エメラルドの会戦 ――ニューモデル軍の上陸と予兆
荒れ狂うアイリッシュ海を越え、鉄の咆哮を上げる蒸気艦隊がアイルランドの東岸、ダブリンへと入港した。
艦隊から降り立ったのは、オリバー・クロムウェル率いる『ニューモデル軍(新模範軍)』。エース・ランカスターが生産魔法と近代戦術の粋を集めて鍛え上げた、異世界最強の軍事組織である。
当時のアイルランドは、カトリック同盟が実権を握り、イングランド内戦で敗走した王党派(国王派)と手を結んでいた。彼らにとって、エリザベス女王を戴き、魔導物理学で急速に膨張するイングランド連邦は、信仰と伝統を破壊する「悪魔の帝国」に他ならなかった。
(史実のクロムウェルは、ここで残忍な虐殺と徹底的な土地没収を行い、数世紀にわたる憎しみの種を蒔いた。だが、それでは『論理』が通らない。憎しみは反乱という名のコストを生み、生産性を著しく低下させるからだ)
上陸を前に、エースはエリザベス、クロムウェルの三者による極秘会談を行っていた。
「オリバー。アイルランドの兵を無闇に殺すな。土地の没収も最小限に留めろ。僕たちが欲しいのは焦土ではない、機能する領土だ」
「……しかしエース、それでは連中の反抗心を削げない。力を見せつけねば、奴らは何度でも背後から牙を剥くぞ」
クロムウェルの懸念に対し、エースは冷徹な「羈縻政策」を提示した。
「現地の有力者をそのまま官吏に任命し、内部自治を認める。ただし、その背後に僕たちの『監視網』と『経済的依存』を植え付けるんだ。彼らが僕たちを裏切れば、翌日から食料も魔力触媒も届かなくなる……そんな、首輪のない鎖で繋ぐのさ」
戦いは始まった。カトリック同盟と国王派の連合軍は、古き騎士道と魔術を頼りにニューモデル軍を迎え撃った。だが、エースが開発した『長距離通信魔石』による連携と、ワット製の『魔導野戦砲』の圧倒的な火力の前に、連合軍の陣形は瞬く間に崩壊した。
しかし、勝利したクロムウェルは、かつての彼ならあり得なかった行動を取った。降伏した将兵を一人も処刑せず、むしろその日のうちに温かい食事と、イングランド産の清潔な外套を支給したのだ。
「――これが、新しいイングランドのやり方だ。死にたくなければ、我らの『繁栄』に従え」
クロムウェルの低い声が、戦場に響いた。恐怖ではなく、圧倒的な「格差」を見せつけられたアイルランド兵たち
は、戦う意欲を霧散させていった。




