内戦のフロンティア4
「全軍突撃!!」
全軍を相手軍へと突撃させる。その様子は人による波だった。
「行けぇぇぇぇぇ!」
もの凄い勢いの人々が俺の横を通り過ぎていく。皆がみんな必死の形相だ。それもそうだ自分一人の働きがこの国の運命を左右するのだから。
軍と軍が衝突しそうになったとき、俺は大声を上げて叫ぶ。
「全員展開!!」
「「「「全員展開!」」」
みんながそれを復唱すると同時に、先陣をきった部隊が背中に背負っていた大盾を構える。
「盾固定!!」
「「「盾固定!」」」
その合図と同時に、盾を石畳の床に刺した。この盾は、下部にとても鋭い棘のようなものがついており、地面にさせるようになっているのだ。
「行くぞ!」
「了解! 行きます」
「行く」
「りょーかい!」
俺たちは、先陣が盾を展開したのを確認してから、全力でダッシュをした。
「このまま敵の真ん中を突っ切る!」
「分かりました!」
味方の背中がどんどん近くなる。大きな盾だから相手の姿が全く見えない。見えない故にとても不安に駆られる。しかし、俺は速度を落とすことなんてしない。戦場では迷った人間から死んでいくのだから。
「もうすぐで先陣だ! 覚悟はいいか!?」
俺は三人へと顔を向ける。答えは決まっている。しかし最後にもう一度だけ確認しておきたかったのだ。この地獄へと一緒に向かう仲間の顔を。
「「「はい!」」」
「よっしゃじゃあ行くぞ!」
走り続ける。鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえる。瞼を閉じてその音を心に刻みつける。そして一回拳を握りなおす。覚悟は決まっている。あとはもう突っ込むだけだ。俺はゆっくりと瞼を開け、大きな盾を飛び越えた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
眼下に広がるのは、戦いの風景。盾と剣、剣と剣、血と血が入り乱れる戦場。
「なんだ!?」
戦闘中の兵たちが俺たちに気づく。しかしそんなのを気にせずに俺たちは敵陣の中央を突っ切っていく。
「どけええええええええええええええええ」
俺は拳を振り上げ、眼前の兵士を殴り飛ばす。固い兜と鉄の小手がぶつかり、嫌な音が響く。
「邪魔だ!」
そしてそのまま振りぬき、相手を吹っ飛ばす。
止まらずに走り続ける。人の海の中を、その手を血に染めながら走り続ける。
「邪魔です!」
後ろでも同じようなことが繰り広げられているようだ。声や悲鳴で後ろがどうなっているのかは分からない。しかし後ろのみんなは英雄、心配することなど一つもないだろう。
俺たちは走り続ける。どれくらい走ったのかも、どれほどの人間を殴り飛ばしたのかも分からなくなってきた。どれほどの人間の顔を拉げたのかも分からない。しかし俺たちは止まらない。その走ってきた道がいくら血で汚れようと。
突き出される槍を俺はひたすら手で弾いていく。振り下ろされる剣を俺はひたすら弾いていく。俺の体は血で真っ赤に染まり、俺の耳は怒声と悲鳴で麻痺し、そして俺の顔は……
「マスター?」
いつの間にか横に並走していたアイリさんがものすごく心配した顔でこっちを向いている。
「どうした?」
「いえ……マスターが笑っているように見えて」
俺が笑っている? こんな地獄に居るというのに? 血の饐えた匂いが充満し、悲痛な叫びで溢れているこの場所で笑っている?
「別に笑っていないならいいんです。多分私の勘違いでしょう。あ、門が見えてきました!」
俺はその言葉に雑念すべてを振り払い、目の前の物事に集中する。
「よし行くぞっ!」
俺たちはまたスピードを上げる。早く、早く、もっと早く。あの門まで!
「邪魔だああああああああああああああああ」
立ちはだかる兵士を殴り飛ばす。もう門は目の前なんだ! 頼むから邪魔をしないでくれ!
「着いたぞ!」
俺たちは門の前へとやっとの思いで辿り着く。俺たちの前にはただの大きな両開きの扉があるだけだ。
着いたはいいが何をすればいいんだ? 勢いに任せてここまで来てしまったが、ここで何をすればいいんだ? こんな大きな門扉を壊すことなんて出来ない。というか不可能だ。高さは十メートル以上あるし、幅だって五メートルぐらいある。厚さだってそれなりにあるはずだ。アイリさんが任せてくださいなんて言うから何か策はあるのだろうが、どうすりゃあこんなの開けられるんだ? ひらけゴマとでもいえば開くのだろうか。
「こんなのどうするんだよ」
「まぁ任せてください」
そういって剣を鞘に戻し、低く構え始めたアイリさん。
「って、そんな落ち着いている暇なんてないでしょ!?」
こんな悠長に構えていたら、囲まれてしまう。いや、もう囲まれているのだが、今俺たちの足は止まっている。この場で相手をしていたら、じり貧になってしまう。
そのとき俺は全身の毛が逆立つのを感じる。血が逆流するような、身の毛もよだつ感じがする。爺と対峙してもこんな感覚を感じたことはない。これが本当の恐怖。
回りの兵士たちが一瞬にして固まる。その場で足が地面に固定されたように誰も動けない。俺も動けない、いや動きたくない。俺だってこんな感じなんだ周りの兵士は指の一本ですら動かせないだろう。
「『シラヌイ』」
一閃。一瞬何かが光ったように見えた。全く分からない。何が起こったのか全く分からない。ただ一つ分かったのはアイリさんが剣を振ったのだ。ただ剣を振っただけ。
「では行きましょう」
「はっ?」
その時轟音が鳴り響く。なんだ? 剣を振った音が今更聞こえてきたというのか? 音速を超えているなんてもんじゃない。しかし行くとはどういう事だ? まだこの門扉が残っているというの――に――?
「って、はああああああああああああああああああああああああああ!?」
そこにあったはずの門扉は真っ二つになっていた。文字通り真っ二つだ。
「って、え? え?」
「お兄ちゃん何してるの? 早く行こうよ!」
「主びっくり?」
いやいやいやいやいや、何? これが普通なの? 俺が驚き過ぎなの? いや周りの兵士も開いた口がふさがってないよ。今だけは俺はあっち側だよ。
「さぁ急ぎましょう!」
「いや待てよ! 待ってくれよ!」
こんな人外ばっかなのかよ。英雄ってのは……楽しくなってくるな。
俺たちはゆっくりと場内に突入する。正面から堂々と王らしく。




