近代戦術と外交
数年後、エースとクロムウェルは学園を卒業した。その後、クロムウェルが密かに育て始めた「新模範軍」は、ランカスター領の辺境でその産声を上げた。
クロムウェルが選抜した兵士たちは、これまでの騎士たちとは明らかに異質だった。彼らは戦場での略奪や暴行を禁じられ、代わりに毎日、神への祈りと厳しい集団教練を課された。
エースはそこに「近代戦」のエッセンスを注入した。
(単体で突撃させるのは無駄だ。生産魔法で作った『通信魔石』による連携。防刃、防弾の強力な兵服。そして闇魔法を用いた『夜間奇襲』。これらを組み合わせた『諸兵科連合』を構築する。)
クロムウェルはこの新しい戦い方に驚嘆した。
彼は持ち前のカリスマ性で兵士たちを鼓舞し、「我らの勝利は神の勝利である」という無敵のドグマを植え付けた。彼らはもはや一兵卒ではなく、エースが描く未来の設計図を具現化するための、生きた部品となった。
「エース、次は外交だ。隣国のヨーク家が、エリザベス様の復帰を快く思っていない連中と手を組もうとしている」
クロムウェルの軍事知識は、そのまま冷徹な外交能力へと転化された。
彼はエースが構築した『通信魔石』の連絡網を駆使し、敵対勢力の内部情報を手に取るように把握した。『瞬間移動』とセバスチャン(久しぶりの登場)の暗殺術による、敵の首領の暗殺という、必殺技もある。
懐柔すべき相手にはワットの事業で得た莫大な「金」をちらつかせ、屈しない相手には「信仰に燃える鉄騎兵」の影を見せる。飴と鞭を、物理法則のように正確に使い分けるクロムウェルの手腕。
エースは彼を「最高の外交官兼将軍」と評し、全権を委ねた。
「オリバー、外交の基本は『相手に拒否権を与えないこと』だ。論理的に見て、彼らが降伏する以外に生存の道がない状態を、あらかじめ盤面で作っておいてくれ」 「承知している。……既にヨーク家の重臣三人には、アンナのピクシーを介して『警告』を送っておいた。彼らは明日には、こちらの軍門に降るだろう」
学園という小さな枠を越え、エース・ランカスターの影響力は、イングランド及びアイルランド全土の影の支配者へと膨れ上がっていた。
エリザベスという「盾」、ワットという「富」、そしてクロムウェルという「剣」。
かつてのポスドクは、今や一つの完璧な国家を構成する「知性」そのものとなり、その視線はついに、ドーバー海峡を越えてヨーロッパ全域へと向けられた。
「これで、盤面は整った。……準備はいいか、オリバー」
「ああ、エース。この不浄な大陸を、貴方の論理で浄化してやろう」
イングランドの冷たい風が、二人の少年の外套を揺らす。
はずれ魔法使いと蔑まれた次男坊が、歴史を、そして世界そのものを支配する序曲。
エース・ランカスターの「覇王への道」は、もはや誰も予測できない、そして誰にも止められない神速の行軍を開始したのである。




