クロムウェルの豪胆
「ウォリック伯とモンターギュ侯は、すでにこちらに付いております。ヨーク閣下、貴方はどういたしますか?」
クロムウェルの低い声が執務室に響く。ヨーク公は激昂し、机を叩いた。
「不遜な! 乗り込んでくるとは度胸があるな。こちらには現王エドワード4世という『大義』がある。反乱軍はお前たちの方だ!」
クロムウェルは、冷徹な笑みを浮かべた。
「大義、ですか。……では、そのエドワード4世閣下が、こちらに付いたとしたら、閣下はどういたしますか?」
「何を馬鹿なことを。あり得ん!」
「左様ですか。……では、しばらくお待ちを。歴史が動く音を聞かせて差し上げましょう」
その瞬間、執務室の重厚な扉を激しくノックする音が響いた。
「ヨーク閣下! 至急、至急の連絡がございます! 王城からの急使です!」
同席していたモンターギュ侯が、わざとらしく「席を外しましょうか」とヨーク公に話しかけた。彼はすでにエース側に買収されているか、あるいは圧倒的な武力差を悟っていた。
届けられたのは、国王エドワード4世の親書。
そこには、ヨーク公に対する「武装解除の命令」と、「エリザベス・テューダーへの全面協力」という、屈辱的なまでの降伏宣言が記されていた。 ヨーク公の顔から血の気が引いていく。
「な……なぜだ……。あの国王が、これほどまでにあっさりと……」
「閣下、これが『論理』です。貴方が剣を磨いている間に、我らは世界そのものを書き換えたのですよ」
クロムウェルは、エースから授かった戦術を脳内で反芻した。
戦わずして勝つ。
それは、エースが提唱する「魔導物理学的統治」の真髄だった。
ヨーク公が力なく椅子に座り込む。イングランドを二分するはずだった内乱の芽は、エースが仕掛けた「バラの心理戦」と「情報の制圧」によって、一滴の血も流されることなく摘み取られた。
「……わかった。争いは、終わりだ。イングランドの未来を、貴殿らに預けよう」
この夜を境に、イングランド全土のパワーバランスは完全にランカスター派――というより、エース・ランカスター個人へと集約された。
エリザベスが名目上の女王となり、ワットが富を支え、クロムウェルが法と軍を司る。
エースは影の中から、かつてポスドクとして夢見た「完璧なシステム」を、国家というスケールで動かし始めた。
「スコットランドとアイルランドの統合……。さて、次の数式に取り掛かろうか、アンナ」
「はい、エース様。どこまでも、お供いたしますわ」




