頼もしい仲間・・・・・か?
心臓の鼓動が早まる。冷や汗が背中を伝う。
レベル88? 帝国暗黒騎士団長? 意味がわからない。
私の父であるヘンリは退役軍人の准男爵だが、その執事がなぜ、一国の軍事バランスを一人で崩壊させかねないような「生ける伝説」のステータスを持っているのだ。
しかも、彼は【隠蔽】スキルを最大レベルで発動させている。私が今見ているのは、その鉄壁のセキュリティを、神から授かった『はずれ魔法(闇・生産)』のハッキング権限で強引にこじ開けた「裏の顔」なのだ。
恐る恐る顔を上げると、そこにはいつものように、完璧な角度で一礼し、穏やかな微笑をたたえた初老の紳士が立っていた。しかし、今の私には、その背後にうごめく巨大な漆黒の「闇魔法」の余韻が、はっきりと視えてしまう。
「エース様、どうかしましたかな? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされて……。あるいは、私の顔に、何か『面白いもの』でも書いてありましたか?」
セバスチャンの声はどこまでも優しく、どこまでも冷徹だった。
その瞳の奥が、一瞬だけ、捕食者のように鋭く光った気がした。
(やばい、感づかれたか……!?)
「あはは……。な、なんでもないよ、セバスチャン! 先生の顔があんまり素敵だから、つい見とれちゃったんだ!」
私は精一杯、幼児特有の「無邪気なごまかし」を披露した。
内面は完全にパニック状態だが、長年のポスドク生活で培った「学会の偉い教授からの理不尽な質問を笑顔で受け流すスキル」がここで役に立った。
「それはそれは。エース様にそう言っていただけるとは、老骨に鞭打って教鞭を執る甲斐があるというものですな」
セバスチャンは満足そうに目を細めたが、私は確信した。
この男には、絶対に逆らってはいけない。
(……決めた。この家で一番安全な場所は、父の執務室でも兄の背中でもない。この『最強の怪物』の懐だ。これからはセバスチャンを、私の研究のスポンサー……いや、絶対的なガーディアンとして懐柔することに全力を尽くそう)
私は震える手で、再び歴史書を開いた。
目の前のバケモン執事のステータスに刻まれた「闇魔法」の項目。それが、世間が忌み嫌う『はずれ魔法』の真の姿なのだとしたら。
(……汚名返上、か。神様、アンタがくれたミッションは、想像以上にハードモードみたいだぜ)
二歳のエースは、自身の寿命を数十年縮めるようなスリルを感じながら、最強の執事と共に「魔導の深淵」へと足を踏み入れていった。




