第88話「悪女は、静かな揺らぎを見る」
決定は、思ったより早く形になった。
前日の会議で置いてきた問いは、
いくつもの小さな修正を経て、
柔らかい案にまとまっていた。
「うまくいきそう?」
ルシアが覗き込む。
「ええ」
セレスティアは書面を閉じる。
「完璧じゃないけれど、
直せる余地がある」
午後、城下から報告が届く。
一部で反発が出ているという。
「やっぱり」
ルシアが眉をひそめる。
「想定内よ」
セレスティアは落ち着いている。
「揺れない決定は、
誰も触れていない証拠」
その日の夕方、反対意見を出している代表が訪ねてきた。
「直接、意見を」
彼は真っ直ぐ言う。
「もちろん」
応接室に通し、向かい合う。
「この案、現場の負担が読みにくい」
「ええ」
「だから、もう少し具体を」
セレスティアは、静かに頷く。
「どの部分が、一番不安?」
彼は少し意外そうな顔をする。
「反論、されるかと」
「今日は、しない」
しばらく話し、
修正案が二つほど浮かぶ。
「これなら」
彼は、ようやく息をついた。
「戻って、再調整します」
帰り際、彼は言う。
「あなたが裏で決めている、
という噂も聞きました」
「ええ」
「でも、違いましたね」
「そう思う?」
「はい」
その背中が廊下に消える。
「誤解、少し解けたね」
ルシアが言う。
「解けなくても、いいの」
セレスティアは窓の外を見る。
大事なのは、
揺れたときに崩れないこと。
悪女は、静かな揺らぎを見る。
反対も、迷いも、
止めない。
揺れているうちに、
形は、少しずつ強くなる。
夜の王都は、今日も灯りをともす。
完璧ではない決定が、
誰かの手で手直しされていく。
その様子を、少し離れて見守る。
それが、今の役割。
セレスティアは、ゆっくりと灯りを落とした。




