暗闇のフロンティア8
「なっ!? 《暗闇》!?」
だが正面の少年は俺が驚く余裕すらも与えてくれないようだ。
真っ直ぐに低くこちらに突っ込んでくる少年。その手にはいつの間にか二本のナイフが握られていた。
「戦闘態勢!」
その声で一気に思考を入れ替える。体を戦闘へと向ける。
まっすぐこちらに向かってくる少年、俺と少年の間にゲイルが割り込む。
「私が相手よぉ」
凄まじい速度でゲイルへと突っ込むユウヤ。
巨体と青年がぶつかると思った瞬間、ユウヤの姿は消えていた。
「どういうことぉ?」
俺もゲイルも目を離していない。アウラやキースなどもユウヤの姿を見失っていた。
家とゲイルの間には何もない。全くの平地だ。だから見失うハズなどないのだ。
なのに、どこにも少年の姿はなかった。
辺りを見渡してもどこにも姿がない。存在が消えてしまった、まるで幽霊のように。
「どうしてぇ!?」
そう思った瞬間、ゲイルの背中は切り裂かれていた。
しかし、その切り裂いたはずの犯人の姿は見えない。
「ちょっと待てやばいぞこれ」
「アウラ!」
「だめ、僕の目でも追えない。多分速度じゃない」
最も早いアウラが目で追えないということは、これはスピードで起こしているということではないということだ。それか、アウラよりも素早いかだ。
その時点で俺たちはほぼ勝目がなくなる。
「ゲイル!」
「大丈夫よ」
背中は服ごと切られているが、厚い筋肉が刃を阻んだらしい。
もう一度辺りを見回す。でもユウヤの姿はどこにもない。
「チッ」
体中は痛いがしょうがない、ちょっと鞭打って動くことにする。
「ちょっと揺らすぞ」
俺は地面を足で叩いた。
震脚、《武神》が行っていた技の劣化版だ。今の俺に相手を崩すほどの威力は出せないが、移動の邪魔をするぐらいならできる。
地面の揺れでブレたのか、ユウヤの姿が視界の端に映る。
一瞬だ、たった一瞬の隙だが、《閃光》の早さなら、一瞬あれば十分だった。
「もらった!」
アウラの拳がユウヤへと当たる。
しかしその拳はまるで煙に巻かれたように避けられてしまう。
「消えた!?」
またもやアウラの目の前から消えたのだ。
「どこだ!?」
ありえない。人間が目の前から消えるなんて。いや《武神》ならできた。ということはこの少年も《武神》と同レベルということか?
「お兄ちゃん、分かった。早くないけど、死角移動がうまい」
「は?」
死角? 見えづらいということか? でもこっちは、五人だぞ? その五人全員の死角に入っているということか? そんなのありえないだろ。
「でもそうみたいねぇ、意識すればなんとなくは感じるわ」
確かに気配はなんとなく分かるが、誰も視認できないなんて。どんなレベルの動作をしているんだ?
「集まるぞ、死角を消せ」
俺たちは一箇所に集まる。本来であれば一網打尽の危険があるので危険だが、これだけの人間が一気にやられるのはありえないだろう。
村の中央、開けた場所に円状に集まる。
周りには少年の姿はない。
「クソがッ! めんどくせぇな! そのまま死ねば良かったんじゃねぇのか! ああん!?」
正面にはユウヤ、さっきまでの呑気な雰囲気は全くない。
「話し合いしようぜ」
「無理だよッ! ばぁかッッ!!」
再度影へと消えるユウヤ。
だが、この状況、どこにも死角はない。であれば、攻撃されることはない。
「なっ!?」
そう思っていたのだが、思わぬところからユウヤの攻撃は飛んできた。そう頭上からだ。
「クソッ」
太陽に隠れ、攻撃の出処が分からない。完全に出遅れた。アウラもキースもその攻撃に対処ができない。
俺が前に出て、壁になるしか。
「ダメよぉ、攻撃は全部私のもの!」
だが俺が出るより前にゲイルが攻撃を阻む。真上からの攻撃をその太い二本の腕で遮る。
「チッ、なんですかぁ? その肉だるま、ちょっと邪魔なんだけどぉ?」
「邪魔扱いはイヤね、本当に悲しいわぁ」
その太い腕から赤い血を流すゲイル。
「気色悪ぃな! んだ? この化物はよぉ」
「乙女に化物って酷くないぃ!?」
安心しろゲイル、お前は立派な化物だ。
「リューマちゃんたちは下がってなさい、どうせ怪我で満足に動けないだからぁ」
確かにゲイルの言うとおりだ。少し動いて見て分かった。今の体は不調なんてレベルじゃない。好調時の半分程度しかない。
「そうだよ、最近出番もなかったし、僕に任せなよ」
キースとゲイルが正面へと出る。
「やれんのか?」
「当然!」
キースは、ゆっくりと前に出る。
「二人共、『気をつけて』」
夕実がスキルを発動させる。夕実のスキルの素晴らしいところはこんな曖昧な言葉でも、本人が意識すれば効果が発揮されてしまうということだ。
「お二人で仲良くってかぁ!? 化物とションべ臭いガキかよ、さっさと死んでくれないですかねぇ!?」
そのまま二人で少年へと向かう。
二人の猛攻が少年を襲う。肉弾戦が主な二人は、その拳と蹴りを少年にぶつける。
だがその二人を嘲笑うように、攻撃の間を抜けるユウヤ。
「結構強いな」
「そうだねぇ、ちょっとまずいかも」
客観的に戦いを見る。二人の攻撃は当たればまずいものだが、全体的に大雑把だ。ユウヤも苦労はするが苦戦はしてないような感じだ。
「うざってぇな! おい!」
流石英雄の一人、一筋縄ではいかない。
二人の攻撃は止まらない。止めてしまえば、一気に死角へとはいられ、二人は気づかない間に切り刻まれるだろう。
「まだまだ行くわよぉ」
ゲイルのラッシュがユウヤを襲う。無数の拳がユウヤを襲う。
「数撃ちゃ当たるってか? これだから脳みそ筋肉はなぁ!」
だがその無数の攻撃もユウヤに全て紙一重で避けられる。
「狙ってやがるな」
全ての攻撃を狙って紙一重で避けているそれほど自分の感覚に自信を持っているのだろう。
「『オーバークラッシュ』」
そんなユウヤの動きを阻害するため、キースが地面を破壊する。
キースの拳が地面に触れると、まるで地割れのように地面が崩れていく。
「あいつのバカ力もやばいな」
スキルとは言え、本来は自分の技術だ。スキルの威力はステータスに依存するから、これほどの破壊が起きるってことは、キースの力が尋常じゃないということだ。
地面が崩れ、地下へと落ちていく。
二体一の乱戦だ。乱戦になればふたりの方が有利だ。あそこまで引っ掻き回せば当たれば勝ちのこちらが有利だ。
「うざってなぁ、全くよぉ! クソカスどもがぁ!!」
地下から叫び声が聞こえる。
「ちょっと、それは反則じゃない!?」
その叫び声のあと、大きな地割れからは大量のクナイが放たれた。
「なんじゃこりゃ」
数十本のクナイが地割れから空に向かって投げられている。
「おい大丈夫か!」
「穴だらけよぉ!」
うん、大丈夫そうだな。
地割れから出てきた二人はまるで針山だ、全身にクナイが刺さって、血だらけになっていた。
「このクソカスボケがぁ! この俺様を煩わせるんじゃねぇ! クソクソクソククソクソがぁ!」
まるで嵐だな、己の感情を隠そうともせず、まるで自分の湧き出る怒りに身を任せているようだ。
ユウヤの右手がダランと垂れているところを見ると、どちらかの攻撃が腕に当たったのだろう。二人の一撃はちゃんと防御をしなければ腕ごと持っていかれる。
というか暗殺者ってこんなんで大丈夫なのか? 前にあった刺客はもっと静かな感じだったが。
「てめぇらは全力で殺す。確実に確定的に、最悪に殺すッ!!」
いつの間にかユウヤの手には大きな鎌が握られていた。
暗殺者に鎌ってなんかアンバランスというか、あんなに大きな鎌を何処に隠していたのだろう? というか、あの大量クナイだってどこから出てきたか分からない。
「全員、全部で皆殺しだなぁ!?」
「あら大変、ちょっとまずいかも」
あの鎌はまずい、濃厚な死の予感というか、死の匂いを感じる。
「おい、ゲイル、ちょっとどうにしないと」
身長ほどもある鎌がゆっくりと構えられる。
流石に素手であれはどうしようもない。というか、篭手も装備してない俺にはどんな武器でも退けられない。
地面に水平に巨大な鎌が構えられる。
その巨大な鎌は、俺たち全員の首を落とすことが可能だろう。
「死に晒せ、ドクソどもがぁぁぁぁぁ?」
「はい、そろそろお休みね」
アウラの正確な一撃が、ユウヤの顎を捉えた。
大技にはどうしても隙ができてしまう。このメンツで隙ができるというのはそれだけで命取りだ。全員を一気に倒そうとして、欲張った結果、アウラを視線から外してしまったのだろう。
《閃光》から目を離せば、次の瞬間からその姿を捉えることはできない。
ゆっくりとその体を沈める。
「全く、最高のタイミングねぇ」
「まぁ、けが人の僕ができるのなんてこれぐらいだからねぇ」
「ったく、僕の高貴な体が穴だらけだ」
「私だって美しい体が血だらけよぉ」
体中をクナイだらけにしながら立っている二人。どうやら思った以上に傷は深くないようだ。
「ほら、これで縛れ」
先ほどの武器庫にあった鎖を二人に渡す。
「あらいけない感じ」
真っ黒な鎖でユウヤを縛り付ける。
健やかな顔で気絶しているユウヤ、全くこいつはなんなのだろう?




