第89話「悪女は、沈黙の理由を探らない」
決定が動き出して、数日。
城内は、静かだった。
騒ぎがないわけじゃない。
ただ、大きな波にならない。
「反対してた人たち、どうなったのかな」
ルシアが廊下を歩きながら言う。
「動いてるわ」
セレスティアは短く答える。
「表で騒がないだけ」
その日の午後、例の代表と再び顔を合わせた。
以前よりも、表情が柔らかい。
「修正案、通りました」
「よかった」
「思ったより、すんなり」
少し間があって、彼は続ける。
「正直、
もっと押し返されるかと」
「誰に?」
「あなたに」
セレスティアは、かすかに笑う。
「私は、押してないわ」
「ええ。
だから、やりやすかった」
彼は一礼し、去っていく。
ルシアが小声で言う。
「なんだか、距離が近くなってる」
「そうかしら」
「前より、身構えられてない」
夕方、会議室を通りかかると、
扉の向こうから笑い声が聞こえた。
以前なら、張り詰めた空気だった場所。
「変わったね」
「ええ」
セレスティアは足を止めない。
「でも、理由は追わない」
「どうして?」
「探ると、形を崩すことがある」
沈黙にも、理由はある。
言葉にしない選択もある。
悪女は、沈黙の理由を探らない。
問い詰めず、
名付けない。
そのまま置いておく。
夜、書斎で一人。
報告書は淡々としている。
過剰な称賛も、過度な不満もない。
「ちょうどいい、か」
誰かが我慢しているのか、
それとも納得しているのか。
今は、測らない。
動いているなら、それでいい。
セレスティアは窓を閉め、
静かに灯りを落とした。
明日もまた、
静かな調整が続く。
それで十分。




