剣聖のフロンティア1
毎日更新が厳しくなってきたので、今後は二日に一回を目安にしたいと思います。
「よしッ」
手を握り、体を動かす。体が完全に完治したみたいだ。
二週間ほどで骨折も、内蔵の痛みも全て取れている。
現実ではありえない速度だ。確実に拳はぐちゃぐちゃで、内蔵はだいぶ傷つき、アバラや腕の骨も折れていたはずだ。
温泉の効果、なんて訳があるはずもないだろう。
「全く人間離れしてきたな」
シロナ等もかなり傷の治りが早かったが、この世界特有の何かがあるのだろうか? そうだとしたらまた一つこの世界の謎が増えることになるだろう。
一週間ぶりに執務室に戻ってきたら、机の上の書類がだいぶ片付いていた。流石、政務庁と《英知》だ。俺が仕事するより全然良いんじゃないか?
「流石です、我が王、暇を出したつもりが、英雄を連れてくるとは」
「お前のイヤミも久しぶりだな」
目の前にはクラウザーの姿があった。最近は双方とも忙しすぎて話すことすら出来なかったのだ。
その長い金髪を揺らし、にこやかな表情を浮かべていた。
「イヤミ? とんでもない。あの時賭けに出て良かったと思ってますよ」
こっちは結構必死にやってたのに、賭けとか言われるのはちょっと引っかかるものがあるな。
「そうかい、勝ち馬に乗れてよかったな」
「ええ、これからもどうぞよろしくお願いします」
崩さない笑顔が全くイヤミなやつだ。
「で、何か用なのか?」
「ええ、この少女についてです」
その瞬間、部屋の外からものすごいスピードでこちらに突進してくる。
そんな行動はおっさんの子供たちで慣れている。英雄達の王である俺が、安易に突進を受ける訳もない。
と思っていたが、思ったより突っ込んできたのが大柄で、避けれもせず、俺はその存在の突進を受けてしまう。
「会いたかった!」
俺の腹には青色の髪の少女が突っ込んでいた。
「フロン?」
そこには、謎の洞窟で見つけた謎の青髪の少女の姿があった。
白いワンピースを着ている彼女は、スカートなど気にせずにアグレッシブな動きでこちらに突っ込んできていた。
「ええ、この少女についてです」
まるで匂いを擦りつけるようにして俺の体に突っ込んでいる。
太陽の匂いがすると同時に、メリメリという音がしているが気にしない方が良いだろう。
「何か分かったのか?」
なんとかフロンを体から離す。残念そうな顔をしているが、これ以上やられると治った俺の体がまた壊されるのはまずい。
「分からないということが分かりました」
「は?」
肩をすくめるクラウザー。その顔には少しの疲れが見える。国のトップに近いこの男が調べられないということは、ほぼ不可能に近いということなのだろう。
「全く分かりません。青色の髪の子供なんて聞いたこともないですし、近隣の村等に調べましたが少女の情報はなしです」
「八方塞がりか」
未だ抱きついているフロンはどしたー? という雰囲気でこちらを眺めている。
あまり膨らみのない胸だが、少女らしい体つきだ。離そうとしても訳の分からない程強い力で抱きつかれられているので、俺は直ぐに諦めることにした。
「ええ、称号持ちではなさそうですし、安全なんじゃないですか?」
「おいおい、適当だな」
まぁこんな少女に警戒を持てというのも可笑しな話だが。
「本来もっと慎重に行くべきなんでしょうが、どうしてもこの少女には敵意と言いますが、害意みたいなものを抱けないんですよね」
あの常に人を疑っているようなクラウザーがそんな風に言うとは相当だな。
「本当にお前は何なんだろうな?」
「私? フロンだよー」
ユウヤ以上にほんわかしている。全く謎の存在だ。
「で、ひとつわかったことがあります」
「何だ?」
「王から離れるのを嫌がるみたいです。王が温泉に行っている間、夜泣きが酷かったのです」
「は?」
「よっぽど好かれているみたいですね」
全く意味が分からん。彼女の存在が全く分からない。
未だ抱きついているフロンを見ると、こまけぇこときにすんなよー、という表情をしていた。
そんな笑顔を見ているとなんだか深く考えるのがバカらしくなってくる。
「まぁ良いや、フロンのことに関しては俺で何とかするわ」
「そうして頂けるとありがたいです。刺客である可能性もなくはないのですが」
「まぁ、後で《暗闇》にでも見せてみようか。あいつなら何かわかるだろ」
疑ったってどうしようもない。彼女が敵なら倒すだけだ。まぁそれはちょっと想像できないが。
「で、次が本題です」
一気に真面目な顔になる。きっとフロンはおまけ程度なのだろう。
「そのことについては僕から言おう」
いつの間にか、そこにはキースの姿が。いや、茶色の髪も強気そうな目も一緒だが、キースにはない余裕みたいなものがある。
「ギースか」
「お久しぶりですね」
「前置きは良いぞ、さっさと本題に入ってくれ」
「畏まりました。先に出ていた使者がそろそろヒノモトに着く頃でしょう。王にもこのあとすぐ出て貰いますので、二週間程の旅になるかと思われます」
この世界の大きさはどうなんだろう? ヒロノキアがほぼ世界の中心付近、そこから海路で東の果てであるヒノモトまで二週間程、地球よりはかなり小さい気がするが、どうなのだろう? まぁ距離とか良くわからんからなんとも言えないが。
「使者には、今後のこと、《武神》について、その他にも様々なことを話すように伝えてあります。また、王が後から行くことも」
そこらへんの下準備はもうできているということだろう。
抱きついたフロンがつまらなそうに話を聞いている。
「分かった」
「で、ここら辺は《英知》様とお話を進めています。《魔神》以来初の同盟ですから、慎重に進めています。どうすれば我々の利益が最も高くなるかをですね」
ここら辺の話はさっぱりだ。俺としてはヒノモトの王様は嫌いでもないから、気持ちの良い関係を築きたいと思うのだが、国の話はそう簡単にはいかないのだろう。
「そしてここから先ですね。ヒノモトの古代兵器についてです」
「古代兵器?」
この世界にはなんだか似合わない単語だ。古代の兵器がなぜ驚異なのか?
「ええ、太古の兵器」
「はぁ?」
「まぁ、そこらへんは《暗闇》様に任せますが、王にも目を光らせて欲しいのです。なんでもその古代兵器は世界すら滅ぼせるとのことですから」
世界を滅ぼす? 《武神》に匹敵するということだろうか? そんなのがこの世にあるというのだろうか?
「その兵器の詳細は全く分からないってことか」
「ええ、噂だけが一人歩きしています。まるで称号持ちのようにね」
「で、そんなの調べてどうするんだ?」
「どうするって、こちらが所有出来たらすごくアドバンテージじゃないですか?」
ニヤリと笑うギース。その姿はまるで昆虫のような、何か気味の悪い雰囲気を感じる。
「ギース、まぁ甘いことを言ってるんだろうけど、それはあんまり褒められたことじゃないな」
「なりふり構ってられないんだよ、いつ《武神》が攻めて来るかも分かんねぇんだぞ? 国が滅びるかもな」
そんな俺を戒めるように強い言葉を使うギース。だが俺もここで引くわけにはいかない。
「知らねぇよ。人のものを奪って、今を生き延びても、この先今度は俺たちがアストガルドになるだけだぞ。二番目の世界の敵にでもなりたいのか?」
「そのときは僕が二人目の《魔神》になるだけですよ。そうでもしなきゃ世界は救えない」
まっすぐとこちらを見るギースには、強い光が宿っていた。
「分かったよ、でも俺が判断する」
ギースの言うことも分からないでもない。こちらの、俺の判断で行うのが一番だろう。まぁ俺が判断を間違える可能性もなくはないのだが。
「良い答えを出してくれることを祈ってますよ」
「はいはい、汚い話はここまでにしましょう。ほら、ヒノモトはもしかしたら王にとっては馴染み深いかもしれませんよ。温泉が懐かしいということはね」
「へぇ」
クラウザーが空気を変えるように明るい声でそう言った。
名前からして色々親近感を覚えていたが、やっぱり名前通りの国なのだろうか?
「きっとヒノモトの王とも友好な関係を築けると思いますよ」
「そうなると楽だな。そう言えば、ヒノモトに居る異世界人って、どんな人間なんだ?」
「あ、まだ伝えてなかったですね。ヒノモトには十年以上前から異世界人が居ました」
「マジか、その人が初代以来の異世界人ってことか?」
「そうなります。その名は《剣製》、我が国の英雄、《剣聖》や《閃光》の師匠にあたります」
「は?」
俺はその話に驚きを隠せなかった。
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「あーだりぃ」
星々が輝く夜の中、男は自分の家の庭を眺めながら、横になっていた。
空にはまん丸の月が星々に負けない程輝いていた。
「ふぁ」
だるそうに、体中の力を抜き、冷たい床に体を全て預ける。
甚平のようなものを着て、無精ひげを生やした男は四十代ぐらいの疲れた顔の日本人だった。
その背後には日本らしい畳が敷かれており、そこには五本の刀が無造作に投げられていた。
「おーよしよし」
傍らに来た猫を撫でながら、だるそうに空を見上げる。
まるで世界全てを諦めたような男は、再度あくびをひとつ。何度目か分からないあくびだ。
庭にはススキが風に揺れ、右に左と揺られている。
「団子でも作らせれば良かったか」
酒のつまみに何かあれば良いと思ったが、まぁ月を肴に飲めば良いかと思い直し、徳利を傾ける。
日本酒が男の喉を通ると、喉が少し熱を持つ。
最近は技術も上がり、酒も味が格段に上がっていた。昔は雑なものが多かったと男は懐かしがる。
ゆっくりと時間が流れていく。男はこの時間がとても好きだった。元の世界にも似たこの国は、男には
すごく合っていた。
「この国以外だったらしんどかっただろうなぁ」
そんなことを話しながら、唐突にこの国来た後に出会った少年と少女を思い出す。
「やべぇ、なんか面倒くさくなりそう」
脚をかきながら、そんなことを呟く男だった。




