セバスチャンのステータス
二歳の知性というものは、本来、積み木の色を判別したり、拙い言葉で親の気を引いたりすることに費やされるべきものだ。
しかし、中身が二十年間の研究生活で「既知の事象」を疑い、「未知の領域」を暴くことに魂を売った元ポスドクである私にとって、図書室の静寂は格好の実験場であり、目の前の老執事は最高の解析対象だった。
私は、自分のステータスを暴いた際の手応えを脳内で反芻していた。セバスチャンは「自分のステータスしか見れない」と言った。だが、それはあくまで「一般向けに公開された仕様」に過ぎないのではないか?
(……理論的に考えてみろ。ステータスとは、魔力という生体エネルギーが保持する情報の出力だ。ならば、他者の放つ微細な魔力の波動を傍受し、こちらの解釈レイヤーでデコードできれば、他人の情報も「視る」ことができるはずだ。パスワードがかかっているなら、それを迂回するパッチを当てるまで……!)
研究者としての「知的好奇心」が、私という幼児の理性を塗りつぶしていく。私は図書室のテーブルに突っ伏したふりをしながら、横に立つセバスチャンの足元へ、意識の触手を伸ばした。
セバスチャンが教えてくれた呪文は『水面に映る月のごとく、偽りなき姿の我が能力を示せ』。
これを「他者観測用」に最適化し、プロトコルを書き換える。
(――『鏡に映る人のごとく、偽りなき姿の人の能力を示せ』)
私は、口の中でモグモグと、乳離れしたばかりの柔らかい舌を動かしながら、論理の牙を剥いた。
(――『ステータス・ハック・オープン』!!)
瞬間、私の網膜を、先ほどとは比較にならないほど激しいノイズが走った。まるで、旧式のダイヤルアップ接続で大容量サーバーに殴り込みをかけたような、暴力的な情報の奔流。
だが、私の脳内にある【超・論理思考】のスキルが、その濁流を瞬時に整理し、一筋のデータへと整形した。
そして、目の前に浮かび上がったウィンドウを見た瞬間、私はあやうく「ばぶっ」と叫んで椅子から転げ落ちそうになった。
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【解析対象:セバスチャン(???)】
項目 / 内容
真名 セバスチャン・モラン(偽名) / ???
レベル Lv. 88称号【元・帝国暗黒騎士団長】【影の守護者】【伝説の殺し屋】
属性適性 闇:極、火:高、風:高
特殊技能 【隠蔽・改(Lv.Max)】【影縫い】【無音の処刑】
戦闘力 測定不能(ランカスター領騎士団全員を数秒で殲滅可能)
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(……は? バケモンかよ、こいつ)




