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ポスドクは異世界イングランドで無双する  作者: 橋平 礼


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鉄槍の衝角

戦闘は、バルバロスの予想を遥かに超える展開となった。


 エース率いる魔改造艦隊は、オスマン側のガレー船が放つ矢や火矢を、蒸気機関による高速移動で容易に回避。さらに、長距離からの正確な「魔導ライフル砲」によって、近づく前にオスマン船を次々と撃破していった。


「馬鹿な……。奴らの船は、風を無視して動いているのか!?」  バルバロスは、旗艦の甲板で叫んだ。彼の「経験」に基づいた風や潮の読みは、エースが持ち込んだ「熱力学」と「運動方程式」の前に、何の意味もなさなかった。


 夜が訪れ、闇夜に紛れて勇敢なオスマン船が接舷を試みようと近づいてきた。だが、それこそがエースの「罠」であった。


「全艦、機関全開。衝角ラム突撃開始。……ターゲットは、敵艦の脇腹ラダーだ」


 エースの号令と共に、30隻の鉄の巨獣が咆哮を上げた。蒸気と魔力の混合エネルギーによって、限界を超えた速度で突進するイングランド艦。

 ドォォォォン!


 凄まじい衝撃音と共に、船首の「鉄槍」が、オスマンのガレー船の脇腹に深く突き刺さった。それはまるで、砕氷船が厚い氷を砕くように、木造の船体を真っ二つに切り裂いた。  


 悲鳴、怒号、そして船が砕ける音が、イオニア海の闇を切り裂く。バルバロスの誇りであったガレー艦隊は、エースがもたらした「物理的破壊力」の前に、ただの木屑と化していった。


 2日間にわたる戦闘は、イングランド(スペイン)艦隊の圧倒的な勝利に終わった。122隻のうち、生き残ったオスマン船はわずか数隻。伝説の提督バルバロスも、自らの「海賊の誇り」が、新しい時代の「論理」に敗北したことを認めざるを得なかった。


「オリバー。これで、コンスタンティノープルへの道は開かれた」

 エースは、炎上するオスマン艦隊を眺めながら、静かに言った。 「バルバロスを倒した『力』こそが、スレイマン1世との交渉における、最強の外交カードだ。……さあ、次は東方の黄金の都で、僕たちの『標準化スタンダード』を承認させに行こう」


 イオニア海の波間に浮かぶ、砕かれたオスマンの三日月旗。


 エース・ランカスター。  


 その名が地中海全域に覇権を示す日は、もはや秒読みの段階に入っていた。  


 旧時代の英雄(海賊)が去り、新時代の覇者(物理学者)が、歴史のキャンバスを鮮やかな青写真に沿って塗り替え始めていたのである。

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