内戦のフロンティア3
「これはヤバいな」
城の前の広場には貴族派の軍が、陣を敷いている。しかしその数はどう見ても五千には及ばない。精々三千ぐらいがいいところだ。
「そうですね、相手もバカじゃない。わざわざ全員外に出てくれる訳ないですよね」
でもだったらこんなにも外に外に兵を残しているのだろう? こちらは精々千ちょいぐらいだ。だったら最初から全員で引きこもり、相手の攻撃を迎撃した方がいいと思うのだが。
「それは、相手が普通の兵の場合です。称号持ちが居る場合はその限りではありません。王はかなり称号持ちを軽視しておられるようだ。例えばそうですね、あなたが倒したという《閃光》様を例にしましょう」
クラウザーは仰々しく説明を始める。
「まず《閃光》様の移動速度は、一般の人間では目で追えません。本気を出せば平野などでも見失う可能性もあります」
それは戦った俺が一番よく分かる。なんたってアウラの速度は目にもとまらぬ速さだ。
「故に、相手が城前に何も軍を展開していない場合、《閃光》様がいつの間にか城の中に入られているということも無きにしも非ずなのです」
「本当にそんなことができるのか? 仮に出来たとしても、相手は五千だぜ? どうやったって無理のような気がするんだが」
「そりゃあ五千も一斉にかかってきたら無理でしょう。しかしそんな一か所に五千も居るわけがありません。それに《閃光》様の速度なら、必要最低限の戦闘で相手の頭を切り下せるでしょう。本来、このような状況では、称号持ちは称号持ちをぶつけるぐらいしか有効な手段はないんですよ」
「そんなに凄いのか? 称号持ちって」
たしかに、装備も、準備も、技術もないアウラであの強さだ。それなりに強いことは分かる。しかしそこまでする必要があるものなのか?
「ええ、一騎当千という言葉を知っていますか?」
「それぐらい分かるさ。一人で千人分の強さを持つ人間の事だろう?」
「ええ、そうです。称号持ちにはその言葉が一番よく似合います。恐ろしいのは、その言葉が比喩ではないという事ですがね」
マジかよ、本当に千人と戦えるほどの力を持っているってことかよ。アウラにはそこまでの強さは感じなかったのだが、発展途上ということなのだろうか。
「それにこちらには、英雄と呼ばれる称号持ちの中でもトップの人間が三人もいます。故に相手の対応は正しいですよ。正しいのですが兵の数も質も全然足りません。英雄三人と戦うのなら、四倍の兵力か、称号持ちを六人は欲しいですね」
「マジかよ」
三人がそんなにすごい人間だとは思っていなかった。そりゃあ何度か戦闘も見ている。たしかに強いのも分かる。でもそれ以上に普通の人間なんだ。普通に笑って、怒って、悲しんで、何処にでもいるような人間なんだ。だから俺は少しクラウザーさんの言葉を聞いて、がっかりした。クラウザーさんは三人のことを戦力としてしか見ていない。そのことが俺はとても悲しかった。
「まぁ相手が私たちを制圧しきる前に、みなさんが帰ってきたのが運のつきですね。相手は何としても、英雄が帰ってくる前に決着をつけるべきでした。しかし相手は自分の安全を優先したのか、本当のバカだったのか知りませんが、全兵力を攻撃に費やさなかった。そこが奴らの敗因ですね」
「そうですね、私たちの国をこんなにした罰を、貴族派の皆さんには受けてもらいましょう」
その声は穏やかなものだったが、アイリさんの顔は怒りに震えていた。
「ではそろそろ始めましょうか。英雄のみなさん、お願いします」
お願い? これからアイリさん達は何をするのだろうか?
クラウザーの言葉に頷いたアイリさん達三人は、ゆっくりとした足取りで前へと出る。
「バカっ! そんなに前に出たら、いい的じゃないか!」
「これでいいんです」
これでいいってどういうことだよ。なんで三人がわざわざ的みたいなことをしなくちゃいけないんだよ。
「王国兵とその他の兵、貴族派の皆さんに伝える!」
アイリさんは大きな声で叫ぶ。
「これが最後の警告だ! 我らは同じ民で血を流すことは望まない!」
王国兵に動揺が走る。流石に英雄を目の前にして、兵達の決意が少し鈍ったようだ。
しかし、相手が引く様子はない。どうやら国は真っ二つに割れてしまったようだ。
「今、投降すれば許します。しかしそちらに歩み寄る意思がないのであれば……《剣聖》という名の本当の恐ろしさを味わうことになります」
三千の兵、全員に緊張が走る。その一言はそれほどの威力を持っていた。味方である俺ですら鳥肌がたつぐらいだった。しかし相手の兵の心が折れることはなかった。
「交渉は決裂のようです。ではマスター行きましょうか」
「お、おう」
俺はその冷たい顔のアイリさんに一瞬たじろぐ。しかしそんな場合ではないと気合を入れなおす。
「行くぞ! 全軍突撃!!」
ここに戦いの火ぶたは切って落とされた。
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「本当に大丈夫なんですか?」
城の会議場内では貴族派の人間たちが集まり、会議を開いていた。
「そうだ。あっちにはあの青年が連れてきた《閃光》まで居るんですよ!」
会議場内は怒号や罵声で溢れていた。
「落ち着きなさない。大丈夫です。こちらには七千の兵と、切り札だってあるのですから。それに相手は必ず正面からくる」
ノワールには相手が正面からくる確信があった。あの青年は賢い人間だ。後の後まで考え動けることができる人間だと、そしてそれを行動に移す度胸もある。
「しかしっ! 相手はあの英雄ですよ!」
どよめく場内。この国で誰も英雄の強さを知らない人間は居ない。子供ですら英雄の強さに経緯を抱いている。
「静かに!」
ノワールの言葉に一瞬で静まる。
「どっちにしろ、英雄たちが戻ってくる前に決着を付けられなかったのですから、こちらも覚悟を決めなくてはいけません」
「今降伏をすれば、許してもらえるのではないか?」
同意の声でいっぱいになる。その様子からあまりこの戦いに皆が賛同している訳ではないと分かる。
「どっちにしろ私たちにはこれしか手段はないのです。『円卓』が復活すれば私たちの居場所はなくなってしまうでしょう」
その言葉に貴族派は全員黙ってしまう。貴族派全員が自分たちが決して良い人間ではないことぐらい分かっていた。
「どうしてもあの青年を王とは認めてはならないのだ」
死地へと向かう貴族派の人間たち。否、それしか彼らが生きる道はないのだ。




