表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポスドクは異世界イングランドで無双する  作者: 橋平 礼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/65

事象の地平を超えて

 赤バラの紋章が刻まれたランカスター家の屋敷。その二階にあるエースの私室は、今や一つの「加速器」にも似た濃密な魔力の集積地となっていた。


 五歳のエースは、自身の作業机に置かれた一冊の魔導書を見つめながら、思考の海に深く潜っていた。前世、ポスドクとして量子力学や一般相対性理論の文献を読み漁っていた日々が、今、異世界の魔法体系を破壊し、再構築するための血肉となっている。


(……闇魔法の本質が『空間の圧縮』によるブラックホールの生成であるならば、その対極に位置するホワイトホールの概念も存在するはずだ)


エースの脳内では【超・論理思考】が火花を散らしている。


 ブラックホールが物質を無限に吸い込む「特異点」であるなら、その逆――物質を放出する「ホワイトホール」の概念を魔法術式として定義できないか。そして、その二つを量子もつれのように連結させることができれば。

(アインシュタイン=ローゼン橋……。そう、この世界で誰も成し遂げていない『ワームホール』の形成だ)


それは、世間で「移動魔法」と呼ばれているものとは根本的に異なる。


 通常の移動魔法は、肉体を高速で移動させるか、あるいは四大属性の「風」や「光」を利用した疑似的な高速移動に過ぎない。だが、エースが目指すのは「距離そのものをゼロにする」という、空間構造への直接介入だった。  

前世で夢見た「どこでもドア」のような移動手段。それは、座標と方向さえ正確に定義できれば、大陸の端から端までを一瞬で繋ぐことができる究極の効率化だ。


「……まずは、スカラー量の定義から始めよう」


エースは羽ペンを走らせる。前世の知識を利用した数式が、魔法の構造式として紙の上に展開されていく。


 生産魔法で培った「構造把握」の力で、自分を取り巻く空間の「ブレーン」を観測する。闇魔法のレベルが5になったことで、空間に極小の「ひずみ」を与えることが可能になっていた。  神聖魔法で自身の精神を安定させ、暴走を防ぐ。神聖魔法の「秩序を保つ」という特性は、不安定な空間操作において強力な安全装置セーフティとなった。


(ターゲットは、この目の前の本。目的地は、部屋の外……廊下の突き当たり。直線距離にして約十メートル。座標軸を設定。ベクトル固定)


エースは立ち上がり、静かに右手を伸ばした。


 通常、この世界の魔法使いは定型化された古代語の呪文を唱える。しかし、エースはそのプロセスをスキップし、自ら定義した術式に名前を与えることにした。


 その名は、前世のSF作品や科学用語への敬意を込めたもの。


「呪文名は……『瞬間移動テレポーテーション』でいこう」


 彼にとっては、これは単なる魔法ではない。魔導物理学における「空間転移プロトコル」の実行だった。


 エースは深く息を吸い込み、魔力を一気に解放する。


 小さな五歳の体から放たれるのは、構造変換効率が極限まで高められた、純度の高い魔力。


「――テレポーテーション!!」


短く、しかし明確な意志を込めた言霊が放たれた。


 瞬間、机の上の本を包み込むように空間が歪み、まるで水面に落ちたインクが消えるように、本の存在がその場から消失した。  直後。


――ドサッ!!


 部屋の扉を隔てた向こう側、廊下の床に重厚な物体が落ちる音が響いた。


 エースの顔に、前世の研究室で初めて望んだ実験結果を得た時のような、狂おしいほどの歓喜が広がった。


「成功だ……。空間のひずみを利用した転移。これこそが、僕の魔法だ」


はずれ魔法とされた「生産」「闇」「神聖」の組み合わせ。  それらが論理的に結合した時、既存の「火」や「風」の魔導師が一生をかけても到達できない、神の領域への扉が開かれたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ