暗闇のフロンティア9
「さて、こいつをどうするか」
鎖でぐるぐる巻きになっているユウヤを連れて旅館まで戻ってきた。
かなり綺麗にアウラの拳が入ったのか、未だ目を覚ます様子はない。
「アイリ、この武器に見覚えは?」
旅館に戻ってきた俺たちは持ってきた武器等を広げていた。
「あまりありません。でも、暗殺者等が使う武器に類似してはいます」
「ふむ」
あんだけ大声で言ってたのは本当のことのようだ。流石にあんなに大声で戦う暗殺者なんていないと思ってたけど。
「でも、この少年が本当に《暗闇》なんですか?」
「まぁ、自分で言ってたからなぁ」
「はぁ」
まぁ信じられないよねぇ。でもあの強さは確かに本物だった。ゲイルとキース二人で攻めても余裕があった。
それにあれがユウヤの本当の実力じゃないような気がするのは考えすぎなだけだろうか?
「まぁ、それはこいつが起きてから確認しよう」
「ああん!? 俺が起きてからなんだって!?」
ドスの聞いた声、まるで叫ぶようなセリフが聞こえる。
「よぉ起きたのか」
「元気ピンピンってなんじゃこりゃ?」
鎖で巻かれた姿を見て驚くユウヤ。まぁ確かにぐるぐると無理やり二十三十と鎖に巻かれているので、思ったように動けないようだ。
「流石に暴れられたらめんどくさいからな」
「はっ、この程度で?」
次の瞬間には鎖は外れ、自由な姿のユウヤがあった。
その瞬間、一気に戦闘態勢に入る面々、俺はその全員を手で制する。
「いいよ、大丈夫でしょ。暴れるつもりもなさそうだし」
あれほど振りまいていた殺気が今は収まっている。戦うつもりはないのだろう。まぁ刺々しい空気は未だ部屋の中に充満しているが。
「はいはい、暴れるつもりは毛頭ございませんよ」
「マスター、再度拘束を」
「えー、跡になっちゃうじゃねえか」
「いいよ、アイリ。どうせ無駄だろうし」
「おうおう、リューマは分かってんな」
「リューマ!? 不敬ですよ 少年、殺されたいのですか?」
アイリの殺気が一気に膨れ上がる。旅館の空気が一気に重くなる。
「いいよ、アイリ、それに俺だって呼び方は気にしてない」
「はぁ。マスターが良いなら」
「オー怖、ネェちゃん何もん?」
「その話は後だ。で、詳しい話は聞けるのか?」
二重人格であれば、表のユウヤが知らないことを知っている可能性もある。
「いやさぁ、気づいたらって嘘ついてもしょうがないか」
まるでこちらを馬鹿にするように喋るユウヤ。
「で、なんで俺たちを襲った?」
「称号持ちなんだってな? お前ら、俺はある称号持ちを探してんだよね」
「なんでだ?」
「ああん? 俺の村を壊滅させたやがったからだよ」
たった一人で? 村を? しかも《暗闇》が居る村を?
「全滅ならまだ良い! 全員殺されるのであれば、まだ我慢できた。だがあいつは俺を見逃視やがった!
命だけじゃねぇ、尊厳も存在意義も、全てを笑って行きやがった」
慟哭が響く。まるで世界を憎むような、全てが憎いという叫びが響く。
「分かるか!? 俺たちの全てを台無しにしていきやがった! 全部がおじゃんだ。俺たちの歴史も、極めた技術も全部が全部、台無しだぜ。笑えてくるわ」
「あの《白夜》の野郎、俺たちの全てを笑っていきやがった」
《白夜》? 何だその名は?
「糞が、真っ黒なゴキブリみたいな姿の癖に《白夜》だぁ? 笑わせるぜ」
「真っ黒な服? もしかして、黒い布とかで顔を隠してなかった?」
「ああ、頭からつま先まで真っ黒だ。しかも、そいつはなんだっけ? 『天秤』? そんなことを話していた」
「『天秤』ッ」
その言葉には聞き覚えがあった。最初は内乱の際の《道化師》、そしてキースの館の《自由奔放》等、そして《暗矢》。そのどれもが一級品の力を持っていた。
そんな人間が集まる傭兵組織、それが『天秤』。
未だ俺たちはその『天秤』の目的も概要も掴めていない。
「調べる必要があるか?」
「そうですね。何が目的かは探ったほうが良いかもしれません」
「で、そこの嬢ちゃんは、『天秤』じゃなくて、《白夜》の方を知ってるっぽいが?」
「多分だけど一回会った。内乱の際に《道化師》と戦ったときににね」
「そうか、次会ったら教えてくれ、殺すから」
ニコニコと笑うユウヤ。そこには何か狂気のようなものを感じた。
「で、お前らはなんで狙われたんだ?」
「そりゃあ、俺たちが暗殺を生業にする一族だからな。誰が俺たちを恨んでいるかわかったもんじゃない」
「暗殺?」
「そ、暗殺組織。俺たちは初代《暗闇》の時代から続くクソみたいな組織さ。あそこは隠れ家の一つ。育成等にも使われてたな」
「暗殺組織、そんなのがあったのですね」
「おいおい、金髪のねーちゃん、眠たいこと言ってんな。そりゃあ、こんな世の中じゃあ殺したい人間が多くたって不思議じゃねぇだろ」
「……そうですよね」
現に俺たちだって刺客に襲われたこともある。そういう世界なのだろう。
「で、そんな昔から続いてきた一族がバレて壊滅させられたと」
「おっしゃるとおりで。だけど、あいつは俺だけ逃がしやがった」
「さっきも言ってたがどうして逃がしたんだ?」
《暗闇》を名乗る程の人間だ。村で一番強いはずだろう。なのに、敢えてユウヤを逃がした。それはどういうことだ?
「知るかよ。あの腐った目だからな、対した理由はないかもしれねぇな」
気まぐれ? 不可解だ。最近もこんな不可解なことを体験したような。いや、考え過ぎか。
「で、どうすんだ? 英雄たちの王、《武帝》様よ?」
「知ってたのか?」
俺はコイツの前では名乗った覚えはないと思ったが。
「表のアホに名乗ったろ。それに、《閃光》と一緒に居る少年なんて《武帝》しかいねぇだろ」
確かにのほほんとしたユウヤには名乗ったか。
「そう言えばお前らは何なんだ?」
「何なんだってのは、いや聞きたいことはわぁってるよ。まぁ二重人格ってやつだ。あっちが表で俺が裏。あの雑魚、《白夜》のトラウマで戦うことから逃げやがった。そんときに俺は生まれた」
「そんなことがありえるのか?」
「あいつは人一倍心が弱かったからな、それを補う為に俺が生まれたんだよ。あの腰抜けクソ野郎。面倒事は全て俺に任せやがった」
何も覚えていないのはそういうことか、全てを忘れることで自分の平穏を保っていると。
「で、どうすんだ? 俺は《暗闇》、英雄の一人だぜ?」
傲岸不遜、その姿は俺よりも王様らしかった。
「はぁ、で、お前の条件は何だ?」
「話が早くて助かるぜ、『天秤』を知ってるんだよな?」
「まぁ、何回か会ったことはある」
事あるごとに『天秤』には会っている。いや、問題事には必ず奴らが居るといっても過言ではないかも知れない。
今後、きっと何度も出会うことになるだろう。俺がこの世界で王様をし続ける限りは。
「そりゃあ重畳、俺の目的はただ一つ、《白夜》を殺させろ。お前らは英雄を一人ゲット、俺は敵を討ててラッキー、ウィンウィンの関係と思わねぇか?」
なんとも、多分、ここで出会ったのは偶然なんかじゃないんだろう。いや、もしかしたらユウヤはこれを狙っていたのかもしれない。
「はぁ、分かったよ。それで良いなら安いもんだ」
「んじゃあ、契約成立だ」
その瞬間、トゲトゲした刺すような空気がなくなり、緩やかな空気へと変わる。
「あれ? 僕の昼ごはんは?」
そこにはポカーンとしたユウヤの姿があった。どうやら入れ替わったようだ。
「全く自由だな」
何も言わず消えるとは、なんとも本当に自由な人間だ。
「何がかい?」
「いや、こっちの話だ。で、お前はどうするんだ?」
「何の話?」
やっぱり裏にした話は表には通じてないみたいだな。でも裏は表の出来事は分かっている。でも、さっき裏は表が主人格だと言っていたような。詳しいことは分からないな。
「いや、お前これから行くところあるのか?」
「まぁ、村でゆっくり暮らそうかなぁと」
なんだろうこの温度差、ちょっとこちらが混乱してしまう。
「そうか、別に何もやることがないなら一緒に来ないか?」
「は? どういうこと?」
「俺、結構偉い人間だからさ、ユウヤ、一緒に行こうぜ」
「えー?」
なんだろう、すごく面倒くさい。裏は裏で騒がしいが、こちらはこちらでゆるすぎる。どうしてこんなに極端なんだろうか?
「はぁ、俺、この国の王様だから命令だ」
ちょっとめんどくさいので、過程をすっとばすことにする。というかなんか俺まで思考が緩くなっている気がする。
「王様? またまた冗談、王様が女湯覗こうなんてしないでしょ」
「おいそれは!」
思わぬ一言がユウヤの口から零れた。流石にそれを知られるのはかなりまずい。
「流ちゃん? どういうこと?」
「……言って頂ければ」
「待て、それは後だ」
ニコニコと笑っている夕実が怖い。それにアイリはなんかブツブツ言ってて弱に怖い。
「とりあえず、ユウヤ、俺にはお前が必要だから来いよ」
「分かったよ、なんか心の中で君についていったほうが良いと言っている気がする。なんでだろうね? んじゃそうだな、偉い人間……偉い人間、そうか、お館様、今後共よろしくお願いします」
「おう宜しくな」
こうして俺たちは《暗闇》を仲間に入れることができたのだった。
それにしても王は英雄を集めるね、これは本当のことみたいだな。
そんなことを考えていると、頭を万力のような力で握り締められる。
「あがががが、ちょっと待て、話し合えばわかる」
「拳で語ろうか?」
「良いじゃねぇか、昔は良く一緒に入ってたんだし」
「そういう問題じゃなーい」
凄まじい拳で殴り飛ばされる。俺けが人だし、そもそも覗けてないんだよなぁ、と思いながら意識を失うのだった。
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夜空には星々が輝く。おっさんと話をした夜もこんなふうに綺麗な星が輝いていたな。
一人になるのは久しぶりかもしれない。最近はいつも誰かが近くにいた気がする。
多分こうやっておっさんのことで悲しませないようにという周りの気遣いだろう。
「全く、周りには苦労ばかりかけてるんだよな」
そんな言葉は暗闇に飲まれていく。
腰を下ろし、冷たい空気を肺に入れる。
こうやって静かに考えることも最近はなかった。特にここ二、三日は騒がしい日々ばかりだった。多分これもみんな俺を気遣ってのことなんだろうな。
昔は良くこうやって一人で良く考え事をしていた。
山に無理やり連れられたとき等、夜は色々なことを考えた。まぁ大半はどうでも良いことばかりだったが。
「どうすりゃあ良いんだろうな?」
俺は一人呟いた。
全く、どうしてなんだろうな。結局は自分が弱いからそうなるのだろう。キシリスもおっさんも、この世の中には俺より強い奴がごまんといる。だからこそ、キシリスが殺されてしまったあと、強くなりたいと思った。
なのに結局はおっさんまで殺されてしまった。
最近良く考える。どうして俺がこの世界に選ばれたのだろう?
そもそもこの世界はなんなのだろう? ゆっくりと頭の中でステータスを思い浮かべる。
最初に開いたときと比べ、かなり上がったステータスの数値が浮かび上がる。そもそもこの数値がなんなのかすら良く分からない。
こんな訳の分からない物があるくせに、地球とほぼ変わらない気候や、どこかで見たことあるような文化や、見慣れた温泉等。
共通することも多ければ全く違うこともある。
本当に謎な世界だ。
そんな世界で死んでしまう人々。しかし、ここは確かに現実なのだ。
おっさんは確かに死んでしまったのだ。もう帰ってこない。
少し息を吐く。中に篭ってしまった熱を取り出すように。
「全く早すぎるよな」
俺はまだおっさんには勝ててないのに、いずれ追い越すと言ってくれたのに。これではいつまで経っても越せないのだ。あの大きな背中は俺は一生越すことができない。
「勝ち逃げかよ、クソ」
結局おっさんは、俺の中で大きな存在のままで居なくなってしまった。
「はぁ」
再度、空気を吐く。中に溜まった嫌な気分を吐き出すように。
どうもダメだな。考えるのは苦手だ。こうやって考え事をするとどうしても同じ場所をぐるぐると回ってしまう。こういうときカルアとかならしっかりとした思考をできるのだろうな。
再度夜空を眺める。そう言えば夜空に光る星は死んだ人間なんて話があったような。
「はぁ、見てろよ。俺がもう誰も泣かせないから」
俺は拳を星に掲げた。揺るがぬ決意を心に留めながら。




