東方の超新星 ――スレイマン1世と「黄金期」の威容
大西洋をその掌中に収めたエース・ランカスターの元に、東方からの報せが届く。地中海を自らの「湖」と呼び、バルカンから北アフリカ、中東に至る三大陸を席巻する巨大な影――オスマン帝国。その頂点に君臨するのは、立法者にして「壮麗王」と称えられるスレイマン1世であった。
(……オスマン帝国。歴史上、これほどまでに洗練された『多民族共生システム』を構築した国家は珍しい。中央集権的な専制を持ちながら、内部には驚くほど寛容な自治を許容している。魔導物理学的に言えば、高圧を維持しつつ各分子の自由運動を妨げない、理想的な流体構造だ)
エースはロンドンの司令室で、オスマンの法典の写しを解析していた。スレイマン1世は、複雑に絡み合った帝国全土の法を整備し、カピチュレーション(通商特権)を通じて欧州諸国との経済交流を戦略的に進めている。
オスマンの強さは、その「複合性」にあった。支配層のトルコ人を中心に、アラブ、ギリシア、スラヴ、ユダヤといった多様な民族が、一つの巨大な「歯車」として機能している。地中海の制海権を掌握したオスマン海軍は、かつてスペインの無敵艦隊を壊滅させたエースにとっても、決して無視できない軍事的脅威であった。
だが、エースが最も注目したのは、その「統治の質」である。
「単なる武力による圧政ではない。彼らは『情報の多様性』を統治のエネルギーに変えている」
エースは、東方の巨人が作り出した「パクス・オトマニカ(オスマンの平和)」の正体を暴くべく、クロムウェルを伴い、地中海の要衝へと視線を向けた。




