悪が消えたわけではない。


「引き返せるのは今だけだぞ。このままこいつを殺すのを見逃せば、お前は戻れない」


 最後だ。という声で、注意を促すおっさん。僕は頭の中で思い出す。泣き叫ぶ両親を、苦痛に歪む母の顔を、涙でぐしゃぐしゃになった父の顔を。


「いい、戻らない。殺してくれ。僕はそいつを許す気はない」


 僕は無理矢理声を喉から押し出す。これが僕ができる精一杯だ。


「そうか、お前の決めた道だ。私は何も言わん」


 そういっておっさんは次に相手の右足をちぎる。もうここまで来ると何か相手が人間ではないかとも思えてくる。ただの人形、苦痛の表情を浮かべるただの人形。


「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない!」


「俺の村の人々もそうだったよ」


 そういって、最後に体を真っ二つに引きちぎるおっさん。緑色のシャツを着ていたおっさんはすでにもう真っ赤になっていた。


「これで終わりか、やはりこの程度か。つまらん」


 そういうおっさんの顔は暗く、何か暗いものを背負っていた。


 どうやらあっちもの戦いも終わったようで、商人の息子だとかいう胡散臭い男がやってきた。


「これはどういう事だ?」


「あ、え、あ」


 僕は現状の処理が追い付かず、言葉がうまく出てこない。


「あーいいや。おっさん直接聞くし。おーいおっさんどうなったんだ?」


 あんな姿を見ても今まで通りに話しかけられるあの男も、何か狂っているのかもしれない。


「別に、私がただ勝っただけだ」


「それだけじゃねーだろ。こんな殺し方、何か無理矢理人間を引きちぎったみたいな」


「ああ、その通りだ。引きちぎった」


「? おっさんが? たしか相手は力がヤバいとか」


「ああ《剛力》だとか言っていたかな」


「おいおい、称号持ちかよ。そんな人間を無理矢理引きちぎるって、なぁおっさん……もう一度名前を聞かせてくれ」


「ああ、私は《大力》シャイナ・バレルだ」

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