イオニアの赤い髭
地中海の蒼き海原に、オスマン帝国の「黄金期」を象徴する巨大な影が差していた。赤髭こと、元海賊にしてオスマン帝国の提督、バルバロス・ハイレッディン。彼はスレイマン1世の信任を受け、ヴェネツィア支配下の島々を次々と攻略。エーゲ海、イオニア海の制海権を完全に掌握しつつあった。
(バルバロス。……彼は単なる海賊ではない。地中海の潮流、風、そして人間の心理を読み解く、天性の『気象物理学者』だ。彼を倒さなければ、オスマン帝国は大ブリテン連邦を対等な『力』として認めない)
エース・ランカスターは、ロンドンの司令室で、地中海の立体地図を解析していた。バルバロス率いるオスマン艦隊は、大小122隻のガレー船と20,000人の熟練兵。数において、エースが用意した「スペイン無敵艦隊(魔改造済)」30隻は、圧倒的に不利であった。
だが、エースは不敵に笑った。
「オリバー。バルバロスの『経験』を、僕たちの『論理』で上回る。……スペインの旧態依然とした巨艦を、分子レベルで再構成した、僕の最高傑作を見せてあげるよ」
エースがスペイン無敵艦隊に施したのは、悪魔的な「魔改造」だった。
かつての鈍重な巨体は、ワット製の高効率蒸気機関と帆を組み合わせたハイブリッド型(スクリュー併用)へと換装され、異次元の機動力を獲得。さらに、船の先端(船首)を、特殊合金で作られた巨大な「鉄槍」のように尖らせ、突撃によって敵艦を物理的に破壊する「衝角」戦術に特化させていたのだ。
イオニア海の濁濤の中で、二つの巨大な意志が激突した。
バルバロスは、イングランド艦隊の少なさを嘲笑い、ガレー船特有の「群狼戦術」を展開。数に物を言わせて包囲し、接舷白兵戦で一気に決着をつける構えであった。




